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悪霊もパッピーエンドはありました。◆終わり◆

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 王都に帰ってきて数日が過ぎ。

 私は【妖精の仲介人】の仕事を続けられる事が決まりました。アリスちゃんが国民の治癒に専念するという事で、むしろ感謝されている。

 「忙しすぎて死ぬかと思った。ありがとう見えない妖精さん。」
 「見えるだろ、マーリットだ。」
 「そうそう、マーリットさん。」

 横で不機嫌そうに訂正するスヴァインさんにカラッとした返しをするアリスちゃん。前みたいにスヴァインさんを取られるんじゃないか!?という不安は現れなかった。インテリメガネとの仲も良好らしい。

 私が仕事に戻ったことで、『また楽しめるな!』と妖精王がワクワクしている。この国の妖精を飽きさせない様にしようと改めて気合いを入れた。



 そして両親とも話をした。


 
 私の姿を確認してとても喜んでくれたのだけど、お父様とお母様は何だか少しぎこちなく見えた。だけどヴァンリットの姿を見て二人とも大喜びで相手をしてくれた。
 
 「そういえば、リヴはどうしていますか?」

 そう聞くと途端に空気が暗くなり、お母様が恐る恐るといった様子でリヴから届いた手紙を見せてくれながら経緯を話してくれる。中には写真が入っている物もあり、子供達に囲まれながら偉そうに立つ姿が写っていた。
 
 (王妃教育の先生と各国旅して子供の教育をしているなんて、根性ありますね・・・。)

 笑った私を見て、気になったのかタッタと走ってきたヴァンリット。一緒に写真を見ると嬉しそうに声を上げる。

 「リヴせんせー」
 「ヴァンリットはリヴの事を知っているのですか?」
 「うん、妖精の投げ方教えてくれた。」

 ヴァンリットがその写真を見てそう言った時は皆で吹き出していた。

 「どんな先生だった?」
 「絵本読んでくれる。」

 そんなヴァンリットにお母様が「ありがとう」と言う。私が特にリヴに怒ってない事を伝えたけれど「近いうちに国へ一度戻るように連絡してみるわ。謝らせなくては。」とお母様が話していた。

◆◆◆


 そして、私達はまだ出来ていなかった入籍と結婚式を行いました。


 「緊張します。」


 静まり返った大きな神殿の扉の前でカタカタ震える私にお父様とお母様が私の背中を押してくれる。

 「マーリット、私は情けない親だったがお前は頼もしい伴侶を見つけたな。」
 「ふふんっ、世界で一番頼もしい人です。」
 「私が悪霊怖さにお前を追い出してしまった時も、彼が守ってくれた。何処かに消えたお前を見つけたのも彼だ。そんな人に娘が出会えて心の底から良かったと思っているよ。」
 「お父様、泣かないで。」

 自分の情けなさと喜びとで泣くお父様。情緒がぐちゃぐちゃです。そんなお父様を隣でハンカチで拭くお母様。私が帰ってきてからまた自然に話せる様になったと言っていた。

 「さあ、綺麗な花嫁様には二人の大切な人が待ってるわ。早く行かせてあげましょう。」

 そう言って開かれた扉の先は白い空間。
 この世界の神様とされる女神の像と集まった人達で賑わっていた。

 「おかーさん!」

 走って来たのは勿論ヴァンリット。

 「格好いいですね、ヴァンリット。」
 「うん、僕、おかーさんと結婚するもん。」

 何やら勘違いするヴァンリットに会場に居た招待客が盛り上がった。「可愛いー!」とか「この子には勝てない!」とか。

 「これは強敵だなスヴァイン。」
 「・・・」

 ドレスで動きが制限されているからヴァンリットの手を取るだけで抱き上げられずに居ると、ひょいっとヴァンリットが視界から消えた。
 ヴァンリットの姿を探すと、髪がセットされてフォーマルな雰囲気のスヴァインさんが高い高いと持ち上げていた。

 「これだけは譲れない。ヴァンリット、諦めてくれ。」
 「えー!やだー!結婚する!」
 「ヴァンリットの好きなチョコのお菓子と交換は?」
 「なんこ?」
 「3個」
 「さんこ!良いよ!」

 美味しいお菓子で簡単に意見が変わる強敵は皆の居る席で団長家族からお菓子を貰って食べ始めた。団長のお子さんも3年と少し経てば立派なお兄さんでヴァンリットの頭をよしよしと撫でてくれる。

 「強敵は倒したよ、マーリット。」
 「何とも言えない戦いでしたね。」

 そう言って差し出してくれた手を優しく握ると引き寄せられてふわりとキスをされる。観客から「まだ早いぞ!」と野次が飛ぶけれどスヴァインさんはニコリと笑うだけで気にも止めなかった。

 「勝者への褒美はあって当然だ。」
 「ふふふっ、私もご褒美を貰った気分です。」

 二人で手取り、女神像に向かい歩くともう片方の手に小さな手が重なった。

 「おやつ食べた!」
 「早いな。」
 「ふふふっ、良いじゃないですか、このまま家族の絆を誓いましょう。」
 「それもそうだな。」

 誓いの言葉を紡ぐ神職も、このやり取りに合わせてくれて女神様に家族として認めてもらう誓いを立てる。

 厳かとは行かずワイワイした式になったけれど、とても良い挙式になったと心から思う。

 「そうだ、マーリット。大切な事を良い忘れていた。」
 「何でしょうか?」
 
 私を真っ直ぐ見て、今までで一番の笑顔を向けて。

 「マーリット、愛してる。これからもずっと共にいよう。可能な限り長く。」
 「私もスヴァインさんを愛してます。可能な限り長く健康で共にいましょう。」


 幸せだ。

 心からそう思えた。

 姿の見えない悪霊令嬢なんて、恋すら出来ないと思っていた。だけどこうして見つけてくれる人に出会えて、幸せを実感できる。

 「おかーさん、おとーさん。僕には?」

 幸せに浸っていると、小さな愛する子がキラキラと瞳を輝かせてこちらを見る。

 「貴方が嫌だと言ってもずっと愛していますよ。」
 「ヴァンリットを愛しているよ、生きる限り力になると誓うよ。」
 「やったー!」



 かっこよくて美しい騎士と悪霊と呼ばれた私の結婚は話題性だけはあり沢山の人が集まり祝福の言葉を貰った。
 スヴァインさんの周辺にできた女性ばかりの人だかりには少し妬けてしまうけれど、私に男性が近づいて来た時は素早く間に入り、威嚇した姿を見て少し嬉しい気持ちにもなった。

 だけど一番モテたのはヴァンリットで小さな女の子達に囲まれてチヤホヤされて喜ぶ息子を微笑ましく見守る。



 こうして、私達の結婚式は終わりました。



◆◆◆


 それからだいぶ時は経ちまして。
 私達はスヴァインさんの屋敷で生活していましたが、敷地内に家族が生活する為の別宅を建てました。
 私があまりにも驚くのとヴァンリットが怖がるので新たな生活スペースの誕生です。

 なのでトリック屋敷は【民衆救助演習】の為とスヴァインさんが小説を読みにふらりと入る場所となりました。

 妖精の仕事も順調で婚姻率が上がり、出生率も上昇傾向にあるとか。素晴らしい。

 そうしているうちに、オパールが子供を授かり、次に聖女様であるアリスちゃんも子供を授かり。ヴァンリットはお兄ちゃんとして小さな子達の面倒を良く見にお城へ行きます。
 オパールの所は子沢山で、何だかんだ言いながら仲が良いのだなと感じます。ヴァンリットはそんな小さな子達に囲まれ、頼りにされて嬉しいみたい。

 「ボクは皆を守る騎士になる!」
 「駄目だ。」

 小さな子達に囲まれて、ヴァンリットがそう言う度にスヴァインさんは却下し。

 「じゃあお父さんを倒して騎士になる!」
 「倒してから言うんだな。」

 そんな流れで剣術の指導をするものだからどんどん上達していきます。妖精王の加護もあるので騎士になるのを避けられる気がしません。
 ヴァンリットの次に女の子二人も授かり、妹可愛さに誰かを守りたい!と言う意識はずっと高いままです。
 明日はクローの子供達である馬に会いに行き、乗馬を練習するらしい。
 
 「どうしてこうなったんだ・・・。」

 夜、子供達が寝静まるとスヴァインさんはヴァンリットが怪我をしないか悩む毎日。

 「ふふふっ、強くなりましたから仕方ありませんね。将来はお姫様や王子様を守る騎士かも知れませんね、それか次期聖女様の騎士でしょうか。」
 「将来苦労しかしないじゃないか。」
 
 【妖精の仲介人】は娘のどちらも妖精と話が出来るので、どちらがなっても安泰です。結構面倒な仕事だからどちらも嫌だと言う可能性もありますけどね。

 もし、そうなったらリヴの子に引き継がれるのでしょうか?

 今は国外の活動経験を生かして世界の事を教える先生として国内の学校に勤務するリヴ。なかなかのイケメンを捕まえて近いうちに子供も生まれそう。リヴは再会してから子供達に教育関係の玩具をプレゼントしてくれる。私達の関係は最近やっと姉妹らしくなったと思う。

 「そう言えばこの前、娘達のどちらが妖精王と結婚するかで言い合いしてました。」

 その言葉に深くソファに座ってだらりとするスヴァインさん。

 「子供たちは苦労する人生を選んでいくな。」
 「ふふふっ、そういうものですよ。・・・それにしても、そのだらりとした姿を見ると出会った頃を思い出します。」
 「んー、あぁ。」

 まるでパンダの様に愛嬌が有りだらりとする姿を久しぶりに見て、思い出すと共に少し不安も生まれる。それが表情に出たのか彼はハハッと笑って見せた。

 「大丈夫、今はとても楽しいんだ。あの頃とは違う。」
 「良かった。」
 「愛する妻も居るからね?」
 
 急に出てきた甘い雰囲気にドキリとしながらチラリと彼を見れば案の定、熱を感じる瞳で私を見ていた。

 (うう、この瞳には弱い。)
 「そろそろ四人目とかどうだろう?」

 恥ずかしくて、ほんの少しの間だけ目をそらした隙に私をぎゅうっと抱き締めて来た彼。

 「ひゃぁ!」
 「マーリット。出会った頃を思い出したらもっと君を感じたくなったな。見えなかった君が、ここに居ると感じたい。」
 「・・・私も、貴方を感じたい。ちゃんとここで生きて居ると。」


 時が経っても幸せを感じる毎日。
 こんな幸せな未来を生きている私は、悪霊と呼ばれた日々に感謝してもいいかとすら思えています。


◆終わり◆
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