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まずはここから。

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 「はい、今はこれを着るといいわ。」
 「ありがとうございます。」

 1日着た衣服をお風呂の後に着るのが嫌な私は彼もそうだろうと思って以前、用意していた彼用の衣服を渡した。

 「ピッタリ、ですね。」

 男性物の彼にピッタリなサイズの服。
 これは勿論彼を受け入れる準備をウキウキでしていた頃に用意した服だ。
 彼のサイズだと子供用になってしまうのだけど、なるべく大人っぽいデザインの物を探した。

 その服を身に纏った彼を顎に手を当ててまじまじと見つめる。ドワーフ特有の赤茶色い髪を一つに結び、ベッドの周辺に散らばった依頼書を拾う彼。

 観察すればする程ホンモノ。

 お風呂で色々な意味でスッキリして思考がハッキリした頭で考える。

 「貴方・・・本物のエミルなの?」

 何か疑う様な視線が嫌だったのか目を細め、視線だけこちらに寄越した。

 「何だと思って接していたのですか。」
 「魔物の毒か何かで幻覚が見えてるのかしら?ってずっと思っていたわ。」

 私の答えにより不機嫌そうに目を細める。
 この目を細める仕草が怒っていると言うのであれば、眉間にシワを寄せる仕草は何なのだろう。

 「エミルはギルド職員になったの?何でこんな所のギルドに・・・もっと里の近くにもギルドがあったわよね?」

 その問いかけに言いたくないと言わんばかりの無視を決め込むエミル。書類を拾い終えた彼はベッドに座る私の前に立つと仕事モードで話し出した。

 「S級冒険者として貴方の活躍は素晴らしいものです。ですがそろそろ限界でしょう。休暇を取る事を勧めます。」
 「・・・。」
 「不服ですか?」
 「・・・。」



 仕事をするエミルが尊い。



 「ルシア・・・さん。失恋して色々忘れたくて仕事を詰め込んでいたのは分かりますが、無理はいけません。僕を幻覚と思う程疲れていたのでしょう?」
 「・・・それは、そうなのだけれど・・・。」


 私の中では色んな考えが渦巻いていた。エミルが幻覚ではなく目の前に存在するという事。
 だけどギルド職員としてそれなりに収入の良い職に就いて私と結婚する理由が無くなっている事。
 今、この二人きりの時に何かしらアプローチをしなければチャンスを逃すだろうという事。
 しかし、エミルにとってはショタコンは変態。変態とバレない様にするには。

 「ルシアさん。聞いてますか?・・・・・・あぁ、すみません。ここにも書類が・・・?」
 「ぁ。はい・・・。・・・っぁ!!」

 色々考えていると、エミルがベッドの下にも入り込んだ依頼書を見つけ下を覗き込んだ。
 大変だ!!そこには聖女様が執筆されたショタ本が!!

 「だぁーーーーーーーー!!」
 「ぐぇっ」

 体ごとのし掛かり行動を阻止するも、彼が手に取った依頼書と共に一冊の薄い本が勢いで宙を舞う。
 そしてパラパラと開いたページはエミル程の可愛らしい男の子と大人のお姉さんがエッチな絡みを繰り広げる何回も読み込んだ印付きのイラスト付ページ!!
 

 落ちてきた本は私達のすぐ近くの床にドドーンと落ち、ただならぬ存在感をエロエロと放つ。
 エミルの目に触れてしまったのも分かっているのに、サッと拾って窓からブーメランを飛ばす要領で投げるとブンッ!!と本らしからぬ音を立てて飛んでいった。


 ・・・

 

 「今のは・・・。」

 そうだよね!!気になるよね!!

 「違うの、今のは誤解なのよ。」
 「・・・誤解。」

 なんて言えば良い!!なんて誤魔化せばいい!!
 私の中の第二・第三・第四の私もみんなオワッタ・・・と諦めている。
 私は完全に彼の中で子供に性欲を感じる変態だ。だけど訂正しなくてはならない。

 「私は確かに幼い見た目の子が好きよ、だけどそれは物語の中だけの話なの!現実のこの世界で性欲を感じるのはエミルだけ!!幼い見た目なら誰でもいいとかそんなんじゃないの!!決して変態ではないのよ!」
 「・・・変態。」

 ポツリと私の言葉の後に呟いた「変態」の言葉に私は崩れ落ちた。やはりドワーフは私を戦わずして倒す方法を知っている。目の前に床の木目しか見えない。いや、涙で木目すら見えない。

 「あぁ、僕が子供に性欲を感じる変態って言葉を言ったから・・・でしょうか。」

 何かを思い出した!という様に明るい声色で話すエミル。だけど顔を見れず木目を数えた。

 「ルシアさん。僕にしか性欲を感じないという言葉は本当なのですよね。」
 「・・・ぅん。」

 完全に言葉のチョイスを間違っているけれど、変態ではないとそれだけでも伝えたかった。変態ではなくショタコン淑女だ。いや、今となってはショタコンではなくエミルが好きなだけなのだけど。

 「では・・・失恋したと言う話は?」
 「ドワーフの里に入れなくて・・・それでもエミルが私に依頼くれれば迎えに行けるのに・・・依頼も無くて・・・。フラレたんだと思って・・・」
 「そうですか。」

 何やらクスクス笑う声がするのだけどショタコン苛めて楽しむ性癖なのだろうか。なんてニッチな性癖だろう。いや、エミルに限ってそんな事はないか。

 「貴方が里に迎えに来ていてくれた事。貴方が去った後から門番の雑談で知りました。」

 穏やかな口調で話し出すエミルにやっと頭を上げる事ができた。
 彼はいつもの無表情とは違い私に微笑みを向けてくれる。変態だと思っても優しくしてくれる神なのか。

 「僕が貴方に依頼を出したとしても門番は対応を変えないでしょう。だから今度は僕が会いに行こうと思ったんです。それで貴方がギルド職員になれると言ってくれたから貴方が拠点にしてるギルドの試験を受けに来ました。」
 「何で拠点が分かったの?」
 「貴方が見せて下さった依頼書の発行された場所が全てここだったからです。」

 エミルはなかなか目ざとい。

 「しかし、受かったのは良かったのですが1ヶ月ほど本部で研修がありまして。やっとここの配属になってルシアと連絡を取りたいと話せば『職員から冒険者への個人的な連絡は禁止』と言われてしまって。ルシアが訪れるのを待つしかないと待っていたら、貴方が失恋したと聞いて・・・僕との結婚は無かった物とされて他の者と恋愛を楽しんでいたのだろうと思い込んでしまいました。」
 「それでも助けてくれたのね。」
 「貴方の男除けが僕の役目だと思ってましたから・・・でもそれは違ったんですね。」

 ぐうっと喉に言葉詰まる。
 本当の夫婦になりたかった作戦がモロバレなのである。

 「僕はこのままギルドで働いて貴方に恩とお金を返します。」
 「・・・はい。」


 つまり、私の元で働いて貰って親睦を深めよう作戦も出来ないという事・・・。


 「先程も言いましたが貴方は休暇を取って下さい。それで、もし良ければ十分な休暇の後に、少しだけでも・・良いので・・・僕とデート、しませんか?」
 「・・・デート・・・?」
 「嫌・・・で無ければ、ですが。」

 私の前に後光で照らされたエミルが見えた気がした。私の答えは決まっている。


 「勿論、喜んでデートに行くわ!」


 お金の為の結婚ではなく、上司と部下でもない。デートというお互いに対等な立場から親睦を深める関係をエミルの計らいにより掴む事が出来たS級冒険者のルシアだった。
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