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悪役令嬢のマーリット
しおりを挟むバタバタと準備をして一階へ降りると既にアリスちゃんが来ていた。いつも通りの眩しい笑顔、美しくも可愛い見た目。彼女の周りに寄り添う妖精たち。幻想的な光景。
そんな彼女にスヴァインさんがいつも通り対応している。
『・・・』
前世でゲームをプレイしていて、悪役令嬢にいつも思っていました。
ヒロインに悪い事さえしなければこんな結末にはならないのに何で止められないかな?取られるも何も、邪魔するのではなくて努力すれば良いのに。
「そう、そこがあの小説の良さだよね。」
「そうだな。」
ニコニコとまぶしい笑顔を向けるアリスちゃんと、相槌を打つスヴァインさん。普段他人には素っ気ないのに彼女には優しい気がする。
近くに居るのに遠い。
『今なら分かるよ。マーリット。』
胸に手を当てると、体の奥底からヒヤリと冷たい何かが這い上がって来る。
『努力しても間に合わない、このまま居場所を取られるくらいなら・・・そう思ったんだね。』
すぐ背後に迫っている影が言う。
『私の居場所がどんどん消えて行くのが怖かった。このまま無くなるくらいなら・・・』
アリスちゃんを。
「マーリット。」
『!!』
何か黒く冷たい影に飲み込まれそうになった時、彼の声がした。ハッとして声のする方を向けばいつの間にか話を終えたスヴァインさんとアリスちゃんが居る。
「近くに来てくれないか。」
『っ・・・。』
恐い。このままこの影に飲み込まれてしまいそうで恐い。
『っ・・・。っ・・・。』
「見えない妖精さん?居るんですか?」
また見えない妖精。
私はここにいるのに。
「返事が無いって事は居ないんじゃない?スヴァイン様。」
居るよ。ここに居るのに貴方のせいで・・・私は。ううん、駄目。このままここに居たら駄目なんだ。
きっとこのまま二人を見ていたら闇に落ちしてしまう。
二人から離れよう。
そう思い、なるべく息を潜めて裏口から外へ出た。
外はギラギラと全てを照す太陽の光に満ちている。その光に照らされていても体の芯は冷たい。
『まさか、悪役令嬢のマーリットがここで顔を出すなんて。』
体を擦り、自分を抱き締めて、行く宛も無く裏庭にやってくる。
〈全てを手に入れるあの子が嫌い。〉
『上手く行っている様に見えますけど、苦労多いですよ?彼女。』
〈私の居場所はどこにあるの?〉
『心細いですよね。私も今、心細いです。』
1つ1つ自らの口から溢れる言葉に答える。
〈あの子に何か罰を与えなければ。人のものを取った罰。〉
『何も悪い事はしていませんよ。あの子は。ただ魅力的なだけです。それに皆が惹かれていく。』
〈消してしまいたい。〉
『うん。』
〈消えてしまいたい。〉
『うん。』
・・・
プスン!!ベロンベロン。
『ぶぁ!!』
今、意識が飛んでいた気がする。
前を向くとクローが私の顔をベロンベロンしていた。
『クローさん!ぶっ、どろどろだぁ。』
不満を溢すとふんす!と鼻息を顔面に吹き掛けられる。クローは心配してくれたみたいだけれど止め方はどうにかなりませんか?
「マーリット、ここに居るのか?」
『スヴァインさん。』
何故か彼が私の事を見つけてくれた。
『あぁ、そうだ。アリスちゃんはまだ居ますか?』
「さっき帰った所だが。用事があるなら追いかけよう。」
何だか今、凄く危なかった気がする。
多分なのだけど、あれは私の体に残った記憶・・・そんな感じだ。アリスちゃんに嫉妬して思い出した体に刻まれた記憶。
ふとした時に嗅いだ香りで昔の出来事を思い出す・・・そんな時に似ていた。
この体は、この人生が初めてだと思っていた。だけどそれは違うのかも知れない。
「クロー」
彼の呼び掛けに答えたクローさんがアリスちゃんの所までひとっ走りするとすぐに追い付くことが出来ました。クローの走りは風に乗るように軽やかで気持ちいい、と最近は思えるようになった。
◆◆◆
『アリスちゃん、この手紙をこの人に届けて欲しいのですがお願い出来ますか?報酬は妖精結晶1つ。』
「うわっ!!妖精結晶1つ!?やる!」
苦学生な彼女にはとても良いアルバイトだと思う。
「あの、見えない妖精さん?これ、悪い物運ばされてたいしない・・・よね?」
『大丈夫です、ただの手紙ですから。相手も国一番の魔法使いですし。』
「あぁ!彼なんだ!」
『渡す場所と時間に指定が有ります。面倒ですけど良いですか?』
そう、私が考えた計画は、ヒロインをインテリメガネとくっ付けよう計画!
ごめんね、貴方の好みを無視して。
この手紙を渡すという名目で、インテリメガネとのイベント発生の頃合いに、その場所へ行く様にお願いしました。
名付けて、インテリメガネ強制攻略計画です!攻略していけば、ヒロインもインテリメガネ好きになりますからね。皆幸せで良いのではないでしょうか。
「この日時なら問題無いわ。任せてね。」
『よろしくお願いします。念のため受け取りのサインも貰って来てくださいね。そうしたら妖精結晶を渡します。』
見えなくともバイバイと手を振って見送ると、気持ちがスッキリしていた。
「マーリット、何故手紙を?」
『ちょっとしたきっかけ作りの手紙です。』
「それに妖精結晶1つも?」
『はい、手紙の内容は大した事ありませんが、私にとって大事な事なので。』
大事な事?
そうしてスヴァインさんが何か怪しんでいるみたいだけれど特に悪い事はない。
手紙の内容も『アリスちゃんとお話できる券』って書いてある。
何故、攻略対象がインテリメガネかと言うと一番世話になったから。と言う理由。
私は悪霊じゃないと早々に気がつき、報告書を纏めてくれた。騎士達の奥様へ招待状を送ったのも、それに来てくれたのも信頼できるインテリメガネだったから。妹と話す場を作ってくれたのも・・・。彼はなかなか世話焼きな面を持っていていると思う。
世話になった分、幸せにしてあげようじゃないの!
完璧だ。
◆◆◆
それからというもの。私はアリスちゃんに会ってはインテリメガネへのアリスちゃんと話せる券をイベント発生日に合わせて書いていった。
スヴァインさんとアリスちゃん二人の会話を少しでも邪魔したいという願望もこれで少しは解消できた。
◆◆◆
それからまた暫く経って、だいぶ好感度が上がったであろう頃。
国一番のお祭りが間近と迫っていました。ここでインテリメガネとお祭りに行けばルート確定!!緊張の時を目の前に少し興奮状態ですが、仕事もあります。
『それでは、この手紙はこの日時でお願いしますね。今日は民衆救助演習の打ち合わせあるので行きますね。』
「うん、任せて!見えない妖精さん。」
力強い返事を聞いて、私は安心してスヴァインさんとアリスちゃんを残して打ち合わせに向かった。
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