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第二部

子育てって大変

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 デイヴィッドは、私が許容しているならと今まで王宮の結界を維持していることに口を出しはしなかったが、ヘルが産まれてからの様子に黙ってはいられなかったようだ。


 この先、私たちの子供たちは、国にいいように使われ、望んでもいない結婚を押し付けられることもあるかもしれない。現に、ヘルが産まれてまだ数日なのに、フロージア皇太子殿下とカミラ皇太子妃殿下の間に生まれたシェルディナー第一王女に相応しい子供が産まれたと王宮で話題となっている。



 あのフロージア殿下の娘を公爵家の嫁にするなんて他の誰よりもご遠慮願いたい話だ。ましてや娘を皇室に上げる気もない。
 ステラがこのような理不尽を黙って受け入れていたほど、生まれ育ったイシュトハンを愛していたのだとデイヴィッドは初めて気がついた。


 魔力の面で、育児に参加することは難しい。子供たちもそうだが、使用人たちの命も守らなければならない。手加減なしの魔力がぶつかれば、全てが壊れてしまう。
 この状況が良くないことを、デイヴィッドは何とかなっているからという理由で放置するには未来が不安だった。


「メビスナロー王国、セッティベナ公国、リューエナー帝国、国内ではフィルガノ侯爵家家門を中心に後ろ盾になってくれる予定だ。今まで中立派だった家も、反皇室派に取り込まれつつある」


 今の皇室は、貴族たちの力を削ろうと必死になっている。それはやはり、イシュトハンが原因だ。
 フリードリヒ第二王子も今年アカデミーの卒業を迎えるが、イシュトハン家の末娘のクロエとはうまくいっていないどころか、一言も話すことはないらしい。
 そのフリードがクロエに好意を寄せていることは、婚約者候補たちとの定例のお茶会での話を聞くに明らかなようだが、二人は会話すらないのが現状だ。
 そして、クロエの話を聞く限り、現在でもイシュトハン家を継ぐのに迷いはない。来年卒業したら爵位を譲渡してもらうと張り切っているくらいだ。


「国王の首を取ってくるだけなら、ヘルの授乳の落ち着く一年後なら、簡単に終わる。でも、それでデイヴィッドが国王になっても、暫くは大変よ?必ず勢力は二分化するし、フロージアやフリードリヒ二人の王子だけじゃなくて皇太子妃、王弟、あなたの血筋の人は必ず王位を取り戻そうとするわ」

「あぁ…でも、今の王政は無理やり力で押し付けているだけにすぎない。このままでいいとは思えないんだ。イシュトハンや、私たちの家族は力を持ちすぎている。近いうちに必ず潰そうと動いてくるはずだ。子供たちのために私は動きたいと思っている」



 クーデターを起こそうと、デイヴィッドはいつから考えていたのだろうか。デイヴィッドの上げた反乱勢力となる国や家は、王家との繋がりない国といえばかりだ。彼はリュカ殿下にも相談していないに違いない。


「いいわ。でも、私が王の首を取る。それだけは譲れないわ。だから、それまでに国内の勢力を黙らせる方法を探しましょう」

「あぁ。その辺りは任せてほしい」


 ティティとヘルに、自分と同じような思いはさせたくない。ダリアのように希望もしていない魔法省に勤めるとか、私のように多く魔力を奪われるなどあってはならない。


「ダリアとステラにもう少し子供達を見てもらえる時間を増やせるか聞いてみるわ。イシュトハンにはこのこと、絶対に黙っておいて。父は絶対に協力しないわ」


 父はクーデターには反対だろう。話してイシュトハンは味方につかないと思われるのは都合が悪い。全て終わった後ならば、クロエもアカデミーを卒業している。問題は、王位を奪ってから私たちがどう動くかだ。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 翌週、まだ安静期間にも関わらず、警備についての合同検討会という、定期会議に呼ばれていた。


「ティティ、ヘル、ダリアと一緒に待っててね」


 王宮の一室、何があってもいいように、ティティとヘルはダリアがいたとしても連れてこないわけにはいかない。ダリアはすっかり二人の面倒を見るのに慣れている。

「よーし、ティティ!とりあえずしばらく鳥になりなっ!」

「キャーッ!」


 ダリアはティティを浮かばせると、クルクルと部屋中を飛ばせて、ヘルの隣で乳母とお茶を飲みながら契約書を交わしている。その横で乳母の子供もコロリと揺籠の中に寝転がったのが見えた。これで安心して離れられる。


「リアム卿、筆頭魔術師になったのね。意外と早かったわね」


 検討会では国の主要機関だけではなく、各々の担当について問題点と改善案話し合う。今回の会議では、魔法省の魔法騎士団の魔術師の代表として訪れていたのが筆頭魔術師となったリアムだ。彼は訓練の講師としてやってきたダリアの魔法に一目惚れして弟子入りした。


「師匠のおかげですねぇ。一度ステラ様にもお相手いただきたい」

「クロエは攻撃魔法はからっきし興味がないけど、不得意ではないわよ。クロエに相手してもらったら?」

「今の所会ってももらえません」

 リアムは残念に思っているのかどうかも判断できないほど飄々としている。変わり者の魔術師の筆頭魔術師ともなれば、変わり者の中の変わり者だ。

「リアム卿、これ…」

「リアムでいいですよ。師匠の姉もまた師匠でしょう。興味の対象です」

 リアムはクロエと同じ魔法にのめり込むタイプだ。だからこそ聞いておかなければならない。

「リアム、これは真面目な話なんだけど…その地位、暫くは他に譲る気はないわね?」

「ありませんよぉ~?師匠がそれを許さないでしょうし、大きな事件がなければ全部任せて自分で時間が作れる。最高でしょう?」

「ならいいわ。今のうちにやりたいことをやっておきなさい」


 良いタイミングで筆頭魔術師が変わった。魔法騎士団だけに関わらず、魔法省に務めるものは全て国王陛下への中世の証として魔法契約が結ばれている。仕事について口外しないこと、命令には忠実であること。その二つだが、命令がなければ何もないのと同じだ。


 デイヴィッドを王位につけるならば、やはり担ぎ上げられるであろう現国王の後継者を潰していかなければならない。国王の首よりもフロージアとフリード、まだ幼いフロージアの息子を殺さなければならないだろうことに不安を覚えていた。だが、当然長い目で見れば必要になることだ。


 筆頭魔術師を取り込むのは政権を奪った後のために必要だと思っていたが、ちょうどよくリアムが筆頭魔術師の座を奪ってくれた。興味がある方の味方になる男だし、現国王の理不尽な任に忠実でいられるはずがなかった。


 


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