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恋愛の可能性
しおりを挟む「先輩先輩、見てくださいよこの動き。」
やおい君の中の人になってから2ヶ月。中の人としてタチネコにゃんでは出来ない色んな動きを覚えた。
運動神経の良い弟から着ぐるみを着たままで出来るパフォーマンスを教えて貰い猛特訓の末に何パターンか派手に動ける様に成長した私。
「ビーはがんばり屋だし、それはめっちゃ凄いし尊敬する。それで肝心の恋愛の方はどう?」
自分のデスク周辺でパフォーマンスを見せ「おおー」とコンプラ部分の同僚から驚きの声を貰って満足した後。先輩の言葉に胸が痛む。
「確か、やお君やるついでに広報部のコンプラ指導入ったんでしょ?あそこイケメン多いし、気になる人居ないの?」
私がやおい君をやると伝えに行ったついでに着ぐるみのまま広報部でコンプラ指導に入る事を話した。
エレベーターの中で無理な誘いに困っていた男性社員が気になって、いっそ広報部全体に指導に入ろうと考えた。
その日からパワハラやセクハラ等々、様々なハラスメントについて一人一人片っ端から指導と面談の繰り返し。
まだ若手の部類な私が軽く面談し、問題有りそうならもっと上の人がガツンとやる仕組みなのだけど…
「それがですね、皆の面談してると色々大変でして…愚痴の嵐に巻き込まれたと言いますか、八割の人がプライド高いと言うか、上を目指してがむしゃらで息苦しかったり。心配になる人ばかりと言いますか。私に言われたくないとは思いますけどね。」
端的に言えば私とは合わない、という事。せっかく着ぐるみまで着てるのにね。イケメンでも性格合わない人と長時間いるのは辛い。
「でも残りの二割があるじゃない。既婚者、恋人持ち外したら絞られるでしょ?」
「いやいや、既婚者は書類で分かっても恋人の有無なんて聞いたらセクハラじゃないですか。」
「仕事が足引っ張ってんなー。」
タチネコにゃんには聞いてしまったけどね?はぐらかされたけどね?
「少しでも一緒にいて、居心地いいな~マシだなぁ~って人居ないの?」
確かに残りの2割の人なら有りだなぁ、でも結構高望みになる人達なんだよなぁ…とか考えつつも『居心地の良い人』と聞いて思い浮かぶのは一人しか居ない。大きな声で言うのも恥ずかしくて先輩の耳元でこそっと声を出す。
「タチネコにゃんとは一緒にいても楽と言いますか…ドキドキします。凄く可愛いし、私の事気にかけてくれてマッサージとかしてくれて。練習が楽しみで仕方ないんですよ、ふふふ。」
「ほー?それはアレだよね?一応確認するけど、着ぐるみが恋愛対象って訳では…」
「無いです無いです!あくまで中の人目当てです。」
先輩に誤解されそうで必死に否定した。着ぐるみと恋人なんて…
フワッと頭のなかで想像すると可愛いタチネコにゃんとデートしてご飯食べて、それから…
そんな想像するけどファンシー過ぎて面白すぎる。結構有りな自分も隅っこに居るけれど。
「この前見かけた時にビーの事どう思う?って聞いてみた事あるのよ。関わり多くなるし色々と…大丈夫かなって思って。」
「え!!そんな!!勝手に!!な、何て!?」
「可愛い声で、『ボクは地球上の皆を愛してるにゃぁ~』って言ってた。手強いよアイツ。」
愛してる?
皆を愛してる!?
「両想い。」
「どこをどう考えても設定で本心じゃないから。ネコ被ってるアイツに何か言っても設定でしか返されないみたいだし、本体捕まえるしかないでしょ?」
「本体捕まえるって…それは着ぐるみ界のタブーじゃないですか?」
そうは言ってもね、と先輩が真剣に対策を考えてくれている。前の質問で脈無しと判断した私だけれど、キャラの設定として話していて中の人の話でないとしたら……それはもっと知りたいな。
失恋もタチネコにゃんのお陰でどうでも良くなってきたし。何だかんだで気遣いをしてくれる彼にもっと積極的に行こうとグッと握りこぶしを作った。
◆◆◆
今日も広報部での仕事が終わり、会社の外に出た。
そろそろ広報に出入りするのも終わりだな。
「姉さん。」
「!!」
考え事をしていたら弟が目の前に現れた。天使かな?今日も可愛い過ぎる。
その隣には推し弟の彼氏がいて眩しい程に輝き拝みたくなる光景があった。
「ビックリした。どうしたの?会社に来るなんて珍しいね。呼び出してくれても良かったのに。」
「今来たばかりだから大丈夫。…あのさ。姉さんに報告があって。」
報告?と首を傾げると二人が手を繋いではにかむ。
「俺たち結婚しようって話になってさ。」
パッパラ~
空で天使がラッパを鳴らしキラキラとした光が満ちて見える!!漫画には無かったイベント…こんな日に間近で立ち会えるなんて幸せ者だよ私は!!。
視界が歪み滝の涙が抑えきれない。
「良かったね~、本当に良かったねぇ!弟をよろじぐねぇ。」
「姉さん泣きすぎ。」
「お姉さん、これからも俺がしっかり守っていきますから安心して下さい。」
「うん!うん!君にしか任せられないよ~。」
人生のクライマックスかと錯覚する程に天にも昇る気分。幸せってこういう事だよね。
フワフワ~と涙と喜びの入り交じる表情で二人を激励の嵐に巻き込む。
「入籍はさ、姉さんの幸せを見届けてからって二人で決めたんだ。姉さんには僕ら凄く世話になったし。」
「俺らは男同士だから急ぐ必要も無いからな、今度はお姉さんの幸せを二人で見届けようって!」
…
…
「え゛」
その後。
必死で笑顔を作りながらも何を話して別れたのか覚えていない。
気がつけば会社の近くのコーヒーショップでコーヒーを買い、更に気がつけば飲めないブラックコーヒーを眺めながらまた会社の前まで来ていた。
残業に厳しい会社だからそんなに人が居ないだろうと思い、入り口近くにある植え込みの脇に座る。
私が結婚しないと推し二人の結婚イベントが見れない…。そんなバカな。私は推し二人の幸せを願って行動してきた。そんな私が二人の幸せな結婚の壁となるなんて。
片手で顔を被い、コーヒーを持つてが震えた。
「富士吉さん。」
…
「富士吉さん、具合悪い?」
肩をトントンと優しく叩かれ声を掛けられてやっと人の気配に気がつきパッと顔を上げると広報部の受屋君が居た。
「あぁ、ごめんなさい。少し…考え事。」
受屋君か…
私の表情を伺う様に目線を合わせてしゃがむ彼は子犬の様で可愛い。少し癖のある髪は軽くセットされていて可愛い中性的なお顔を大人びて見せる。
更にこちらの表情を伺う様に小首を傾げるのだからあざとい技まで自然に…。まるでタチネコにゃんみたい。
…あー、こんな可愛い彼を見ても『ときめく』どころかタチネコにゃんが浮かぶなんて。
タチネコにゃんにしっかりフラれるかしないと前に進めないな…
…
ん?
「受屋君、終業時間からだいぶ経ってるけど残業?あの部長指導入れたのにまた何か押し付けられたの?」
少しだけ驚いた顔をする受屋君。彼とは面談で少しフランクに話せる程度には仲良くなった。
「大丈夫、あれから俺ばかり面倒な仕事入る事は無いから。しつこい誘いも無くなったし、気まずくもなってない。全部富士吉さんのお陰だよ。それより今心配なのは富士吉さんの方でしょ。顔色が悪い。」
私を心配して声をかけてくれたのか。受屋君は優しいな。優しくて大人の男性なのに可愛い甘さがある。
ギラギラした感じじゃなくて落ち着いていてフワフワとつかみ所がない。
だけど気がついたら流されていそうな雲みたいな人だ。前に男にしつこく誘われているみたいだったけど誘いたくなるよな~こんな可愛いのがいたら、と頷ける部分もある。しつこいのは良くないけれど。
「早く結婚したいなって思ったらね。少し気持ちが暗くなって…。今気になる人にアプローチして答えを貰ってからじゃないと前に進めないなって改めて考えたらね、更に気が重くて。」
「へぇ…、気になる人が居るんだ。」
隣にストンと座る受屋君。素っ気ない態度で遠くを見るのに話は聞いてくれようとしているみたい。
まぁ、他人の婚活事情なんて男性からしたら興味無いか。
あ゛~。結婚…気が遠くなる。
弟達の妨げになってはいけない。一刻も早く結婚しないと。結婚するにはまず恋人を作らなくてはいけなくて……もしアプローチするならタチネコにゃんの中の人にフラれるか受け入れられるかしないと先に進めない。どうしてもタチネコにゃんの顔がチラつくから…。
あぁ…結構本気で好きなんだな…タチネコにゃん。
「フラれたら……今度はお見合いしてみようかな。ときめきが無くても愛や恋じゃなくて、協力して生きるパートナーになれる人をさがすって感じの。」
「相手を愛して無くても結婚出来そうなの?」
「弟達の為なら出来る気がする。それにお見合い結婚で幸せになった人も沢山いるし、結婚してから愛を育むのも有りかな。」
グッと握り拳を作りそれを眺める。うん。そうだよ、無駄にときめいてBLカップルを量産するよりその方が良いかも知れない。
前にウッカリ既婚者と知らずドキッとしてしまった瞬間があったのだけど、その人にはイケメンイベントは訪れなかった。結婚してしまえば茶々が入る心配なくゆっくり愛が育めるだろう…。
「受屋君、ごめんね一方的に話して。でも頭の整理出来た。話を聞いてくれてありがとう。」
「俺は、なにもしてないけど役にたてたなら良かった…。」
ぽかんとしてから苦笑いする彼に精一杯の笑顔を見せた。今後のプランは決まった。
帰ろう!と立ち上がると二人で最寄り駅まで話ながら歩く。
私の他愛もない話を静かに聞いてくれ、相槌を打ってくれる。隣を歩くスピードは早すぎず遅すぎずで心地よかった。
本人には言えないけれど良い意味でタチネコにゃんの雰囲気に似てる。彼がもしタチネコにゃんの中の人だと言われたら納得するな。
…
いやいやいや、彼は広報部でも主戦力の部類だから着ぐるみの仕事なんて任されないか。
違うよな~。と思うとタチネコにゃんに高い理想を押し付けている事に気がついて反省する。
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