17 / 54
イチャイチャしてた。
しおりを挟む「・・・と、いう感じです。分かりましたね?」
『はい。とても分かりやすい説明でした。』
「明日、団長とも話し合いで済めばいいですね。一応報告書には悪霊ではないと書いておきますが。」
入って来た時はどうなるかと思いましたが、案外あっさりと悪霊じゃないと理解して頂けたので良かったです。スヴァインさんが居なければこうはならなかったでしょう。
『でしたら、私が貴方にここで捕まってしまえば穏便に済みますか?貴方は悪霊じゃないと分かるのですし。』
何事も大事になるのは避けたい。理解のある人の元で捕らわれるのであれば危険は無く穏便に済むと考えました。だけど言い終わるとスヴァイン様に握られた手が痛い程に私の手を握る。
「いや、それは無理でしょうね。私は悪霊でないと判断できますが、他の者は違います。貴方を援護すれば悪霊に魅入られた!と言われ、捕らえたマーリット様は悪霊として聖なる火で炙られるでしょう。そんな雰囲気ですね。」
雰囲気が殺伐としている。
聖なる火は悪霊や動く屍を倒す時に必要な魔法で、何でも燃やして灰にします。使われたものは悪霊系でなくても燃えます。私だって燃えます。処刑じゃないですか。
何でそんな大事になっているのでしょうか??皆が私を消滅させる勢いなのですが。
後ろにいる部下らしき二人も苦い顔をしている。
私、何も悪い事してませんよね?私がやった事と言えば・・・
・・・
ちらりとスヴァインさんを見ると何か難しい事を考える様な顔をしている。
スヴァインさんをあの場から連れ出した位しか思い当たりませんが。
「なんせ君の妹が悪霊だと証言しているのだからね、それを聞いた国王陛下は今度は私がスヴァインを救う!と意気込んでいる。」
あぁ~。リヴは腹黒王子の婚約者だから国王陛下に近いっちゃ近い。だから何か言ったな?ここまでするなんて本当にあの子は悪役令嬢になりたいのですね。
(だけど、もし、悪役令嬢になりたいだけなら私が身を引くと言えば円満解決するのではないでしょうか?思えば真面に話会いが出来てませんでしたから。)
「マーリット。」
スヴァインさんの言葉にハッ!として会話に戻る。何の話だったかな。
『あ、あの。私、夕食を用意したのですが皆さん食べて行かれますか?立ち話も疲れるでしょうから。』
「確かに先ほどから良い香りがしますね。良いと言うなら頂きましょう。君達はどうする?」
「頂きます。」
「お腹空いてたんですよね~、仕事終わりに何も食べずに呼び出されたんですよ。」
初めて聞いたインテリメガネ部下二人の声。上司の許可を貰ったからか気楽な口調で話し始めました。
『こちらへどうぞ。』
スヴァイン様の手を取り、先頭を歩くと通路では不気味な仕掛けが動き出す。皆さん興味深々で仕掛けを見て驚きもせず、私一人でビビり芸を披露しながら食堂へ行くことになった。
皆さんが席に着くと妖精に飲み物と前菜の配膳をお願いする。
厨房に戻ると程よく温まっている鍋の中を見て普通の料理に不安が押し寄せた。
(出来上がった平凡な味の料理、お客様に出すなんて良かったのでしょうか。失敗だったかもしれません。)
ボコッと凹んだ心で器に入れようとした時。
「マーリット様、スヴァイン様が厨房の様子を知りたいと言うので案内してきました。」
『っ!』
ハキハキとした若い声に再びビビりながら彼らに目を向ける。宙に浮かぶ器を見て、私が鍋の前に居ると判断したのかインテリメガネの部下はこちらに来ると一言「お願いしますね。」と残すとスヴァインさんを置いていく。
「味見を少しいいだろうか。」
『はい、どうぞ。』
小皿に少しだけ盛り、冷ましてから彼の手に乗せると綺麗な動作でゆっくり口に運ぶ。
(やっぱり心配ですよね、不味いの出されないかって。これで不味いと判定されたらまた妖精達の果物に頼るしか・・・。)
恐る恐る彼の反応を見るのだけど、何も言わず味見を終えた小皿だけ手に残っていた。
(スヴァインさんからしたら美味しくないのでしょうか。)
「マーリット、手間をかけて申し訳ないのだけど一皿だけ、この料理を盛り付けて欲しい。」
分かりました、と一皿だけ盛り付ける。すると調味料の指定があり、言われるがまま調味料を入れて味見をする。
『んー!美味しいです!スヴァインさん料理の才能有ります。』
「そうか、それは良かった。」
その調味料を入れると驚きでビョンと飛び上がる程に美味しくなった。1cmは飛んだ。
スヴァインさんは料理の才能が有るのかも知れない。私の様子を見た妖精が料理に近づくと『美味しい、美味しい!』と喜びの声で溢れる。そこには妖精の結晶がコトンと音を立てて出現した。素直な君達が好きだよ。
◆◆◆
料理の配膳を終えて、魔法使い達は毒や呪いが無いか確認してから口をつける。皆が美味しいと嬉しそうに食べてくれていた。
そして味を調節する前に盛った一皿。
これはきっと「調理した責任として普通の料理を食べて反省しろ。」という意図だと思い、自分の場所に配膳しよう思っていると、席に案内したスヴァインさんがソレは自分のだと主張する。
『味を調節する前の料理で良いんですか?スヴァインさんがアドバイス下さった後の方が美味しいですよ?』
「俺はこれが良い、優しい味がする。」
『本当にいいのでしょうか。後悔しますよ?』
「しない。」
優しい味。確かにアドバイス前の料理を表現するならその言葉が相応しい。やり取りを聞いていたインテリメガネが話に入ってきた。
「話から推測すると、マーリット様が作った料理にスヴァイン様がアドバイスをして、美味しくなったのにスヴァイン様はアドバイス前の料理が食べたいと一皿残していた訳ですね。」
料理の湯気で少しだけ曇った眼鏡を持参した綺麗な布で拭きながら状況説明をしてくれた。
インテリメガネは眼鏡を取っても綺麗な顔をしている。
「はぁ、マーリット様の姿は見えないにしても人前でイチャイチャするのはどうなんですか?裏でやってください。裏で。」
「イチャイチャ?そんな事していない。」
妙にキリッとして否定するスヴァインさん。インテリメガネは私達がイチャイチャしている様に見えた見たいですが、何を根拠にそう言うのか・・・。
そう思っていたら説教臭くスラスラ言葉が流れてくる。
「何を言ってるんですか?国王陛下の信頼を得た貴方が、悪霊に魅入られ連れ去られたと言うから来てみれば、ただ姿が見えないだけのマーリット様と仲睦まじく住む場所を整え、共に料理をしている。
彼女の手料理を自分だけが独占し、他の者には自分がアレンジを加え共同作業に満足した物を分け与える。
元婚約者にも淡々としていたスヴァイン様がこんな事をするなんて、最大限のイチャイチャではありませんか。」
「そう言われて見ればそうかも知れない。」
流されている。私は相手に好意がなければイチャイチャでは無いと思いますよ?意思をしっかり持ってください。
「それにマーリット様はスヴァイン様の顔にある醜い傷は気にならないのですか?
それとも自分が見えなくなったから唯一それが気にならない男で妥協でもしているのでしょうか。」
なんて酷い言い様だ。
その言い方にはカチンと来た。この怒りの感情にやっぱり私はただ純粋で優しいこのゲームのヒロインにはなれないと改めて実感する。
『醜いって何ですか、国王陛下をお守りして出来た名誉ある傷ですよ!?ロマンしか無いでしょう!どこをどう見ても格好いいじゃないですか!』
ムキになって言葉を返せば、ニヤリと口角を上げるインテリメガネ。この手のひらで転がされている感はいったい。
「はぁ、その思考は騎士団の騎士達と一緒ですね。普通のご令嬢にそう思う人が居るとは思いませんでした。」
彼が言い終わるや否や。ガタン!!とテーブルに突っ伏して泣き出す1人の部下。
「うあ゛ーーーー!うっ、うう、ちくしょう!こっちは心配して仕事の後に急いで来たんだぞ!独身にラブラブ見せつけて面白いのか!」
「おいおい・・・君は飲み過だ。妖精から貰ったワインが美味しいからって。スミマセン、この人最近女の子に振られて。」
静かだったお屋敷が来客で賑やかになったと思えば野次が飛んで来た。
イチャイチャと言われて苦笑いが出てしまうけれど、今だけは見えない事に感謝。スヴァインさん困っているかな?申し訳ない・・・と思い、様子を伺うと、既に料理の無いお皿をスプーンで探っていた。
『振られたなんて、相手の方は理想が高いのでしょうか?』
イチャイチャだの言われた事が恥ずかしくて失恋話に首を突っ込んでしまった。
「マーリット様!そう思うでしょ!僕は結構真面目に仕事してるのに彼女は「貴方は好きだけど、どうしても頼りなく感じてしまうの。」とか言うんですよ!?」
「うん、仕事では頼もしいよ。まぁ危ないから仕事見せるなんて出来ないけどね。」
インテリメガネも話に入らずとも否定しない辺り頼りになる部下なのだろう。
人を脅かして遊びたいのに遊べない妖精達。
仕事で輝けるのに危険な為、見せられない人。
頭の中でカチッとそれらが結び付いた。
『・・・・これは、有りかも知れません。』
妖精の悪戯が始まるまで明日1日しか残されていない。妖精に私側に付いた方が良いと思わせるには、コレに賭けるしかありませんでした。
4
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる