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あれから暫く経ちました。
しおりを挟む気持ちが通じ合ってから暫く経ちました。
1ヶ月?それともう少し?数える暇もなく忙しくなり数えられてはいません。
お互いに気持ちを確かめ合ったと言うのに、特にラブラブする訳ではなく今まで通りの生活に戻っています。
(物足りない。だけどがっついてると思われたくない。でも、もし元婚約者の方がいいと思われていたりしたら・・・。)
そんなモンモンとした日々を過ごしながらも計画していた恋愛成就のお化け屋敷は「民衆救助演習」と想定していた名前を変えてして成功。
やっている事は恋愛成就のお化け屋敷。
国で働く騎士や魔法使いは案外出会いが少なく、なかなか結婚に結び付かない。
なので名目を民衆救助演習として、招いた好みの異性と恐怖体験に挑む。特定の人が居ない場合は何人か招いて演習をするとか・・・出会いは多い方がいいよね?
恐怖の中に本性も見えると好評です。
インテリメガネの部下カップルや屋敷に来た騎士達から格好いい所を見せられると内輪で広まり、一般庶民の間では協力依頼が届くと恋人が出来る。と噂が広まっている。
悪霊マーリットが住むと言われるお屋敷でも「恋人欲しい!」のパワーで乗り越えられるらしい。
妖精達も次はどうやって脅かそう!と盛り上がり、妖精王もご機嫌に参加している。
妖精って何でこんなに人への悪戯が好きなのだろう?と思い聞いたら「感情表現が豊かだから驚いた時の反応が生物で一番面白い。」と話していた。
妖精の結晶もザクザクで、数える作業中は顔がにやけて戻りません。
これで私側に居る妖精はこの国の6割といった所。リヴ派はほとんど注意をされない放任主義なのでどうしても強い人気が有る。それでもこちらに6割も付いてくれた事、妖精王も居る事を考えると上々なのだと思う。
それでも今だに私を見えなくした妖精は私の派閥に入ってくれていないので指示が出来ず。
リヴに『ヒロインも登場して物語始まりましたよね?悪役令嬢はリヴで決まったのだろうから私の姿を戻して下さい。』と言っても『ゲームが終わるまで戻すわけないでしょ?』と帰ってきた。
『ケチッ!』と返せば「うるせー!嘘つき。」と返ってくる。姉妹喧嘩は続きます。
私の姿は他人から見えないまま。
同じくスヴァインさんも現状維持。まだ騎士をやめられていない。
私達が婚約した事で国王陛下からのお誘いは無くなったものの、事情を知る騎士達は剣の指導をしてほしい!と月に何回かの指導を悲願され、了承したそうだ。
団長さんは「見えないからってなめてかかった輩の鼻っ柱を折ってやろうぜ!」
と嬉しそうに言っていた。スヴァインさんは見えなくても凄い。前世で見た、目が見えない剣士のお話を思い出すと、ロマンで溢れていて尊敬しかないし、純粋に格好いい。
「剣術の相手役として徐々に回数を減らして行く。」
彼はそう話していた。フェードアウト狙い。最近気持ちは重くならないか聞くと「婚約してから調子が良い。」と言ってくれたので少し安心しています。
そしてイレギュラーな出来事も1つ。
「スヴァイン様、本のお届けです。」
「ありがとう。」
ヒロイン、名前をアリスちゃんと言うらしい。王立学園に途中入学した高等部二年生。
頭がよく、可愛い。完璧すぎるヒロイン。
文字だけ見える様になった彼は本屋に足を運ぶようになり、そこでアルバイトをしているアリスちゃんに会ったそうだ。
(確かに本屋でアルバイトの設定ありました。ここで呪いの本とか賢者の本とか出てくるんですよね。安定のトラブル要因です。)
「目が見えないはずでは?」
そんな問いかけに。
『マーリットが代わりに読んでくれている。』
と誤魔化しの返事を返し、多くの事情を知らない人に『悪霊マーリット』の存在をちらつかせ、ビビらせて帰ってくるスヴァインさん。
因みに、全く見えなかった頃に音読しようか聞いたら眠くなると却下された。
本屋で再会してから、目が見えないのは困る事も多いだろうと手伝いを願い出てくれている・・・けど、大体は私で事足りる。そんな中、話していてスヴァインさんの趣味が推理小説と知りバイト先の本屋からお勧めの本を持ってきてくれるようになった。
学園に行きながらバイト、そして困っている人の手助けと本当に良い子すぎる。・・・実際困っては無かったけども善意だからね。
「今日のおすすめはコレです、私も読んで止まらなくなったの!」
「じゃあ、それを。前の本も良かった。」
「あれは傑作よね。」
年上にもタメ口の度胸は惚れ惚れする。それがまた年上に可愛がられる要因なのかもしれないけれど、彼女にしか出来ない芸当だと思う。なんてったって可愛くて守りたくなる存在だから。
文字が読める様になったスヴァインさんは何も無い時は本の虫状態。読んでいる時の彼はとても楽しそう。
(いいですね。あんな話が出来て。)
私は小説といえば恋愛小説。幸せでドキドキする物語に浸りたい。物語に入り込んでしまう私には推理小説は怖かった。
だけど、心なしかスヴァインさんを見るアリスちゃんの目が恋する人の目な気がしてしまう。恋愛脳な私の考えすぎでしょうか。
そして不満もある。
アリスちゃんには私が見えないし、声を出せば「見えない妖精さん」と呼ぶ。
悪気がないのは分かっているけれど、見えない事を忘れられる彼との生活で、私が誰かに見えない事を実感するし、私は居ないものとされている感覚・・・疎外感と言うのだろうか。彼女の目的はスヴァインさんに本を渡す事。だから私は居ないものなのは当たり前なのだけれど・・・多分、私が居ない彼らの空間に妬いている。
そして彼女に懐く妖精達にも。
あくまでも私の派閥にいる妖精なのに、彼女が来ると楽しそうに集まり従う。
(全てを彼女に取られるんじゃないか・・・。)
そんな言葉が脳裏に浮かぶ様になった。
『・・・いけない、これは闇落ちの兆し。』
頬っぺをパンッ!と叩き自室へ駆け込んだ。
今だにベッドが2つある客間を寝室にしている私達。怖くなくなるまで、と言う話でしたが慣れた今でも『別室にしましょう』とは言い出していません。好きな人と同室なんて最高じゃないですか。だから彼に指摘されるまで二人部屋を使うつもりです。
何かよく分からない不安にへたりとソファに座ると目の前のテーブルに置かれた一冊の本に目が止まる。
(確か、スヴァインさんとアリスちゃんが傑作と言っていた本・・・。)
怖くても、好きな人の好きな物は知りたくなる。読み終わっている様だし少しだけ読んでみようかな。
怖い推理小説では有りませんように。と願いながら一ページだけ開いてみる。
◆◆◆
ガチャ
「マーリット、居るかな?」
『え!?ぁ、はい!ここにいます。』
恐いのに世界観にのめり込んでしまい、スヴァインさんに声をかけられるまで気が付かなかった。
静かに本を読んでいたのに何故ここに居るとわかったのか。
『申し訳ございません、スヴァインさんがアリスちゃんと話していた本を少し借りてしまっていました。少しのつもりだったのですが。』
しおしおと弱っていく私の声にクスッと笑いながら「好きに読んでいい。」と返ってきてホッとした。
「恐いものが苦手なのに読んで大丈夫なのか?」
『・・・怖かったです、でも続きが気になってしまいました。』
「そうだな。面白い小説だ。読み終わっているから気になるならマーリットが持っていていい。」
『良いんですか!?ありがとうございます。』
スヴァインさんの善意に全力で乗っかり、彼の座る長椅子の隣に座る。
(これで少しは話に入れるかな・・・。)
幸い、彼は嫌がる素振りも無く本を読み始めた。
◆◆◆
『ふぁっ!』
窓からキラキラと光る元気な太陽の光。
気がつけば夜更かしして寝落ちしていた。私の上には毛布がかけられている。
とても面白い推理小説だった。・・・ってそんな場合じゃない。今何時!?
そう思って時間を見るとお昼前。
『やってしまったーーー!』
バタバタと身支度を整えて家の事や仕事を始める。
今日もアリスちゃんが推理小説の新刊を届けてくれると知っている。急がなければ。
私は推理小説を読み、学んだ。
何事も、行動しなければ道は開けないと。
行動してやろうじゃないか。
ヒロインの強制イベント攻略計画!
アリスちゃんがスヴァインさんを好きにならないように。先に誰かとくっついて貰う。私は思い付いた作戦の為に準備を急ぎ進めた。
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