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働きたくない。
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ソファの背もたれに体を預け、天井を見る様に後ろへ体を反らせると小さく呟く様な疲れきった声が耳にやって来ました。
「・・・働きたくない。重圧から解放されたい。」
分かる。
さっき私が「信頼できる~」など言ったのは地雷だったかも知れない。
『とても大変なお仕事ですものね。』
「あぁ、それを婚約者に言ったら、彼女の両親にふざけるな!と怒鳴られ。後日、婚約破棄の連絡も届いた。既に了承済みで俺には婚約者は居ない。」
婚約破棄がここでも!?
最近の流行りは婚約破棄ですか!?あぁ、婚約破棄モノの物語流行ってたものな~。
『スヴァイン様のお気持ちもよく分かります。・・・余生を報償金だけで過ごすとなると、一般庶民と生活水準が同等になるでしょうから、貴族の娘さんとご結婚を、となると心配な親の気持ちも・・・分かります。』
「そうだな。」
今の彼の状況は燃え尽きた、と言うやつなのだろう。王族を護る近衛騎士としての責任や重圧、苦労は私の想像を遥かに越えるものだろうから。
「治癒魔法を施された後に婚約者が治癒医院に駆け付けてくれた事があった。姿は見えないなが、俺が足音のする方へ顔を向けた瞬間に立ち止まり、息を飲んだのが分かった。その後、交わす言葉も震えていた。」
『・・・』
「醜い顔になっているのだろう?俺は。だから働きたくないと言う本心を素直に言えたのだと思う。婚約が破棄されて、少しホッとしているんだ。婚約者の幸せを保証する力は無いのだから。」
・・・
醜い事は無い。
乙女ゲークオリティの(肌の色が傷の形に違うだけの)傷があるお顔は素敵だと今の雰囲気では言えませんでした。
この綺麗な傷跡は治癒魔法だからこそ成せる技なのでしょうか?
もし、このお顔に引いたと言うのであれば怪我とか無縁の相当な箱入り娘だったのでしょう。普通に考えれば彼の傷跡を見て辛かっただろうと想像しての反応ではないかと思うのですが、思考がネガティブになっている様子。実際はどうなのか現場に居なかったので分かりませんが。
『貴方が本心からそう思えているのであれば、それで良いんだと思います。これからは田舎で何をして過ごすか、やりたい事リストでも作りましょう。』
「やりたい事リストか、それは良いな。」
前向きに未来を考えられる何かを、と思ったら咄嗟に出たのがやりたい事リストだった。
彼の先ほどから他人にどう思われようと気にしないと言うか・・・どうでもいいと思っている様な言動と無気力さがとても気になります。今はこの人の側に誰かが居なければいけない、そんな気がするんです。燃え尽きた人は何をするか分からないと前世の記憶で知っているから。
『・・・突然で申し訳ないのですが、私には行く宛がありません。身の回りのお手伝いをしますので暫く泊めて頂けないでしょうか。私でしたら他人から見えませんから変な噂も立たないでしょう?』
「俺は構わない。むしろ助かるが、君はそれでいいのか?」
未婚の女性としては良くない、良くないと分かっているけれど緊急事態なので多めに見て欲しい気持ちです。
『はい。誰にも見えない私を人として接して下さる貴方はとても貴重な存在なんです。』
「そうか。好きにするといい。」
クッションを抱えてふかふかのソファにゴロンと横になるスヴァイン様。動物園のパンダを連想するだらしない格好には愛嬌があります。
しかし、愛嬌のあるその姿を見ても何故か胸がザワザワしました。このザワザワはいったい・・・。
『寝る前にお風呂に入りましょう。今、準備いたします。』
「あぁ・・・助かる。もし準備が出来た時に寝ていたら起こしてくれるか?」
『畏まりました。』
◆◆◆
(ふぅ、これで完璧。魔法を使う設備でなくて良かった。)
前世の記憶をフルに使い、お風呂の準備を整えた。スヴァイン様を呼び、大体の物の場所を教えてから彼を残し浴室を出るとグーっと伸びをする。
『ふふふっ』
去り際に「ありがとう、助かった。」と言ってくれる彼の言葉がジワジワと私を喜ばせる。彼と居ると自分が見えない事も忘れてしまう。
しかし、今はまだ考えなければいけない事が山ほどある。
一番の問題は【妖精の仲介人】が二人になってしまった事。悪戯合戦が始まる前に何か作戦を考えなければ・・・。
今日祓われたと思われているから多少は時間が稼げると思うけれど、先程の若い騎士にはスヴァイン様が話した事により私がまだ居る事が知れてしまっている。どれ程で噂として広まるか分からない。
もう1つの問題はリヴに【妖精の仲介人】を辞任してもらう方法。ヒロインが腹黒王子を攻略してくれれば今年の卒業パーティーで断罪されるはずなのだけど・・・リヴも転生者の可能性が高い。きっと何かしらの作戦を考えているはずだから期待しない方がいいですね。
これからの課題に頭を抱えていると頭が現実逃避したくなったのか、心の中の欲望がひょっこり顔を出す。
(乙女ゲームの世界・・・推しに一目会ってみたいな。攻略対象の1人であるワンコ系年下騎士の彼に!!)
ふんす、と荒い鼻息を出し、頭が欲望でいっぱいになった所で。
ガチャ・・・
ドアが開く音。
あれ?もうお風呂終わりの時間?と音のする方を眺めると開いたのは浴室のドアではなく入り口のドア。
(うわっ、誰か入って来ました!?)
姿が見えないと言うのにソファの影に隠れて様子を見る。
「いいか。絶対にバレない様に任務を達成するんだ!」
「分かりました!」
「おい!声がでかいっつの!!」
奇跡。
それとも運命?
部屋に入って来た2人の若い騎士。その1人が推しのワンコ騎士でした。
『~~~~!?!?』
驚かせてはいけない、絶対に。
興奮する口と鼻を押さえると口の中で叫びたい言葉を封印する。
「マーリット様~?居ますか~?居たら物音でも立てて下さい~。ちっちっち」
『ーーーーーー!?ーーー!?』
私は大興奮です。推しが私の名を呼んでいます。それは逃げ出した猫を探す様に。
いい!!逃げ出した猫扱いでもいい!!
そう思って口を開こうとした時。
バサァ!!バサァ!!
部屋中で砂嵐が起こりました。その砂?が口に入ると口に広がるしょっぱい塩味。
私は揚げたてポテトか!!塩だコレ!!
「よし、こんな感じで満遍なく清めの塩を振ったら大丈夫だろう。さっさと魔法で片付けて行くぞ。」
「分かりました先輩。」
(塩ってこの世界でも悪霊に効くんだなぁ。)
流石、和製乙女ゲー。
推し得意の風魔法が再び部屋を駆け巡ると塩は窓の外へ天の川の様に列を作って飛んで行きました。
・・・
・・・
推しに・・・塩を掛けられた。
グスン。
口はしょっぱいし目にちょっと入って痛いし・・・何より心が痛いです。
『っ、っぅ、ぅ』
「な、何だ!?女性の泣き声!?」
「え?マーリット様本当に居るんですか?」
「清めの塩では無理か、どうする?倒せるか?」
推しが名前呼んでくれている喜びと先輩騎士に諭されて剣を抜く姿に涙腺が崩壊しました。
それ、私に剣を向けてるんですよね?推しの剣を構える姿を見れて幸せですが、剣を向けられるのは想定外です。
悪霊なら物理攻撃は効きません。しかし私は生身の人間。剣が触れれば死にます。
『ぅっ、グスっ。』
色々な感情が混ざり合い、声が抑えられません。そして私の声を頼りに1人の先輩騎士が剣を振り上げた時。
「私の部屋で何をしている。誰かいるな?」
スヴァイン様が浴室から着替えを終えて出てきた。ホカホカになったスヴァイン様はすこしスッキリした顔をしている。疲れが少しは軽減したみたい。
「スヴァイン様。この部屋に悪霊が居ると聞きましてスヴァイン様が憑依される前にと・・・」
「俺がそれを君に頼んだとでも?」
「い、いえ。しかし実際に女性のすすり泣く声が。悪霊に魅入られたとなれば国王陛下のみならず、王族や貴族にも近づく事が許されなくなってしまいます!国王陛下の相談役という誇りあるお立場が無くなってしまわれます!」
この世界では悪霊に魅入られると悪霊に唆されたり極端に運が悪くなります。そんな人を近づけたくないのは普通の事ではあるのだけど・・・スヴァイン様を見ると今まで見た中で一番の笑顔になっていた。
あぁ、まずい事になりそうです。
「・・・働きたくない。重圧から解放されたい。」
分かる。
さっき私が「信頼できる~」など言ったのは地雷だったかも知れない。
『とても大変なお仕事ですものね。』
「あぁ、それを婚約者に言ったら、彼女の両親にふざけるな!と怒鳴られ。後日、婚約破棄の連絡も届いた。既に了承済みで俺には婚約者は居ない。」
婚約破棄がここでも!?
最近の流行りは婚約破棄ですか!?あぁ、婚約破棄モノの物語流行ってたものな~。
『スヴァイン様のお気持ちもよく分かります。・・・余生を報償金だけで過ごすとなると、一般庶民と生活水準が同等になるでしょうから、貴族の娘さんとご結婚を、となると心配な親の気持ちも・・・分かります。』
「そうだな。」
今の彼の状況は燃え尽きた、と言うやつなのだろう。王族を護る近衛騎士としての責任や重圧、苦労は私の想像を遥かに越えるものだろうから。
「治癒魔法を施された後に婚約者が治癒医院に駆け付けてくれた事があった。姿は見えないなが、俺が足音のする方へ顔を向けた瞬間に立ち止まり、息を飲んだのが分かった。その後、交わす言葉も震えていた。」
『・・・』
「醜い顔になっているのだろう?俺は。だから働きたくないと言う本心を素直に言えたのだと思う。婚約が破棄されて、少しホッとしているんだ。婚約者の幸せを保証する力は無いのだから。」
・・・
醜い事は無い。
乙女ゲークオリティの(肌の色が傷の形に違うだけの)傷があるお顔は素敵だと今の雰囲気では言えませんでした。
この綺麗な傷跡は治癒魔法だからこそ成せる技なのでしょうか?
もし、このお顔に引いたと言うのであれば怪我とか無縁の相当な箱入り娘だったのでしょう。普通に考えれば彼の傷跡を見て辛かっただろうと想像しての反応ではないかと思うのですが、思考がネガティブになっている様子。実際はどうなのか現場に居なかったので分かりませんが。
『貴方が本心からそう思えているのであれば、それで良いんだと思います。これからは田舎で何をして過ごすか、やりたい事リストでも作りましょう。』
「やりたい事リストか、それは良いな。」
前向きに未来を考えられる何かを、と思ったら咄嗟に出たのがやりたい事リストだった。
彼の先ほどから他人にどう思われようと気にしないと言うか・・・どうでもいいと思っている様な言動と無気力さがとても気になります。今はこの人の側に誰かが居なければいけない、そんな気がするんです。燃え尽きた人は何をするか分からないと前世の記憶で知っているから。
『・・・突然で申し訳ないのですが、私には行く宛がありません。身の回りのお手伝いをしますので暫く泊めて頂けないでしょうか。私でしたら他人から見えませんから変な噂も立たないでしょう?』
「俺は構わない。むしろ助かるが、君はそれでいいのか?」
未婚の女性としては良くない、良くないと分かっているけれど緊急事態なので多めに見て欲しい気持ちです。
『はい。誰にも見えない私を人として接して下さる貴方はとても貴重な存在なんです。』
「そうか。好きにするといい。」
クッションを抱えてふかふかのソファにゴロンと横になるスヴァイン様。動物園のパンダを連想するだらしない格好には愛嬌があります。
しかし、愛嬌のあるその姿を見ても何故か胸がザワザワしました。このザワザワはいったい・・・。
『寝る前にお風呂に入りましょう。今、準備いたします。』
「あぁ・・・助かる。もし準備が出来た時に寝ていたら起こしてくれるか?」
『畏まりました。』
◆◆◆
(ふぅ、これで完璧。魔法を使う設備でなくて良かった。)
前世の記憶をフルに使い、お風呂の準備を整えた。スヴァイン様を呼び、大体の物の場所を教えてから彼を残し浴室を出るとグーっと伸びをする。
『ふふふっ』
去り際に「ありがとう、助かった。」と言ってくれる彼の言葉がジワジワと私を喜ばせる。彼と居ると自分が見えない事も忘れてしまう。
しかし、今はまだ考えなければいけない事が山ほどある。
一番の問題は【妖精の仲介人】が二人になってしまった事。悪戯合戦が始まる前に何か作戦を考えなければ・・・。
今日祓われたと思われているから多少は時間が稼げると思うけれど、先程の若い騎士にはスヴァイン様が話した事により私がまだ居る事が知れてしまっている。どれ程で噂として広まるか分からない。
もう1つの問題はリヴに【妖精の仲介人】を辞任してもらう方法。ヒロインが腹黒王子を攻略してくれれば今年の卒業パーティーで断罪されるはずなのだけど・・・リヴも転生者の可能性が高い。きっと何かしらの作戦を考えているはずだから期待しない方がいいですね。
これからの課題に頭を抱えていると頭が現実逃避したくなったのか、心の中の欲望がひょっこり顔を出す。
(乙女ゲームの世界・・・推しに一目会ってみたいな。攻略対象の1人であるワンコ系年下騎士の彼に!!)
ふんす、と荒い鼻息を出し、頭が欲望でいっぱいになった所で。
ガチャ・・・
ドアが開く音。
あれ?もうお風呂終わりの時間?と音のする方を眺めると開いたのは浴室のドアではなく入り口のドア。
(うわっ、誰か入って来ました!?)
姿が見えないと言うのにソファの影に隠れて様子を見る。
「いいか。絶対にバレない様に任務を達成するんだ!」
「分かりました!」
「おい!声がでかいっつの!!」
奇跡。
それとも運命?
部屋に入って来た2人の若い騎士。その1人が推しのワンコ騎士でした。
『~~~~!?!?』
驚かせてはいけない、絶対に。
興奮する口と鼻を押さえると口の中で叫びたい言葉を封印する。
「マーリット様~?居ますか~?居たら物音でも立てて下さい~。ちっちっち」
『ーーーーーー!?ーーー!?』
私は大興奮です。推しが私の名を呼んでいます。それは逃げ出した猫を探す様に。
いい!!逃げ出した猫扱いでもいい!!
そう思って口を開こうとした時。
バサァ!!バサァ!!
部屋中で砂嵐が起こりました。その砂?が口に入ると口に広がるしょっぱい塩味。
私は揚げたてポテトか!!塩だコレ!!
「よし、こんな感じで満遍なく清めの塩を振ったら大丈夫だろう。さっさと魔法で片付けて行くぞ。」
「分かりました先輩。」
(塩ってこの世界でも悪霊に効くんだなぁ。)
流石、和製乙女ゲー。
推し得意の風魔法が再び部屋を駆け巡ると塩は窓の外へ天の川の様に列を作って飛んで行きました。
・・・
・・・
推しに・・・塩を掛けられた。
グスン。
口はしょっぱいし目にちょっと入って痛いし・・・何より心が痛いです。
『っ、っぅ、ぅ』
「な、何だ!?女性の泣き声!?」
「え?マーリット様本当に居るんですか?」
「清めの塩では無理か、どうする?倒せるか?」
推しが名前呼んでくれている喜びと先輩騎士に諭されて剣を抜く姿に涙腺が崩壊しました。
それ、私に剣を向けてるんですよね?推しの剣を構える姿を見れて幸せですが、剣を向けられるのは想定外です。
悪霊なら物理攻撃は効きません。しかし私は生身の人間。剣が触れれば死にます。
『ぅっ、グスっ。』
色々な感情が混ざり合い、声が抑えられません。そして私の声を頼りに1人の先輩騎士が剣を振り上げた時。
「私の部屋で何をしている。誰かいるな?」
スヴァイン様が浴室から着替えを終えて出てきた。ホカホカになったスヴァイン様はすこしスッキリした顔をしている。疲れが少しは軽減したみたい。
「スヴァイン様。この部屋に悪霊が居ると聞きましてスヴァイン様が憑依される前にと・・・」
「俺がそれを君に頼んだとでも?」
「い、いえ。しかし実際に女性のすすり泣く声が。悪霊に魅入られたとなれば国王陛下のみならず、王族や貴族にも近づく事が許されなくなってしまいます!国王陛下の相談役という誇りあるお立場が無くなってしまわれます!」
この世界では悪霊に魅入られると悪霊に唆されたり極端に運が悪くなります。そんな人を近づけたくないのは普通の事ではあるのだけど・・・スヴァイン様を見ると今まで見た中で一番の笑顔になっていた。
あぁ、まずい事になりそうです。
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