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皆に私が見えない?
しおりを挟む「嫌がらせはもぅ止めて!お姉様はもぅ死んでるのよ!!」
『死んでないわ!!』
暗く締め切られた私の部屋に、蝋燭で灯された心許ない明かり。悪魔でも呼び出すのか?と言いたくなる陰気な雰囲気に仕上がったこの場所に家族が集まっている。
こんな部屋で声を上げてしまい途端に空気がピリつきました。
ガタガタと音が聞こえて来そうなほど震えるお父様。そんなお父様の腕に青ざめてしがみつく継母。継母の連れ子、リヴは瞳に涙を溜めてキュルンとした雰囲気で部屋を見つめる。この子はいつもフワフワキュルンとしている。少しワガママだけど見た目は可愛らしい関係上は妹となった子。
ピンピンする体をアピールするように腕をブンブンと振るけれど、この場に居る誰も私が見えていない。蝋燭の光に揺らめく影も私だけ存在しない。
「こ、声が!!恐ろしい声が聞こえたわ!やっぱりお姉様は悪霊になったのね!」
「そ、そんな・・・マーリット。」
何の効果も加わってない地声を怖いとか言わないでください。
「神官様。」
「任せて下され。」
震えるお父様がとても可哀想。継母が背中をヨシヨシとこれまた怯えながらもお父様を必死で支えている。怯えきった家族が呼んだ、ヨボヨボの神官様がヨロヨロと部屋の中央へやって来る。
私は20歳のただの小娘だけれど、この人なら力で勝てそうだと直感した。そんなご高齢の神官様が持っていた杖を高く上げると聖なる光で部屋を満たす。
(わぁ、綺麗。)
私は悪霊でもなんでもない。ただ姿が他人には見えなくなった人間。この光を見ても成仏はしないしダメージも全くありませんでした。
この事にホッと胸を撫で下ろす。やはり私はただ他人から見えなくなっただけなのだと。知らない内に本当に悪霊になってしまったのではなくて良かった。
徐々に光が収まるとポワッと最後に光が弾ける。先程とは違い、蝋燭の灯りは消えた只の暗い部屋。暗くなった事しか変化の無い室内を見渡す家族。
「お、終わったのか?」
フラグ頂きましたお父様。勿論終わってません。人間だから。今ちゃんと実感したから。
何故こんな事態になったかと言うと。
他人から姿を認識されなくなった私が、その事に気が付かず生活していたからです。自分で自分の事は見えていたから異変に気付くのに遅れました。
普通に生活していた最中、夜になり屋敷が騒がしくなったかと思えば「マーリット様(私)が居ないと慌てる使用人達の声に驚きました。
「ま、まさかマーリット様は家出をされたの!?」
『私はここにいます。何の冗談でしょうか?』
そう言うと私とは別の方向を見て私を探す人達。誰も目が合う人は居ませんでした。
「だ、旦那ぁ!!大変です~マーリット様が!!」
青ざめて怯えながらお父様の所へ走り込む慣れ親しんだ使用人。
(みんな、急にどうしたの?まるでオバケでも出たかの様な反応をして・・・。虐げられイベント?)
こうなってから1ヶ月。
自分の姿が他人に見えて居ないと気がついた私は、あの手この手で存在を伝えようとしたのだけれど、行動すればするほど空回りし、悪霊になったとリヴに騒がれて・・・この現状になります。
(まさか前世の記憶を思い出し、浮かれていたら次の日には姿を消されるなんて思いませんでした。)
前世で大好きだった乙女ゲーの悪役令嬢転生ライフ、早々の脱落です。前世で、数多ある悪役令嬢転生先輩の小説を読み漁って蓄えたというのに知識を出す暇も有りませんでした。不甲斐ない後輩で申し訳ない気持ち。
そして、こうなった原因も分かっている。
『ぎゃはははは。見た?あの顔!』
『あっははー☆人間1人の姿を消しただけで面白いー!悪霊だって怖がっちゃってー!』
『リヴの言った通りだったねー。姉のマーリットを消したら面白い事になるって。』
ペチャクチャとお喋りを楽しむ妖精達。それに指示をして私を消したのは妹のリヴ。マーリットは姉であり消された私の事。
私が有頂天に騒いだせいで転生者だと知られ、妖精を使い先手を打ったのでしょう。リヴは妖精に「マーリットを消したら面白い事になる。」と言った様です。
妖精達の力により、この世界から姉を消した!と思ったけれど悪霊になって帰って来たと勘違いしたリヴ。リヴが悪霊だと騒ぎ、家族が怯えるその姿を妖精達に笑われています。
「ふぅ、これで大丈夫ですじゃ。20万エンゴルド頂くぞ。」
「わ、分かりました。」
震えながらお金を出すお父様。その光景は借金の返済でもしているような悲壮感。神官様のニンマリ顔。この人は神官なのだろうけどお金が大好きそうだ。
それにしても20万エンゴルドも取るんですか?実の娘を祓う為にどんだけ払うのですか!!親なら悪霊でも愛してください!!
・・・
と、言いたい所ですけど、お父様にそれを求めるのも酷な話。
お父様は幼い頃、妖精の悪戯で悪霊に出会ってしまい怖い思いをしたのがトラウマになっていると聞いた事があります。
悪霊になったら生前のその人ではない『呪念の塊』だと言うのはこの世界の常識。
「マーリットはこれできっと生まれ変われるわ。マーリットの魂が幸せでありますように。」
涙をポツリと流しながら言葉を絞り出す継母。この通り悪い人ではありません。お人好し過ぎてワガママな実の娘リヴを叱らずに来たのは悪い所だけども・・・。
このお人好しな継母はお父様の遠い親戚。私の実母が病で亡くなってから「お前は離婚していて娘も妖精と話が出来るのだから一緒になればいい。」と言う言葉に素直に従った人。
この人の元夫は誰かと駆け落ちしてしまったらしい。そんな事情も知っているから皆で助け合って来れたと思う。
問題は妹となったリヴ。
私が『悪役令嬢転生キター!!』と騒いだ次の日に妖精に悪戯を提案して消したと言う事は、その言葉を理解したと言う事。
私と同じ転生者だろうと推測されます。
あの子は今後どうするつもりなのでしょう。
私から悪役令嬢の座を奪い一番近くなる攻略対象と言えば・・・
・・・
「リヴ!!」
丁度その人物が登場しました。
この国の第一王子であり一番人気の攻略対象です。悪役令嬢の婚約者でもあります。
「殿下!」
「リヴと婚約を結んでから悪霊になったマーリットから酷い嫌がらせを受けていたなんて。可哀想に。」
殿下にはそう伝わったのですね?私の事。だから悪霊祓いもこのタイミングなんですね?
怖いながらも嫌がらせとする現象ネタを集めてからの今日だったのね?
嫌がらせと言っても只の生活音や存在を主張する行動の事なのですが。
「殿下、ここまで来てくださるとは。リヴの為にありがとうございます。」
「いいのです。それにリヴの為だけではありません。マーリットは私の婚約者として、真面目に勉学に励み【妖精の仲介人】の役割も怠りませんでした。その無念が悪霊として現れるのも仕方の無い事。」
殿下は瞳を潤ませ両親を見た。
いや、何の無念だ。結構スパルタな教育から逃れられて暫くの間心行くまでゴロゴロしたわ。
悪霊になったと勘違いされているけれど理解ある姿勢を見せるこの王子。ゲームやり込んだので腹黒なのも知っています。
一番人気の王子はキラキラ王子様キャラで腹黒という定番設定の攻略キャラです。
悪役令嬢の【妖精の仲介人】という役割が自分のサポートに適している事から婚約者となります。だから私が消えてすぐに役割を引き継いだリヴと1ヶ月もしない内に婚約となったのでしょう。
自分にとって有益とはいえ、ゲーム開始時は王立学園三年の彼が20歳のマーリットと婚約するなんて筋金入りの野心家ですね。リヴは19歳だけど二人して腹黒王子より年上です。
【妖精の仲介人】は人間の世界で悪戯ばかりの妖精と人間の関係が悪化しないように管理し、唯一妖精を従わせる事が出来る役職です。
この役割を引き継ぐ者が妖精王と会い、許しを貰うと就任します。
5年前に私が就任の許しを貰う時、会いに行ったら『いーよー♪』と寝転がりながら手を軽く上げて言われただけなので簡単なものです。
妖精の王からすればヤンチャな妖精達と人との仲裁をしてくれるなら誰でも良いのでしょう。
腹黒王子はリヴの手を握り、安心させる様に手を重ね瞳を覗き込む。
「マーリットが消え、悪霊となった原因を必ず見つけ出しましょう。」
「・・・え゛っ。」
両親は殿下と共に瞳を潤ませ頷く。近くで青ざめるリヴ。なんて簡単すぎる犯人探しでしょう。
『ぎゃはははは!!』
『もっと!もっとリヴの驚く顔見たい!』
無邪気で可愛い妖精達はリヴを見てキャっキャと声を弾ませる。
妖精達の楽しそうな笑顔を横目に今後どうしたものか・・・と痛い頭を抱えるしか今は出来ませんでした。
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