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仕事の話。

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 エミルと楽しい食事。

 彼はお腹が空いていたのか沢山食べてくれた。無口な彼が食事中にポロッと「こんな美味しいスープ。両親にも食べさせてあげたかった。」と呟いて私を殺しに来た。

 夢が叶って早々に死ぬわけにはいかない。

 そして空になった鍋と器を片付けてからテントを指差す。

 「狭いけれど、今晩はあそこでゆっくり休んで。」
 「貴方は・・・どこに寝るのです?」

 どことなく不安そうな彼の声が私に届いた。夜の暗闇がそう見せているだけだろうか?

 ・・・あぁ!

 あんな狭いテントで私と二人で寝ると思ってる?大丈夫、大丈夫。そりゃ心配だよね、ほとんど知らない相手と一緒なんてね!
 
 「私は寝ないわ。今晩は納品物を守らなければいけないもの。焚き火を見ながら朝を待つの。」
 「それなら僕も・・・。」
 「貴方は可能なら寝ていて欲しいのだけれど・・・。ここでは眠れないかしら?」


 荷台で座っているのも疲れたはず、だけど何故だろう。寝込みを私に襲われないか心配なのだろうか。
 不思議に思い、彼の様子を眺めていると視線を忙しなくあっちこっちへ漂わせてから虫の囁きかと思う程小さな声が私にやってくる。


 「貴方の事を・・・良ければ少しでも知りたいんです。男性避けとはいえ、ふ、夫婦になるのですから。」



 ・・・


 ・・・私を殺す気なのかな?可愛いが凄まじい勢いで攻めてくるよ?
 うっかり可愛過ぎて息をするのを忘れた私だけど咄嗟に笑顔を作った。


 「そう・・・それなら貴方が眠くなるまでの間ならいいわ。お話しましょう。」

 下心がバレてはいけないと、素っ気ない余裕ぶったその返事にも彼は「はい。ありがとうございます。」と真面目に返してくれる。


 こんな楽しい野宿は初めてかもしれない。

 まるで初めてのデートをするかのように心が弾んだ。

 ・・・

 焚き火を囲み再び二人で火を見つめる。
 パチパチと弾ける火を見ているのは結構楽しいけれど今は何か話した方が良いだろうか。

 「貴方は・・・。」

 エミルは何か聞き出そうとするのにどう話し出せばいいか悩んでいる様子だった。
 さすがドワーフの男性。口下手だ。口下手なのに頑張ろうとする姿がたまらんのですが。
 苦手な事を頑張れる君は尊い。

 「エミルは里でどんな事をして生活していたの?」

 話を切り出せば、視線をこちらに寄越してから無表情のままポツポツと話してくれた。

 「主に里に来る依頼の整理と期日の管理です。期日を過ぎそうなら手の空いている者に協力をお願いしに行ったり・・・無茶な依頼は断りの返事を入れるか代案を出したり。・・・そんな事しか出来ませんでした。」


 ・・・

 ・・・え?


 「それは・・・エミルが里を出てきて良かったのかしら?」
 「僕は居ても居なくても同じだと言われていましたから・・・だから大丈夫です。」



 大丈夫じゃないやつ!!



 里は暫くしたら大騒ぎにならないかな。だけど他人の仕事を軽く見る奴は痛い目見ると良い、天罰だ。
 そして、ふと脳裏に過った依頼書の束を思い出す。

 「もし良ければなのだけど・・・この仕事が終わったらどの仕事を受けたら良いか意見を聞かせて貰えないかしら?」
 「お役に立てるか分かりませんが・・・。」

 まだ受けていない依頼書の束をエミルに差し出すと懐から眼鏡を取り出し、身につけてから丁寧な手つきで依頼書を確認する。

 
 眼鏡!!


 ・・・眼鏡キター!!


 通常バージョンと眼鏡バージョン両方楽しめるって事!?
 寝る時だけ眼鏡を外すというのも捨てがたい、だけど眼鏡無しからの時折眼鏡も破壊力が凄まじい!! 
 その姿を焚き火が照らし、彼の神々しさに拍車をかける。


 「貴方が得意な事、やりたくない事を聞いてもいいでしょうか?」
 「魔物の討伐なら何が相手でも負ける気がしないわ。だけど長期滞在や討伐以外の事で時間の掛かるものは嫌ね。」
 「わかりました。」

 すると彼は依頼書の中から三枚ほど私に差し出した。

 「そちらなら内容や距離、環境を考えても討伐以外には時間が掛からないでしょう。依頼者も信頼できる所です。こちらに残した物は時間が掛かるものや信用出来ない依頼者の物です。」
 「信用出来るかどうかも分かるの?」
 「はい。内容の信憑性や依頼者本人の信用度で判断しています。僕も里に来る依頼のやり取りで多くの依頼人と関わってきましたので・・・その、僕の経験則では有りますが。」

 私は差し出された依頼書を改めて読むと、それは確かに良さそうな内容だった。今まで魅力的に見えて飛び付いたら割に合わない!って事もあったし、行ってみたら内容違うじゃん!って事もある。

 「すごいわエミル!!貴方がサポートしてくれたら私、仕事に専念出来るもの!エミルはギルド職員も向いているんじゃないかしら。その豊富な知識で冒険者にアドバイス出来るわ。」

 実際に彼が里でこの役目をする事で他のドワーフ達は物造りに専念出来たのだろう。
 続いて他に気になっていた書類を彼の腕から引っ張り出すと肩の当たる距離までグイグイ距離を詰めて座り直した。仕方ないよね?二人で書類見るならこの距離は必要な事。その行動に目を丸くする彼だけど、その可愛い御目々はすぐに依頼書へ視線を戻した。

 「この依頼書なのだけど、どこを見て弾いたの?」
 「これは・・・」
 

◆◆◆


 その後、依頼書の話題で大いに盛り上がった。内容の信憑性の部分なんてその地域を見てきたのか!?と思う程の知識から疑うものだから聞いていて飽きなかった。
 楽しい時間だったけれど一頻り話した所で、エミルの欠伸を噛み殺す動きを見逃さないショタコン淑女な私。

 「エミル、そろそろ寝るといいわ。」
 「だけど、貴方が起きてるのに。」
 「明日、もし眠気に負けそうになったらエミルに助けて貰うわ。だから今はしっかり寝なさい。」

 長く冒険者をしている私は一晩寝ない位は慣れている。だけど急にそれに付き合わせるつもりは無い。

 「分かりました。ではお休みなさい。」
 「えぇ、お休み。」

 エミルがテントに入ってから。
 私は最大限の殺気を放ち周囲を威嚇した。守っているのは勿論エミル。野生のショタコンに手出しはさせない・・・いいや、虫一匹たりとも近付かせはしない。あれは私の獲物だと周囲に分からせるように一晩中殺気を放った。




 ーその日の森は魔物同士の争う声も、虫達の奏でる愛の歌も一切聞こえない恐ろしい程の静けさがあったと言う。ー

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