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小さな男の子【スヴァイン視点】

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 軽快なステップを踏むクローより俺をジッと見て「おとーさん」と言う男の子。

 (髪色が父親にでも似ているのだろうか。)

 目線を合わせて屈むと男の子はニコッと微笑む。

 「君の名前は?」
 「あーいっと。」
 「・・・あーいっと?」
 「違うよ、あーいっと。」
 「・・・あーいっ」
 「ちがう。」
 「難しいな、君の名前は。」

 多分、上手く発音出来ていない。それは俺も同じ。

 「おとーさん、どこからきたの?」
 「あっちだ。」

 否定して良いのかどうか分からず「おとーさん」に関しては流す事にした。わざわざ子供の言う事を否定しなくても良いだろうから。すると知らない男に話しかけられる子供に危機感を感じてか面倒を見ていた神職の1人が駆け寄って来た。
 先程の年老いた人物ではなく、若い女性の神職だ。


 「すみません、この子のお父さんですか?」

 お父さんか?と聞かれてこの子の前で否定して良いのか悩む。確認された、と言う事はこの神職はこの子の父親を知らない。もしかすると父親が居ないのかも知れない。父親が居ない子に父親じゃないと目の前で言うのは気が引ける。

 「・・・。」
 「おとーさん。」

 彼は俺を指差しておとーさんとハッキリ断言した。

 「もしかして奥さまに内緒で会いに来たのでしょうか?たまにいらっしゃるんですよ。離縁したけど子の顔を見に遊びに来るお父様が。受け渡しは出来ませんけれどね?」
 「あ、いや。それは勿論。」

 子供の前だからか笑顔だけれど、笑顔なのにギロリと睨みを効かせる目が怖い。

 「お父さん似なのね?」
 「んっ」

 そう言われた彼は照れた様にニヤリと笑った。何か気を良くしたのか、そわそわとする彼は目をキラキラさせて俺をみる。
 女性の神職はチラチラとこちらを確認しながら他の子の面倒を見に行った。

 「おとーさん、遊ぼ!」
 「遊んでもいいがそっちへは行けない。何か出来る遊びはあるのか?」
 「その子なら柵とおれるでしょ?一緒に遊んでいい?」
 「その子?」
 
 男の子は小さな人差し指をツンと立てて俺の肩を指差す。

 「かわいー石のようせい。」

 確かに石の妖精と言った、その言葉にドキリとした。俺にも見えない石の妖精。ずっと俺にくっついているとマーリットが言っていた妖精。

 「見えるのか?石の妖精が。」
 「んっ、来てくれてありがとう。」

 男の子が柵から手を伸ばすのでそちらに体を寄せると手に何か乗った様だ。


 すると。



 「えいっ」
  ぽいッ


 
 多分投げた。
 そして男の子は、何やら慌てて投げた場所へ走っていく。

 「ごめんね、ごめんね。おとーさん、石の妖精泣いちゃった。」
 「投げて良いか聞いたのか?」
 「聞いてない。石だから投げても痛くないと思って。」
 「次から聞こうか。」
 「うん。」

 手を出すと、そこに男の子が温かい何かを乗せる。前にマーリットに教えてもらった温かさ。

 (懐かしいな・・・妖精を手に乗せて、ここに居ると教えてもらった。)

 石を見たら投げたくなる気持ちは分かる。石の妖精を見た時の衝動は分からないけれど。

 「おとーさん。宝物みる?」
 「宝物?あぁ、見たい。」

 泣いていると言う妖精を引き取ると気持ちを切り替えた様にそう聞いて来た男の子。
 たったったっと建物に走り去る小さな背中を見届ける。

 (可愛いな。あんな子なら10人居てもいい。)

 すると、その子が居ない間にさっきの若い神職が近寄ってきた。

 「仲直り出来るのでしたら早く奥様と仲直りしてくださいね?あの子、いつもおとーさんに会いに行くって楽しそうに話してくれるんですよ。」
 
 そのお節介な言葉にも苦笑いしか出来ない。
 しかし、とても可愛い子供だと思う。他にも可愛らしい子供は居るのに、あの子は群を抜いて可愛い。男の子だけど大人しい所は俺の幼少期と重なる。自分に似ていると感じる部分があるから可愛いと感じるのだろうか?

 (だけど、マーリットを探さなくてはいけない。宝物を見たら探しにいこう。)

 可愛さに次は、次は、と探しに行く事が先伸ばしになっている。
 暫くして神殿の扉が開くと布に包まれた長い何かをズルズルと引きずってやって来た。よいしょ、よいしょ、と小さな体でその大きな物を運ぶ姿はやはり可愛い。
 この子の為に可愛いを表現する言葉を増やさなければと思うほど可愛い。

 「ヴァンリット君。それは持ってきても良いけど遊んだら他のお友達に怪我させちゃうからダメよって言ったでしょ?」

 出口の辺りで注意を受けてションボリと頭を下げる先程の男の子。だけど、お陰で名前の謎が解けた。それが嬉しい。彼の名前を呼べる事が。

 (ヴァンリットって言うのか。あーいっと、と言っていたのはなかなか雰囲気は掴めている。)

 「おとーさんが宝物見たいって。」

 しかし悪気無く俺を指差しそう言うものだから、神職のギロリとした目が再びこちらに向けられる。

 「い、いや大丈夫だ、ありがとうヴァンリット。」

 両手を前で振って極力笑顔で伝えるけれど、相手からしたら約束を破る切欠を作ってしまった人物。この場を離れた方がいいと察して移動しようと思うのだけど。

 「まだ、見せれてない!」

 と彼は怒り出す。地面をダンダン踏んで怒りを表す姿は可愛い。宝物を不用意に持って行かないように注意する神職に抵抗する。

 「また今度見せてくれ、ヴァンリット。今日は行かなくてはいけない。」

 苦し紛れにそう言うと涙をたっぷり溜めた瞳でこちらを見る。その目は反則だ、止めてくれ。帰れなくなる、ここに住むしかない。

 「明日も来てくれる?」
 「勿論。」

 明日も来る、なんて睨みをきかせる神職の前で言って良いのか困ったけれど、この時は言わないといけない気がしていた。
 
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