上 下
9 / 12

まずはここから。

しおりを挟む
 「はい、今はこれを着るといいわ。」
 「ありがとうございます。」

 1日着た衣服をお風呂の後に着るのが嫌な私は彼もそうだろうと思って以前、用意していた彼用の衣服を渡した。

 「ピッタリ、ですね。」

 男性物の彼にピッタリなサイズの服。
 これは勿論彼を受け入れる準備をウキウキでしていた頃に用意した服だ。
 彼のサイズだと子供用になってしまうのだけど、なるべく大人っぽいデザインの物を探した。

 その服を身に纏った彼を顎に手を当ててまじまじと見つめる。ドワーフ特有の赤茶色い髪を一つに結び、ベッドの周辺に散らばった依頼書を拾う彼。

 観察すればする程ホンモノ。

 お風呂で色々な意味でスッキリして思考がハッキリした頭で考える。

 「貴方・・・本物のエミルなの?」

 何か疑う様な視線が嫌だったのか目を細め、視線だけこちらに寄越した。

 「何だと思って接していたのですか。」
 「魔物の毒か何かで幻覚が見えてるのかしら?ってずっと思っていたわ。」

 私の答えにより不機嫌そうに目を細める。
 この目を細める仕草が怒っていると言うのであれば、眉間にシワを寄せる仕草は何なのだろう。

 「エミルはギルド職員になったの?何でこんな所のギルドに・・・もっと里の近くにもギルドがあったわよね?」

 その問いかけに言いたくないと言わんばかりの無視を決め込むエミル。書類を拾い終えた彼はベッドに座る私の前に立つと仕事モードで話し出した。

 「S級冒険者として貴方の活躍は素晴らしいものです。ですがそろそろ限界でしょう。休暇を取る事を勧めます。」
 「・・・。」
 「不服ですか?」
 「・・・。」



 仕事をするエミルが尊い。



 「ルシア・・・さん。失恋して色々忘れたくて仕事を詰め込んでいたのは分かりますが、無理はいけません。僕を幻覚と思う程疲れていたのでしょう?」
 「・・・それは、そうなのだけれど・・・。」


 私の中では色んな考えが渦巻いていた。エミルが幻覚ではなく目の前に存在するという事。
 だけどギルド職員としてそれなりに収入の良い職に就いて私と結婚する理由が無くなっている事。
 今、この二人きりの時に何かしらアプローチをしなければチャンスを逃すだろうという事。
 しかし、エミルにとってはショタコンは変態。変態とバレない様にするには。

 「ルシアさん。聞いてますか?・・・・・・あぁ、すみません。ここにも書類が・・・?」
 「ぁ。はい・・・。・・・っぁ!!」

 色々考えていると、エミルがベッドの下にも入り込んだ依頼書を見つけ下を覗き込んだ。
 大変だ!!そこには聖女様が執筆されたショタ本が!!

 「だぁーーーーーーーー!!」
 「ぐぇっ」

 体ごとのし掛かり行動を阻止するも、彼が手に取った依頼書と共に一冊の薄い本が勢いで宙を舞う。
 そしてパラパラと開いたページはエミル程の可愛らしい男の子と大人のお姉さんがエッチな絡みを繰り広げる何回も読み込んだ印付きのイラスト付ページ!!
 

 落ちてきた本は私達のすぐ近くの床にドドーンと落ち、ただならぬ存在感をエロエロと放つ。
 エミルの目に触れてしまったのも分かっているのに、サッと拾って窓からブーメランを飛ばす要領で投げるとブンッ!!と本らしからぬ音を立てて飛んでいった。


 ・・・

 

 「今のは・・・。」

 そうだよね!!気になるよね!!

 「違うの、今のは誤解なのよ。」
 「・・・誤解。」

 なんて言えば良い!!なんて誤魔化せばいい!!
 私の中の第二・第三・第四の私もみんなオワッタ・・・と諦めている。
 私は完全に彼の中で子供に性欲を感じる変態だ。だけど訂正しなくてはならない。

 「私は確かに幼い見た目の子が好きよ、だけどそれは物語の中だけの話なの!現実のこの世界で性欲を感じるのはエミルだけ!!幼い見た目なら誰でもいいとかそんなんじゃないの!!決して変態ではないのよ!」
 「・・・変態。」

 ポツリと私の言葉の後に呟いた「変態」の言葉に私は崩れ落ちた。やはりドワーフは私を戦わずして倒す方法を知っている。目の前に床の木目しか見えない。いや、涙で木目すら見えない。

 「あぁ、僕が子供に性欲を感じる変態って言葉を言ったから・・・でしょうか。」

 何かを思い出した!という様に明るい声色で話すエミル。だけど顔を見れず木目を数えた。

 「ルシアさん。僕にしか性欲を感じないという言葉は本当なのですよね。」
 「・・・ぅん。」

 完全に言葉のチョイスを間違っているけれど、変態ではないとそれだけでも伝えたかった。変態ではなくショタコン淑女だ。いや、今となってはショタコンではなくエミルが好きなだけなのだけど。

 「では・・・失恋したと言う話は?」
 「ドワーフの里に入れなくて・・・それでもエミルが私に依頼くれれば迎えに行けるのに・・・依頼も無くて・・・。フラレたんだと思って・・・」
 「そうですか。」

 何やらクスクス笑う声がするのだけどショタコン苛めて楽しむ性癖なのだろうか。なんてニッチな性癖だろう。いや、エミルに限ってそんな事はないか。

 「貴方が里に迎えに来ていてくれた事。貴方が去った後から門番の雑談で知りました。」

 穏やかな口調で話し出すエミルにやっと頭を上げる事ができた。
 彼はいつもの無表情とは違い私に微笑みを向けてくれる。変態だと思っても優しくしてくれる神なのか。

 「僕が貴方に依頼を出したとしても門番は対応を変えないでしょう。だから今度は僕が会いに行こうと思ったんです。それで貴方がギルド職員になれると言ってくれたから貴方が拠点にしてるギルドの試験を受けに来ました。」
 「何で拠点が分かったの?」
 「貴方が見せて下さった依頼書の発行された場所が全てここだったからです。」

 エミルはなかなか目ざとい。

 「しかし、受かったのは良かったのですが1ヶ月ほど本部で研修がありまして。やっとここの配属になってルシアと連絡を取りたいと話せば『職員から冒険者への個人的な連絡は禁止』と言われてしまって。ルシアが訪れるのを待つしかないと待っていたら、貴方が失恋したと聞いて・・・僕との結婚は無かった物とされて他の者と恋愛を楽しんでいたのだろうと思い込んでしまいました。」
 「それでも助けてくれたのね。」
 「貴方の男除けが僕の役目だと思ってましたから・・・でもそれは違ったんですね。」

 ぐうっと喉に言葉詰まる。
 本当の夫婦になりたかった作戦がモロバレなのである。

 「僕はこのままギルドで働いて貴方に恩とお金を返します。」
 「・・・はい。」


 つまり、私の元で働いて貰って親睦を深めよう作戦も出来ないという事・・・。


 「先程も言いましたが貴方は休暇を取って下さい。それで、もし良ければ十分な休暇の後に、少しだけでも・・良いので・・・僕とデート、しませんか?」
 「・・・デート・・・?」
 「嫌・・・で無ければ、ですが。」

 私の前に後光で照らされたエミルが見えた気がした。私の答えは決まっている。


 「勿論、喜んでデートに行くわ!」


 お金の為の結婚ではなく、上司と部下でもない。デートというお互いに対等な立場から親睦を深める関係をエミルの計らいにより掴む事が出来たS級冒険者のルシアだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

娼館から出てきた男に一目惚れしたので、一晩だけ娼婦になる。

sorato
恋愛
ある日、ミーナは鮮烈な一目惚れを経験した。 娼館から出てきたその男に抱いてもらうため、ミーナは娼館に駆け込み1日だけ働けないか娼館の店主へと交渉する。ミーナがその男に娼婦としてつくことになったのは、「仮面デー」と呼ばれるお互い素顔を隠して過ごす特殊な日で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 主人公のミーナは異世界転生していますが、美醜観だけ影響する程度でありそれ以外の大きな転生要素はありません。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 見なくても全く影響はありませんが、「気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。」と同じ世界観のお話です。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

穏やかな日々の中で。

らむ音
恋愛
異世界転移した先で愛を見つけていく話。

美醜逆転世界で王子様と恋をする

やなぎ怜
恋愛
出会った人がおどろくほどの不細工な顔を持って生まれたわたし。それを開き直れるほどの度胸もなく、苛烈なイジメに遭いあっという間にドロップアウトコース一直線。デブス引きニートな自分に嫌気が差して自殺すれば、望んでないのに生まれ変わる。しかも顔も体型も前世と同じ。ちょっとこれ、どういうことよ神様――。そう思っていたらなにやら様子がおかしい。この世界においてわたしの容姿は周囲にはおどろくほどの美少女に見えるらしいのだ。それでも美少女として生きる度胸のないわたしは、慎ましやかに生活しようとする。そんなときに「だれもがおどろくほどの不細工」と評される王子様とのお見合いパーティーに引っぱり出されて……。

処理中です...