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好みはルシア【エミル視点】

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 「ルシア・・・さん。仕事案内をしますのでこちらに。」

 呼び捨てにしそうになって慌てて「さん」と付け足す。こんな風に割り込んだものだから相手の男はイライラとした様子でこちらを見た。

 負けない。

 絶対に。

 ルシアから必要ないと思われていたとしても、僕が彼女を守りたい。

 少し言葉を交わして男が僕に向かってきたけれど、戦う術が無くてもドワーフは頑丈だ。少しぐらい怪我をした所ですぐに治る。だから怯まずに睨み返す。


 痛いのは嫌いだ。


 自分から進んで痛い思いをしたくはない。


 だけれど、

 痛い思いをしても良いから彼女に会いたいと里を出て、彼女を守りたいと心から思えた自分に嬉しくなった。


 そう思った矢先、目の前が彼女でいっぱいになったかと思うと。

 「ギルド職員の助けがあっての冒険者でもあるわ。貴方は頭を冷やして出直しなさい?」

 相手の男は光に包まれ消えていた。

 ギルド職員の助けがあっての冒険者でもある。その言葉に依頼書の話で盛り上がった彼女の笑顔を容易く思い出せた。

 僅かな思い出に心が温かくなった次の瞬間、ルシアにガシッと捕まると自分達の体も光に包まれる。転移魔法なんて初めてでとても驚いた。だけどもっと驚いたのはベッドの上で彼女が僕の名前を呼びながら泣いていた時。
 顔面が彼女の胸に埋もれ息が苦しかったからもがいたけれど息が出来れば柔らかな彼女の肌に埋もれて幸せだった。
 柔らかくてふにふにで彼女自身の香りがする。これが女性の柔らかさかと僕だけ幸せに浸りそうな思考をなんとか引き戻し彼女を見る。
 ポロポロと大粒の涙が溢れ、僕の顔を見るルシア。いつも大人びた雰囲気が一変して可愛らしく見えた。しきりに僕の名前を呼びながら泣く姿にドキリとする。

 「・・・失恋、したのですか?」

 その質問にただ頷き辛そうに僕を見るルシア。自分で聞いたのに酷く心が傷ついた。胸がギシギシと締め付けられて痛い。

 約束したのに。

 僕を迎えに来ると。

 僕と結婚すると。

 だけど自分の痛い心臓より、傷付いた彼女を助けなければ。

 「僕でも、貴方を慰めて差し上げられるでしょうか。」

 どうしたら僕は貴方を慰める事が出来るだろう。僕に出来る事なら何でもする。

 「貴方しか慰めにならないわ。」

 その言葉を聞いて、腹の底から怒りに似た黒い感情が生まれたと思う。他の男にすがる程にルシアの心を傷つけた男への怒り。さっきの男にこんな姿を見せる事なく済んで良かった。そう思って・・・それから・・・彼女の行動に従おうとしていたのに途中から自分が迫ってしまった。あんな姿見たら誰だって我を忘れるに決まってる。

 彼女が見せる無邪気な笑顔、無防備な姿。そして僕を純粋に求める仕草。
 これらの事で僕の理性は完全に消し飛んでいた。

・・・

 まずい。またあの時の事を考えそうになっていた・・・。


 まさか、ルシアが僕なんかに振られたと思って荒れてたなんて。
 視線を鏡に戻すと眉間にシワを寄せた自分がいた。照れると眉間にシワを寄せるクセがあるなんて彼女に会って初めて知った。
 不機嫌に見えるだろうから直さなくてはいけないな。

 それにしても、彼女が本当にショタコンという趣味の人だったなんて。今でもあの時の事は申し訳なく思ってしまう。
 僕が里を出る時に言われた「子供に性欲を感じる変態にしか買われないだろう。」という言葉をそのままルシアに言ってしまったばかりに、それを気にした彼女は趣味の物を窓から捨ててしまった。
 何かしらの趣味を持つ人にとって、それを捨てるというのは酷な事だと想像ができる。

 それに人の好みは様々で、大人っぽい人が好きな人もいれば子供っぽい人を好きになる人がいるのは当たり前な訳で。良識のある大人であればどんな好みでも誰かにとやかく言われる筋合いは無いと思う。
 ルシアは幼い見た目が好きで、僕はルシアみたいな大人な人に憧れるし・・・ルシアみたいな性格も良いと思っている、ルシアみたいな瞳も好き・・・

 僕の好みはルシアなのか・・・

 色々と思い返しながらこの日の為に用意した衣服に袖を通し、髪を整える。
 外にあるポストに自分宛の手紙を確認しに行くと両親からの手紙が1通、シンプルな封筒に包まれてそこにあった。
 ここの試験に受かった時に手紙を出していて、その返事だと思う。

 体を気遣う言葉と、里は僕が居なくなった事で少し大変らしいという事。そして僕がここまで行動するとは思わなかったという内容で・・・。

 この手紙の返事は、きっとこれからのデートの結果によって大きく左右されるだろう。


◆◆◆◆


 その後、待ち合わせ場所にだいぶ早く行ったのに彼女は程無くして姿を現した。
 美しい姿なのに僕を見つけた瞬間に見せた天使の笑顔に可愛すぎて目眩がするし。
 経験が無いながらも必死で考えたデートプランにルシアはずっとニコニコして何をしても嬉しそうに付いてきてくれる。

「仲の良い姉弟」と勘違いされれば「恋人です。」と僕の事を恥ずかしいとも思わない態度で抱きしめ見せ付ける。・・・ドキドキと煩い心臓が1日耐えられるのかと心配になるくらいで・・・
 それに彼女の中では恋人なんだと実感すると夢見心地な気分になった。

 今日、正式にお付き合いを提案しようと思ってたのにどうしよう・・・次のステップは・・・。

 そんな風に考え込んでいたら突然光に包まれ、ルシアに抱かれてベッドの上に居る。
 その先が予測できて既に暴れる心臓が壊れない事を必死で祈った。
 
 生きていれば、両親に良い報告ができる事は間違いないです。

 これからの僕はS級冒険者に認められた者として、彼女をサポートする存在・・・一生をかけて側で支える存在として胸を張って生きると決めた。

◆終わり◆
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