11 / 11
隠蔽
しおりを挟む
金本が他界して2か月ほどたったある日のこと、あるアパートの一室で部屋の荷物を
ひとつひとつ分別しているのは金本の弟だった。
仕事を終えてから時間があるときにゆっくり片づけているのだろう、全く急ぐ気配もなく
むしろ、終わってしまわないようにも見えるくらいにゆっくりと進めている。
ベンチコートがこすれる音と鼻をすする音が、換気のために開けている窓から表に漏れていた。
部屋にあるものは主に、週刊誌やトラックのパーツ、買いだめされたインスタント食品、
そしてアマチュア無線に関するものが多く、それに関する事が書かれているノートが大量にまとめられていた。
それは金本の立ち振る舞いからは想像出来ないほど丁寧に書かれており、無線仲間のコールサインや周波数、どのような人なのかなどが事細かに残されている。
さらに、いつ誰と交信したのかが詳細に記載されていた。
金本弟はこの手帳を眺めるのが好きだった。
この日もいつもと同じように手帳を見て自分の知らない兄がどんな人間だったのかを自らの思い出と重ねていた。
その中で金本弟はあることに気付く。
金本が亡くなる一年ほど前から、明らかに交信の回数が多くなっている人物がいる、
しかもそれは二人いて、一人は近江教授、もう一人はコールサインしか書かれていない。
気になったので近江教授ともう一人の方のコールサインをよく見ると、書いてあったのはまったくでたらめなコールサインであることに気が付いた、それは生前金本に影響されて無線を勉強していた弟が見てもすぐにわかるものだった。
その通信相手との通信記録を見ていくと、
でたらめで脈絡のない会話だが、いかにも
本当に誰かと会話したかの様に書き留められた内容になっている。
コールサインの見間違いかと何度も確認したが、それは絶対に間違えようのないものだった。交信の内容を読み進めるとそこには
「啓示、未来、人、ウィルス、記憶、死、複合、平和、破壊」
これらの文字が、作られたであろう会話の中に数多く、意図的に使っているのが誰がみてもわかるくらい鮮明にかかれてた。
*
近江教授の研究室。
星野は杉崎の「ウィルスはダミー」という言葉に驚愕したが、ある疑念と照らし合わせていた。
星野
「確かに、それならずっと気になっていた事に説明ができます。
近江教授がなぜデジタル庁のメンバーに選ばれたのかが気になっていたし職場の仲間内でも話題になっていました。
デジタルとウィルスにどんな繋がりがあって選出されたのか、
防衛省がリーチを治め管理しているとばかり思っていたけど、実際にまとめていたのはデジタル庁だったのか、しかしなぜデジタル庁なんだ?
リーチに関わることなら防衛省の方がしっくりくるし、実際連携と言う意味ではその方が都合が良いはず」。
杉崎も星野と同じ疑問を抱いていた。
そこから先を聞きに来たと言った感じに近江の方を見るが先ほどまでと同様、コーヒーの入ったカップを持ちながらじっと椅子に座っている。
ただひとつ、さっきまでと違う点はその顔は穏やかで、少し笑みを浮かべているようにも見えるほどだった。
近江は持っているマグカップを置き、大きく息をつく。
長い間、背負っていた重い荷物をやっとおろしたかのような声で、
「これで金本のやつも報われる」。
と言って、遠回りに杉崎らの推測が間違いではないということを伝えた。
立ち上がり窓の方に向かうと、来客の為に入れなおしたコーヒーを用意したカップにそそぐ。その時にあがったゆげのせいですりガラスには結露がついていた、外の空気の冷たさが伝わってくる。
コーヒーを注いだマグカップを二人に差し出すと、近江は続きを話し出した。
「リーチが現れてから今日まで数えられない程の犠牲があった、
最近になりさらに犠牲者の数が多くなってきたが、啓示を受ける人間の突然死はリーチが現れた頃からすでに確認されていた。
これを重く見た防衛省は我々科学者にこのウィルスを作るように命じた。
もちろん目的から無害であり、長時間体内にとどまることが出来て感染しないもの。
そうして作られたウィルスの使い道を知らされた時はびっくりしたよ、
このウィルスはあくまで原因不明の突然死を隠ぺいするために作られたんだからね。
この平和な時代に原因不明の突然死なんてあってはならないんだよ。
いくら探しても死の原因はみつからない、それならいっそのこと原因を作ってしまおう。
あくまで原因はウィルスということにしよう、なんて狂気の沙汰だよ」。
近江の話しを聞いていた星野は驚愕していた。自らが防衛省の職員であるのにもかかわらずそのすべてが初耳で、思いもよらないものだったからである。
「すごいですね、ここまでとは」。
「全くだ、だがこうするしかなかったことは私たち学者でさえもすぐに理解できた」
杉崎も同様に、なぜこんなウィルスを作らなくてはいけないか、その必要性をすぐに理解していた。
ある日突然、目に見えない恐怖がやってくる。しかもそれが何者で、どう防いだらいいかもわからない、まさに終末がやってきたとしたら、それを聞いた市民は恐れ混乱する。
まともな経済活動なんて出来るはずも無く、不信になりやがて暴動に繋がりかねない。
杉崎と星野はその事実を知ったとたんに、これまでとは次元の違う恐怖に襲われることとなる。
これまでは死亡の原因は何らかのミス、つまり死の直前に何かしらのアクションがあってはじめて起こる現象であり。
それは防衛省、あるいは一個人の意思が介入しているものだとばかり思っていたからである。
そんな二人に対して近江が気になっていた事をついに話し出した。
「ところで星野君はともかく杉崎君は、よく無事にここまでたどり着けたね」。
杉崎はこの何でもないように聞こえる質問でさらなる恐怖と疑問を抱く事となる。
ひとつひとつ分別しているのは金本の弟だった。
仕事を終えてから時間があるときにゆっくり片づけているのだろう、全く急ぐ気配もなく
むしろ、終わってしまわないようにも見えるくらいにゆっくりと進めている。
ベンチコートがこすれる音と鼻をすする音が、換気のために開けている窓から表に漏れていた。
部屋にあるものは主に、週刊誌やトラックのパーツ、買いだめされたインスタント食品、
そしてアマチュア無線に関するものが多く、それに関する事が書かれているノートが大量にまとめられていた。
それは金本の立ち振る舞いからは想像出来ないほど丁寧に書かれており、無線仲間のコールサインや周波数、どのような人なのかなどが事細かに残されている。
さらに、いつ誰と交信したのかが詳細に記載されていた。
金本弟はこの手帳を眺めるのが好きだった。
この日もいつもと同じように手帳を見て自分の知らない兄がどんな人間だったのかを自らの思い出と重ねていた。
その中で金本弟はあることに気付く。
金本が亡くなる一年ほど前から、明らかに交信の回数が多くなっている人物がいる、
しかもそれは二人いて、一人は近江教授、もう一人はコールサインしか書かれていない。
気になったので近江教授ともう一人の方のコールサインをよく見ると、書いてあったのはまったくでたらめなコールサインであることに気が付いた、それは生前金本に影響されて無線を勉強していた弟が見てもすぐにわかるものだった。
その通信相手との通信記録を見ていくと、
でたらめで脈絡のない会話だが、いかにも
本当に誰かと会話したかの様に書き留められた内容になっている。
コールサインの見間違いかと何度も確認したが、それは絶対に間違えようのないものだった。交信の内容を読み進めるとそこには
「啓示、未来、人、ウィルス、記憶、死、複合、平和、破壊」
これらの文字が、作られたであろう会話の中に数多く、意図的に使っているのが誰がみてもわかるくらい鮮明にかかれてた。
*
近江教授の研究室。
星野は杉崎の「ウィルスはダミー」という言葉に驚愕したが、ある疑念と照らし合わせていた。
星野
「確かに、それならずっと気になっていた事に説明ができます。
近江教授がなぜデジタル庁のメンバーに選ばれたのかが気になっていたし職場の仲間内でも話題になっていました。
デジタルとウィルスにどんな繋がりがあって選出されたのか、
防衛省がリーチを治め管理しているとばかり思っていたけど、実際にまとめていたのはデジタル庁だったのか、しかしなぜデジタル庁なんだ?
リーチに関わることなら防衛省の方がしっくりくるし、実際連携と言う意味ではその方が都合が良いはず」。
杉崎も星野と同じ疑問を抱いていた。
そこから先を聞きに来たと言った感じに近江の方を見るが先ほどまでと同様、コーヒーの入ったカップを持ちながらじっと椅子に座っている。
ただひとつ、さっきまでと違う点はその顔は穏やかで、少し笑みを浮かべているようにも見えるほどだった。
近江は持っているマグカップを置き、大きく息をつく。
長い間、背負っていた重い荷物をやっとおろしたかのような声で、
「これで金本のやつも報われる」。
と言って、遠回りに杉崎らの推測が間違いではないということを伝えた。
立ち上がり窓の方に向かうと、来客の為に入れなおしたコーヒーを用意したカップにそそぐ。その時にあがったゆげのせいですりガラスには結露がついていた、外の空気の冷たさが伝わってくる。
コーヒーを注いだマグカップを二人に差し出すと、近江は続きを話し出した。
「リーチが現れてから今日まで数えられない程の犠牲があった、
最近になりさらに犠牲者の数が多くなってきたが、啓示を受ける人間の突然死はリーチが現れた頃からすでに確認されていた。
これを重く見た防衛省は我々科学者にこのウィルスを作るように命じた。
もちろん目的から無害であり、長時間体内にとどまることが出来て感染しないもの。
そうして作られたウィルスの使い道を知らされた時はびっくりしたよ、
このウィルスはあくまで原因不明の突然死を隠ぺいするために作られたんだからね。
この平和な時代に原因不明の突然死なんてあってはならないんだよ。
いくら探しても死の原因はみつからない、それならいっそのこと原因を作ってしまおう。
あくまで原因はウィルスということにしよう、なんて狂気の沙汰だよ」。
近江の話しを聞いていた星野は驚愕していた。自らが防衛省の職員であるのにもかかわらずそのすべてが初耳で、思いもよらないものだったからである。
「すごいですね、ここまでとは」。
「全くだ、だがこうするしかなかったことは私たち学者でさえもすぐに理解できた」
杉崎も同様に、なぜこんなウィルスを作らなくてはいけないか、その必要性をすぐに理解していた。
ある日突然、目に見えない恐怖がやってくる。しかもそれが何者で、どう防いだらいいかもわからない、まさに終末がやってきたとしたら、それを聞いた市民は恐れ混乱する。
まともな経済活動なんて出来るはずも無く、不信になりやがて暴動に繋がりかねない。
杉崎と星野はその事実を知ったとたんに、これまでとは次元の違う恐怖に襲われることとなる。
これまでは死亡の原因は何らかのミス、つまり死の直前に何かしらのアクションがあってはじめて起こる現象であり。
それは防衛省、あるいは一個人の意思が介入しているものだとばかり思っていたからである。
そんな二人に対して近江が気になっていた事をついに話し出した。
「ところで星野君はともかく杉崎君は、よく無事にここまでたどり着けたね」。
杉崎はこの何でもないように聞こえる質問でさらなる恐怖と疑問を抱く事となる。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる