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失われたショタ

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 私はトボトボと拠点に帰って行く。

 その後ろ姿は哀れで。

 到底S級冒険者には見えなかったと思う。


 最後の望みをかけて、ロリコン夫婦にも話を聞いたけれど口下手な彼から大した情報も無く。お互いにそんなに知らないと思っていなかったので里に着いたらアッサリ別れたそうだ。


 私は何を希望に生きていけばいいのだろう。


 彼を迎えるために単身用の自室にあるショタグッズと本をほとんど売りに行った。
 どうしても手放せなかった聖女様が執筆されたショタ本はベッド下に隠して有るけれど・・・。
 
 そして二人の住まいが見つかるまでの間、一時的に一緒に住める様に揃えた彼専用の日用品。捨てるに捨てれないこの品が私を悲しみに突き落とす。
 


 私を慰めるのは数冊のショタ本しか存在しない。
 

 そんな悲壮感の渦で腹の底から黒い感情が生まれるのに時間はかからなかった。
 拠点とするギルドに通いつめ、ドワーフの里関連の仕事を探す。見つからない時は八つ当たりの様に魔物の討伐を片っ端から引き受けて魔物を狩り尽くす。

 私のショタ本&グッズの敵だ!!

 責任を私からしたら何の恨みもない魔物に擦り付け、どっちが魔物だと思われるほど仕事に明け暮れた。



◆◆◆◆◆



 ギィっと音を立ててギルドのドアを開く。

 今日も今日とて魔物狩りを終えてギルドへやってきた。今日はショタフィギュアの敵だと想定して魔物を討伐してきた。それでも私の心は晴れない。

 
 エミルと離れて既に3ヶ月。


 新しく本やグッズを購入すれば良いのに、そんな気持ちになれなかった。私はショタコンではなく、ただエミルが好きなだけの一人の人間。

 彼の為だから頑張れたし、彼の選んだ仕事だから特別に思えた。彼に会えると思っていたから・・・彼との未来があると思っていたから・・・。
 それが無くなり、こんなに荒れるのも純粋に彼が好きだったと思い知らされる。

 ほんの少しの時を共にしただけの彼だけど、両親の為に身売りを覚悟して。私と結婚するって決めてから、私の役に立とうとせっせと仕事を見つけて手伝ってくれてさ。
 口下手なのに頑張って話そうとしてくれる姿は健気で。最後離れる時なんて迎えに来るのを待っているみたいな目で見てさ・・・。
 見た目が好みの人のこんな可愛らしい面を知ってしまったらアッサリ恋に溺れるのが私なのだ。

 だけど・・・私自身が里に入れなくても彼が私に会いたいと思うなら私に依頼を出す事は可能な訳でさ。S級冒険者で女でルシアって今のところ私しかいないのだから。

 だけど、そんな依頼も無くて・・・。

 これってフラれたよね?

 完全に失恋よね?

 当たり前だよね、聖女様の一番良いポーションで両親の病も治っただろう。
 お金もある程度渡した。

 エミル自身の問題はすべての解決したのだ。連絡さえ取らなければ不本意な結婚をしなくても済むという状況なら無理に取る必要は無い。

 そう思うのに『エミルはそんな奴じゃない!』と希望を持ってしまう。

 この希望の欠片が私を更に苦しめる。

 頭に浮かぶネガティブな思考をグルグルと巡りながらトボトボと受付へ向かった。


 「ルシア、お疲れ様。貴方凄いわよ、今S級冒険者の中でも上位の達成率なんだから!」
 「そんな事より仕事が欲しいわ。悲しい事を考える暇も無い程の仕事を。」
 「あら、何~。もしかして最近仕事ばかりなのは失恋でもした憂さ晴らし?」

 失恋の憂さ晴らし。そうかもしれない。いや、確実にそうだ。欲しかったショタが手に入らなかったと言うよりは失恋なんだ。カウンターにゴンッと頭を打ち付け、そのまま突っ伏して話を続ける。
 頭を上げる気力も無い。

 「失恋・・・そうね。初めて本気になった人に振られたわ。だからありったけの仕事をちょうだい。」

 そう言うや否や、私に近づく足音がコツコツと聞こえてきたかと思えば許可なく体を密着させて隣に立つ距離なし人物が現れる。

 「へぇ、ルシアを振るなんてどこのどいつだ?俺が優しく慰めてやろうか?」

 そんな言葉をかけてくるヤツにチラりと視線を向けると昔一緒に仕事をした事がある冒険者がいた。名前は覚えていない。そうそう、こういう体だけ楽しみたいって言うヤツが絡んでくるから嫌なのよ。
 だけど、一瞬流される気持ちもわかった。たった少しの時間でも忘れさせてくれるなら飛び付きたくなる気持ち。
 心がただただ寂しいと叫ぶ様な今の状況を忘れたいんだ。
 顔を上げてその彼をしっかり見れば微笑み手を握ってくる。



 この手がエミルの手だったらどんなに幸せだろう。

 
 「ルシア・・・さん。依頼の案内をしますのでこちらに。」

 
 あぁ、私はエミルが好きすぎて彼の話す幻聴が聞こえ始めている様だ。


 「おい、今俺がルシアと話してるんだけど。チビは黙ってろ。」

 ん、チビ?新しいショタかな?と頭を過るけれどショタへ魅力を感じてない自分に驚く。
 エミルより良いショタに出会える気がしない。

 「僕は仕事をしているだけです。貴方こそ遊びに来ているならギルドの外へ行ってください。」
 「ただの職員が偉そうに。俺達のお陰で金貰ってる癖によ。」

 男が私の手を離してチビと言われたギルド職員へ体を向けたその隙間から、私の会いたくて仕方なかった人が見えた。

 ・・・エミル?

 でも彼が・・・エミルがドワーフの里から外に出るなんてあり得ない。里の周辺には危険な魔物が生息していてS級冒険者に依頼を出さなければ無事に出て来るなんてできっこない。
 そんな依頼なんて勿論探しても無かったし・・・疲労から来る幻覚なの?

 今にも掴みかかろうとする男。
 そして思い人の幻覚。
 ドラゴン相手にもこれ程俊敏になれたらもっと楽に倒せたのに・・・と思うほど素早く移動し、男の肩をドンと押して突き放した。


 例え幻覚でも私が守る。


 「ギルド職員の助けがあっての冒険者でもあるわ。貴方は頭を冷やして出直しなさい?」

 よろけて後ろに下がった男の足元に転移魔法を施し街外れまで飛ばしてあげた。周囲からはおおー!と歓声が上がるけれど、私はそれどころじゃない。

 ギルド職員コスのレアなエミルの幻覚が消える前にお持ち帰りしなくては!!!!

 飢えた熊の様にガバッとエミルを抱き締めると幻覚から「わぁ!」と小さな声が上がる。
 先程と同様に自身を転移魔法で自室まで移動したのだった。
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