19 / 45
第19話【フェアリーの本性】
しおりを挟む
イルセラ邸の三階にある執務室。
エタンセルの西側で起きた大爆発の地鳴りはここまで響いていた。
テーブルに置かれた紅茶入りのカップが落ちて割れ、館全体が揺らされるほどの衝撃波が後から届いて窓ガラスを激しく揺らす。
何事なの!?
イスから立ち上がったイルセラは窓の外を見た。
西側の街中で黒煙が上がっており、人々の悲鳴が聞こえ始めた。
只事じゃないと即座に判断したイルセラはすぐに娘が眠る子供部屋へと向かおうと扉に向かう。
開けようとしたその時「イルセラ様!」とベネディクトが力強くノックしてきた。
イルセラは応じるよりも速く扉を開けると、執事ベネディクトがゼラードを抱いていた。
「ママ!」
「ああゼラード! 良かった……ありがとうベネディクト」
「いえ! しかし今の揺れはいったい?」
「分からないわ。何が起こってるのかしら……」
娘を引き継ぎ抱っこして、イルセラはまた窓の外を見た。
何やら西側の街中で爆発が連続で起きている。
爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発!
至る所にある建物が弾け飛んでいく!
しまいには時計台が斬り崩された!
「こ、これは……」
外の光景を目の当たりにしたベネディクトが絶句する。
それはイルセラも同じだった。
野盗でも侵入したか?
いや、それにしたって派手すぎる。
奴らはもっと静かに事を成す連中だ。
こんな騎士を呼ぶような目立つ行為はしない。
「あ! ママ! フェアリーがいる!」
「え?」
娘が指差した場所は一軒家の屋根。
そこでは火花が派手に散っている。
銀の光が激しく交差しているが、人影らしき者は見えない。
ゼラードは今フェアリーと言ったが、あの火花が散る屋根の上にフェアリーがいるのだろうか?
夜のせいで視界が悪い。
フェアリーは目視できないが、火花が散るその場所はついに建物ごと弾け飛んで破砕した。
すると今度は別の建物の屋根に火花が発生し始め、やがてそこも破砕して消し飛ぶ。
間髪入れず何かが吹き飛び、住宅群の中を貫通していく影が見えた。
それこそ娘が指したフェアリーだった。
彼女はどうやら吹き飛ばされたらしく、何件もの建物を貫通して倒れた。
しかしすぐに立ち上がり何かに向かっていく。
「フェアリー!? あの子なにやってるの!?」
この騒動はまさかフェアリーの仕業か?
フェアリーが人間嫌いだと知っているから、一瞬だけそう疑ってしまった。
しかしフェアリーの斬り結ぶ敵の存在に気づき、距離が近くなったことでようやくそれが見えた。
敵は見たこともない黒い怪物だった。
黒い甲殻に鋭利な爪や牙。そして尻尾を持っている。顔の形状はよく見えないが、赤い瞳だけはハッキリと見えた。
恐ろしいまでの殺気を感じさせる血のように赤い眼だ。
「な! なんなのアレは!?」と驚くイルセラに「分かりません!」と応じるベネディクト。
ゼラードが怖がってイルセラに抱きついてき、イルセラも守るように娘を抱き直した。
フェアリーと怪物の戦闘音がどんどん近付いてくる。
次々とその戦闘に巻き込まれて破壊されていく建物。
その中から慌てて逃げ出してくる住民たち。
そんな彼らを怪物が狙おうとした時、フェアリーがそれを阻止するように割り込んで戦うのが見えた。
フェアリーは住民を守っている!
この騒動の元凶はあの怪物だ!
ようやく事態が飲み込めてきたイルセラはベネディクトに指示を出そうとする。
が、次の瞬間! フェアリーが怪物に蹴り飛ばされ、この執務室の壁を突き破って飛んできた。
ガシャンと派手な轟音が鳴り響き、ガラスが割れて弾け飛ぶ。
その破片からゼラードを守ろうと屈むイルセラ。
そのイルセラを守ろうとベネディクトが自分の背を盾にした。
飛び散ったガラス片は床に落ち、一時の静寂の間に別の足音が駆け上がってくるのが聞こえた。
「イルセラ様!」
開いている扉から現れたのはリズ・リンド。
彼女の眼に先に入って来たのは吹き飛ばされてきたフェアリー。
「フェアリー!」
「リズ!? なにやってるんだ! 早く逃げろと言っただろう!」
イルセラは耳を疑った。
本当にフェアリーが言ったのかと思うほどに口調が変わっていたからだ。
まるで男のような言い方をするフェアリーに冗談の色はない。
むしろ本気で激怒しているように見える。
「く、君主を置いて先に逃げられるわけないでしょう! アタシはもう――」
――リズが言い終える前に、あの怪物がいつの間にか
この執務室に侵入して来ていた。
あまりの速さに誰も怪物の存在に気づいていない。
ヤツはすでにリズの目前におり、人間の皮膚など容易く切断する爪が首を狙う!
その爪を間一髪で弾いたフェアリーは敵を蹴り飛ばし間合いを空けた。
怪物は思わぬ強敵に忌々しい目を向けて爪を構えて直す。
「早く逃げろ! 私がコイツを抑えていられるのも時間の問題だ! 急げ!」
「!? わ、わかったわ! イルセラ様! こっちです!」
リズがイルセラたちを誘導すると怪物がそれを狙って動き出す。
目にも止まらぬ速さで迫る怪物を、フェアリーは二刀流で受け止める。
「お前はジッとしていろ!」
殺意剥き出しのフェアリーは、明らかにいつもと違った。
どこか人を見下したような無礼なフェアリーではない。
これがフェアリーの妖精としての本性なのだろうか。
エタンセルの西側で起きた大爆発の地鳴りはここまで響いていた。
テーブルに置かれた紅茶入りのカップが落ちて割れ、館全体が揺らされるほどの衝撃波が後から届いて窓ガラスを激しく揺らす。
何事なの!?
イスから立ち上がったイルセラは窓の外を見た。
西側の街中で黒煙が上がっており、人々の悲鳴が聞こえ始めた。
只事じゃないと即座に判断したイルセラはすぐに娘が眠る子供部屋へと向かおうと扉に向かう。
開けようとしたその時「イルセラ様!」とベネディクトが力強くノックしてきた。
イルセラは応じるよりも速く扉を開けると、執事ベネディクトがゼラードを抱いていた。
「ママ!」
「ああゼラード! 良かった……ありがとうベネディクト」
「いえ! しかし今の揺れはいったい?」
「分からないわ。何が起こってるのかしら……」
娘を引き継ぎ抱っこして、イルセラはまた窓の外を見た。
何やら西側の街中で爆発が連続で起きている。
爆発! 爆発! 爆発! 爆発! 爆発!
至る所にある建物が弾け飛んでいく!
しまいには時計台が斬り崩された!
「こ、これは……」
外の光景を目の当たりにしたベネディクトが絶句する。
それはイルセラも同じだった。
野盗でも侵入したか?
いや、それにしたって派手すぎる。
奴らはもっと静かに事を成す連中だ。
こんな騎士を呼ぶような目立つ行為はしない。
「あ! ママ! フェアリーがいる!」
「え?」
娘が指差した場所は一軒家の屋根。
そこでは火花が派手に散っている。
銀の光が激しく交差しているが、人影らしき者は見えない。
ゼラードは今フェアリーと言ったが、あの火花が散る屋根の上にフェアリーがいるのだろうか?
夜のせいで視界が悪い。
フェアリーは目視できないが、火花が散るその場所はついに建物ごと弾け飛んで破砕した。
すると今度は別の建物の屋根に火花が発生し始め、やがてそこも破砕して消し飛ぶ。
間髪入れず何かが吹き飛び、住宅群の中を貫通していく影が見えた。
それこそ娘が指したフェアリーだった。
彼女はどうやら吹き飛ばされたらしく、何件もの建物を貫通して倒れた。
しかしすぐに立ち上がり何かに向かっていく。
「フェアリー!? あの子なにやってるの!?」
この騒動はまさかフェアリーの仕業か?
フェアリーが人間嫌いだと知っているから、一瞬だけそう疑ってしまった。
しかしフェアリーの斬り結ぶ敵の存在に気づき、距離が近くなったことでようやくそれが見えた。
敵は見たこともない黒い怪物だった。
黒い甲殻に鋭利な爪や牙。そして尻尾を持っている。顔の形状はよく見えないが、赤い瞳だけはハッキリと見えた。
恐ろしいまでの殺気を感じさせる血のように赤い眼だ。
「な! なんなのアレは!?」と驚くイルセラに「分かりません!」と応じるベネディクト。
ゼラードが怖がってイルセラに抱きついてき、イルセラも守るように娘を抱き直した。
フェアリーと怪物の戦闘音がどんどん近付いてくる。
次々とその戦闘に巻き込まれて破壊されていく建物。
その中から慌てて逃げ出してくる住民たち。
そんな彼らを怪物が狙おうとした時、フェアリーがそれを阻止するように割り込んで戦うのが見えた。
フェアリーは住民を守っている!
この騒動の元凶はあの怪物だ!
ようやく事態が飲み込めてきたイルセラはベネディクトに指示を出そうとする。
が、次の瞬間! フェアリーが怪物に蹴り飛ばされ、この執務室の壁を突き破って飛んできた。
ガシャンと派手な轟音が鳴り響き、ガラスが割れて弾け飛ぶ。
その破片からゼラードを守ろうと屈むイルセラ。
そのイルセラを守ろうとベネディクトが自分の背を盾にした。
飛び散ったガラス片は床に落ち、一時の静寂の間に別の足音が駆け上がってくるのが聞こえた。
「イルセラ様!」
開いている扉から現れたのはリズ・リンド。
彼女の眼に先に入って来たのは吹き飛ばされてきたフェアリー。
「フェアリー!」
「リズ!? なにやってるんだ! 早く逃げろと言っただろう!」
イルセラは耳を疑った。
本当にフェアリーが言ったのかと思うほどに口調が変わっていたからだ。
まるで男のような言い方をするフェアリーに冗談の色はない。
むしろ本気で激怒しているように見える。
「く、君主を置いて先に逃げられるわけないでしょう! アタシはもう――」
――リズが言い終える前に、あの怪物がいつの間にか
この執務室に侵入して来ていた。
あまりの速さに誰も怪物の存在に気づいていない。
ヤツはすでにリズの目前におり、人間の皮膚など容易く切断する爪が首を狙う!
その爪を間一髪で弾いたフェアリーは敵を蹴り飛ばし間合いを空けた。
怪物は思わぬ強敵に忌々しい目を向けて爪を構えて直す。
「早く逃げろ! 私がコイツを抑えていられるのも時間の問題だ! 急げ!」
「!? わ、わかったわ! イルセラ様! こっちです!」
リズがイルセラたちを誘導すると怪物がそれを狙って動き出す。
目にも止まらぬ速さで迫る怪物を、フェアリーは二刀流で受け止める。
「お前はジッとしていろ!」
殺意剥き出しのフェアリーは、明らかにいつもと違った。
どこか人を見下したような無礼なフェアリーではない。
これがフェアリーの妖精としての本性なのだろうか。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
きのまま錬金!1から錬金術士めざします!
ワイムムワイ
ファンタジー
森の中。瀕死の状態で転生し目覚めた男は、両親を亡くし親戚もいない少女に命を救われた。そして、今度はその少女を助けるために男が立ち上がる。
これはそんな話。
※[小説家になろう]で書いてた物をこちらにも投稿してみました。現在、[小説家になろう]と同時に投稿をしています。いいなと思われたら、お気に入り等してくれると嬉しくなるので良ければお願いします~。
※※2021/2/01 頑張って表紙を作ったので追加しました!それに伴いタイトルの【生活】部分無くしました。
STATUS
項目 / 低☆☆☆☆☆<★★★★★高
日常系 /★★★☆☆ |コメディ /★★☆☆☆
戦闘 /★★☆☆☆ |ハーレム /★★☆☆☆
ほっこり /★★☆☆☆ | えぐみ /★★☆☆☆
しぶみ /★★☆☆☆
世界設定 /有or無
魔力 /有 | 使い魔/有
魔法 /無 | 亜人 /有
魔道具/有 | 魔獣 /有
機械 /無 |ドラゴン/有
戦争 /有 | 勇者 /無
宇宙人/無 | 魔王 /無
主人公設定
異世界転生 | 弱い
なぜかモテる | 人の話が聞けます
※これはあくまでも10/23の時のつもりであり、途中で話が変わる事や読んでみたら話が違うじゃないか!等もありえるので参考程度に。
この話の中では、錬金術師ではなく錬金術士という事にして話を進めています。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん
ミケとポン太
ファンタジー
害蟲駆除チーム《ユグドラシル》の個性豊かな住人の何気ない日常を描いた作品。不定期更新となります。《ユグドラシル》の住人達は異能者の集まりで、彼らの異能力をもって怪異でもある《蟲》退治に勤しみます・・・近いうちに、タイトルの変更及び内容の大幅修正を図る予定です。変更後のタイトル(予定)は
「夢幻星動伝」となります。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
沢山寝たい少女のVRMMORPG〜武器と防具は枕とパジャマ?!〜
雪雪ノ雪
ファンタジー
世界初のフルダイブ型のVRゲーム『Second World Online』通称SWO。
剣と魔法の世界で冒険をするVRMMORPGだ。
このゲームの1番の特徴は『ゲーム内での3時間は現実世界の1時間である』というもの。
これを知った少女、明日香 睡月(あすか すいげつ)は
「このゲームをやれば沢山寝れる!!」
と言いこのゲームを始める。
ゲームを始めてすぐ、ある問題点に気づく。
「お金がないと、宿に泊まれない!!ベットで寝れない!!....敷布団でもいいけど」
何とかお金を稼ぐ方法を考えた明日香がとった行動は
「そうだ!!寝ながら戦えばお金も経験値も入って一石三鳥!!」
武器は枕で防具はパジャマ!!少女のVRMMORPGの旅が今始まる!!
..........寝ながら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる