4 / 12
仕事の話。
しおりを挟むエミルと楽しい食事。
彼はお腹が空いていたのか沢山食べてくれた。無口な彼が食事中にポロッと「こんな美味しいスープ。両親にも食べさせてあげたかった。」と呟いて私を殺しに来た。
夢が叶って早々に死ぬわけにはいかない。
そして空になった鍋と器を片付けてからテントを指差す。
「狭いけれど、今晩はあそこでゆっくり休んで。」
「貴方は・・・どこに寝るのです?」
どことなく不安そうな彼の声が私に届いた。夜の暗闇がそう見せているだけだろうか?
・・・あぁ!
あんな狭いテントで私と二人で寝ると思ってる?大丈夫、大丈夫。そりゃ心配だよね、ほとんど知らない相手と一緒なんてね!
「私は寝ないわ。今晩は納品物を守らなければいけないもの。焚き火を見ながら朝を待つの。」
「それなら僕も・・・。」
「貴方は可能なら寝ていて欲しいのだけれど・・・。ここでは眠れないかしら?」
荷台で座っているのも疲れたはず、だけど何故だろう。寝込みを私に襲われないか心配なのだろうか。
不思議に思い、彼の様子を眺めていると視線を忙しなくあっちこっちへ漂わせてから虫の囁きかと思う程小さな声が私にやってくる。
「貴方の事を・・・良ければ少しでも知りたいんです。男性避けとはいえ、ふ、夫婦になるのですから。」
・・・
・・・私を殺す気なのかな?可愛いが凄まじい勢いで攻めてくるよ?
うっかり可愛過ぎて息をするのを忘れた私だけど咄嗟に笑顔を作った。
「そう・・・それなら貴方が眠くなるまでの間ならいいわ。お話しましょう。」
下心がバレてはいけないと、素っ気ない余裕ぶったその返事にも彼は「はい。ありがとうございます。」と真面目に返してくれる。
こんな楽しい野宿は初めてかもしれない。
まるで初めてのデートをするかのように心が弾んだ。
・・・
焚き火を囲み再び二人で火を見つめる。
パチパチと弾ける火を見ているのは結構楽しいけれど今は何か話した方が良いだろうか。
「貴方は・・・。」
エミルは何か聞き出そうとするのにどう話し出せばいいか悩んでいる様子だった。
さすがドワーフの男性。口下手だ。口下手なのに頑張ろうとする姿がたまらんのですが。
苦手な事を頑張れる君は尊い。
「エミルは里でどんな事をして生活していたの?」
話を切り出せば、視線をこちらに寄越してから無表情のままポツポツと話してくれた。
「主に里に来る依頼の整理と期日の管理です。期日を過ぎそうなら手の空いている者に協力をお願いしに行ったり・・・無茶な依頼は断りの返事を入れるか代案を出したり。・・・そんな事しか出来ませんでした。」
・・・
・・・え?
「それは・・・エミルが里を出てきて良かったのかしら?」
「僕は居ても居なくても同じだと言われていましたから・・・だから大丈夫です。」
大丈夫じゃないやつ!!
里は暫くしたら大騒ぎにならないかな。だけど他人の仕事を軽く見る奴は痛い目見ると良い、天罰だ。
そして、ふと脳裏に過った依頼書の束を思い出す。
「もし良ければなのだけど・・・この仕事が終わったらどの仕事を受けたら良いか意見を聞かせて貰えないかしら?」
「お役に立てるか分かりませんが・・・。」
まだ受けていない依頼書の束をエミルに差し出すと懐から眼鏡を取り出し、身につけてから丁寧な手つきで依頼書を確認する。
眼鏡!!
・・・眼鏡キター!!
通常バージョンと眼鏡バージョン両方楽しめるって事!?
寝る時だけ眼鏡を外すというのも捨てがたい、だけど眼鏡無しからの時折眼鏡も破壊力が凄まじい!!
その姿を焚き火が照らし、彼の神々しさに拍車をかける。
「貴方が得意な事、やりたくない事を聞いてもいいでしょうか?」
「魔物の討伐なら何が相手でも負ける気がしないわ。だけど長期滞在や討伐以外の事で時間の掛かるものは嫌ね。」
「わかりました。」
すると彼は依頼書の中から三枚ほど私に差し出した。
「そちらなら内容や距離、環境を考えても討伐以外には時間が掛からないでしょう。依頼者も信頼できる所です。こちらに残した物は時間が掛かるものや信用出来ない依頼者の物です。」
「信用出来るかどうかも分かるの?」
「はい。内容の信憑性や依頼者本人の信用度で判断しています。僕も里に来る依頼のやり取りで多くの依頼人と関わってきましたので・・・その、僕の経験則では有りますが。」
私は差し出された依頼書を改めて読むと、それは確かに良さそうな内容だった。今まで魅力的に見えて飛び付いたら割に合わない!って事もあったし、行ってみたら内容違うじゃん!って事もある。
「すごいわエミル!!貴方がサポートしてくれたら私、仕事に専念出来るもの!エミルはギルド職員も向いているんじゃないかしら。その豊富な知識で冒険者にアドバイス出来るわ。」
実際に彼が里でこの役目をする事で他のドワーフ達は物造りに専念出来たのだろう。
続いて他に気になっていた書類を彼の腕から引っ張り出すと肩の当たる距離までグイグイ距離を詰めて座り直した。仕方ないよね?二人で書類見るならこの距離は必要な事。その行動に目を丸くする彼だけど、その可愛い御目々はすぐに依頼書へ視線を戻した。
「この依頼書なのだけど、どこを見て弾いたの?」
「これは・・・」
◆◆◆
その後、依頼書の話題で大いに盛り上がった。内容の信憑性の部分なんてその地域を見てきたのか!?と思う程の知識から疑うものだから聞いていて飽きなかった。
楽しい時間だったけれど一頻り話した所で、エミルの欠伸を噛み殺す動きを見逃さないショタコン淑女な私。
「エミル、そろそろ寝るといいわ。」
「だけど、貴方が起きてるのに。」
「明日、もし眠気に負けそうになったらエミルに助けて貰うわ。だから今はしっかり寝なさい。」
長く冒険者をしている私は一晩寝ない位は慣れている。だけど急にそれに付き合わせるつもりは無い。
「分かりました。ではお休みなさい。」
「えぇ、お休み。」
エミルがテントに入ってから。
私は最大限の殺気を放ち周囲を威嚇した。守っているのは勿論エミル。野生のショタコンに手出しはさせない・・・いいや、虫一匹たりとも近付かせはしない。あれは私の獲物だと周囲に分からせるように一晩中殺気を放った。
ーその日の森は魔物同士の争う声も、虫達の奏でる愛の歌も一切聞こえない恐ろしい程の静けさがあったと言う。ー
10
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
乙女ゲームの愛されヒロインに転生したら、ノーマルエンド後はゲームになかった隣国の英雄と過ごす溺愛新婚生活
シェルビビ
恋愛
――そんな、私がヒロインのはずでしょう!こんな事ってありえない。
攻略キャラクターが悪役令嬢とハッピーエンドになった世界に転生してしまったラウラ。断罪回避のため、聖女の力も神獣も根こそぎ奪われてしまった。記憶を思い出すのが遅すぎて、もう何も出来ることがない。
前世は貧乏だったこら今世は侯爵令嬢として静かに暮らそうと諦めたが、ゲームでは有り得なかった魔族の侵略が始まってしまう。隣国と同盟を結ぶために、英雄アージェスの花嫁として嫁ぐことが強制決定してしまった。
英雄アージェスは平民上がりの伯爵で、性格は気性が荒く冷血だともっぱらの噂だった。
冷遇される日々を過ごすのかと思っていたら、待遇が思った以上によく肩透かしを食らう。持ち前の明るい前向きな性格とポジティブ思考で楽しく毎日を過ごすラウラ。
アージェスはラウラに惚れていて、大型わんこのように懐いている。
一方その頃、ヒロインに成り替わった悪役令嬢は……。
乙女ゲームが悪役令嬢に攻略後のヒロインは一体どうなってしまうのか。
ヒロインの立場を奪われたけれど幸せなラウラと少し執着が強いアージェスの物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの運命になれたなら
たま
恋愛
背の低いまんまるボディーが美しいと言われる世界で、美少女と言われる伯爵家のクローディアは体型だけで美醜を判断する美醜感に馴染めずにいる。
顔が関係ないなんて意味がわからない。
そんなか理想の体型、好みの顔を持つ公爵家のレオンハルトに一目惚れ。
年齢も立場も離れた2人の運命は本来重なる事はないはずだったが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる