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1章「おっさん田中太郎悪役令嬢に転生」

10話「にっくき湯気の野郎」

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 ふぅ、疲れるな。
 俺はステラ嬢みたいな、ていねいなキャラは向いてないみたいだ。
 ステラ嬢みたくていねい口調でしゃべる度にすごい精神をすり減らすからな。
 だが、あくまで令嬢である俺がそれをサボろうものなら後で母上様から何言われるか分からんから、やるしかないんだけど。

 ここでやっとステラ嬢が戻った。
 婚約者が戻って来た事に対し歓喜の声を上げる王子様であるが。

「エリウッド様、私にはやらなければならない事がございます!」

 ステラ嬢が拳をグッと握り締め力強く言う。
 はて? ステラ嬢はこんなキャラだっただろうか?
 おや? ステラ嬢? 君が右手に持ってるモノはスコップとやらでは無いのかい?
 
 で? トコトコと10M位歩いて?
 中庭エリアで平たんな場所に着いて?
 スコップを使って穴を掘り出す。

 確かにわざわざスコップを持って来たなら穴を掘るに決まっているのだが?
 俺はステラの行動に疑問を持ちながらも彼女をぼうかんするしか無かった。

「やりましたわ! エリウッド様!」

 しばらくして、ステラ嬢が歓喜の声を上げる。
 彼女の足元をみると、なんとお湯が沸きあがってるではありませんか!
 それを見ていた周囲の従者達が湧き上がったお湯を固定させる為の資材を取りに行った。

 で、俺があぜんと眺めている内に何人か入れる簡易温泉が完成した。
 深さはそれなり、多分腰を降ろせば丁度良く肩までつかれそうだ。
 多少地面の土が混じってるせいか少しばかりお湯がにごっているが、気にしないで良さそうだ。
 従者達は気を遣って皆退散した。

「おお、愛しのステラよ、早速参ろうではないか!」

 エリウッドがうれしそうに、服を脱ぎだす。
 やけに嬉しそうだな。 ステラ嬢が掘り上げたからか? 温泉自体滅多に無いのか? そこまでは分からんが。
 が、温泉に入る訳だからエリウッド君はしっかりと下着も全て脱ぎだす。

 ったく、俺は野郎のブツなんかみたくねぇっつーの!
 と思うが、幸いな事に湯気が広がったのかすでにエリウッドの姿は見えない。
 ある意味助かったのか。

「ルチーナ様、折角ですのでご一緒致しましょう」

 ステラ嬢の声だ。
 まぁ、確かにこの状況なら当然の誘いか。
 中身が男であるからなおさら、自分の裸体なぞ見られて減るもんでもないと考える俺はエリウッドと同じく服を脱ぐ。
 湯気が濃く視界が非常に悪いから自分の裸体が誰かに見られる事も無かろう。
 俺はあまり深い事を考えずステラ嬢が掘り当てた温泉につかかった。
 
「エリウッド様、わたくしも参ります」

 ステラ嬢の声だ。
 衣服を脱ぐ音が聞こえるから彼女もまた俺達と同じ格好になるのだろう。
 むむむ、ステラ嬢の発育の良い身体が見られる、だと?
 俺は周囲に湯気が展開され何も見えない状況を忘れ、ステラ嬢の裸体を妄想してしまう。

 ぐはっ! こ、こ、これはっ!? た、たまらぬ!!!!
 はっ!? 危うく別世界に行きそうになってしまったが、鼻血が出そうな感覚を覚えた所で俺は我に返った。
 ちぃぃぃぃっ! クソッ! この湯気の野郎! 男のロマンを邪魔しやがってッ!
 絶対許さねぇ、今度会ったら覚えてろ! レオナの発明でそんな湯気ぶっとばしてやるからな!
 
 正気に戻った俺は、派手な悪態を突きながら空をあおいだ。
 ああ、青空がきれ。湯気で見えねぇよコンチクショウ!!!!!!
 空をあおぐ事すら許されない俺はやるせない気持ちになりながらも諦めて温泉の心地良さをたんのうする事にした。
 俺の横ではエリウッド王子とステラ嬢がきゃっきゃうふふしてる中だけどさ。

 二人がしこたまいちゃつき終った所で彼等に合わせて俺も温泉から出た。
 三人とも服を着た所で俺は重要な事を思い出す。

 惚れ薬まったく効いてないじゃねぇかっ!!!!
 レオナの野郎、後で覚えてやがれっ!!
 俺は帰ってからレオナをどうシバイてやろうか考え出したが、惚れ薬はまだ2つ残っている事を思い出す。

「おーほっほっほ、ステラお嬢様、悪く無いお湯でございましたわ。 お礼にこれを差し上げますわ!」

 俺は2つ目の、白色の液体が入った小瓶をステラ嬢に手渡した。

「これはルチーナ様、お気遣い感謝いたしますわ」

 ステラ嬢は俺から受け取った小瓶の中身をゆっくりと飲み干した。
 うん? エリウッドのやろーが何かうらやましそうにしてるが気のせいか?
 まぁ良いや。 これでステラ嬢は俺にメロメロになるはずだ! わっはっは、今度こそキサマ等の婚約を破棄してやろうぞ!
 
「ハッ! エリウッド様、わたくし素晴らしい事を閃きましたわ! 暫くお待ちになって下さい!」

 そう告げると、ステラおじょー様はびゅーんっと駆け足でどっかいった。
 びゅーんと駆け足で、エリウッド様と告げて。
 ちょーーーと待てや! 惚れ薬だろ、惚れ薬っ! どーしてここでルチーナさまぁ(はぁと)と甘く心がとろける様な声を俺の耳元でささやかねぇんだよッ!
 それどころかどーしてまたどっか行きやがったッ!
 
 クソッ、悪態ついても仕方がねぇ、待つしかねぇのか。
 俺は深いためいきをつき、ステラ嬢を待った。
 
 ステラおじょー様を待つ事しばし、隣に居るエリウッド王子様がなんだかよーわからんポエムを歌い出す。
 ステラおじょー様に対する愛をつづっている様だが、せめて本人の前で言え! 俺に聞かせてどーすんだよ!
 まさか、こやつ俺にきょーみあるとかいうんじゃないだろうな!?
 
 いや、有り得るぞ、こやつから見た俺は実にびゅーてぃふるで美しいブロンドヘアーのおんにゃにょこなのだ。

 |婚約者(おに)の居ぬ間になんとやらってのはこの世界でもジョーシキなのかもしれん。
 ふむ、このエリウッドとやらは俺のかわいそーなお胸さんも気にしないという事か。
 
 俺だったらこう、ボンっとしてきゅっとしてボンってしてる方が好みだが。
 しかし、元の世界にもひんぬーの方が良いと言う輩もおったからな、有り得ない話では無かろう。

 エリウッド王子からステラおじょー様へ愛のポエムを6曲聞かされたところで、生き生きとした表情でステラおじょー様がかけ寄って来た。
 
 な・ぜ・か。
 肩に工具箱をかついで、だ。

「エリウッド様! わたくし、芸術が爆発しそうですわ!」

 工具箱を開け、中から石材を掘る道具を取り出すステラおじょー様。
 いや、だから、キミはいつからそんなキャラになったんだい?
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