皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

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第二部

子供たちの未来

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 私の幼少期は、妹二人と共に血まみれで過ごした。私たち三姉妹は、通常魔法省から派遣を要請する魔術師の乳母のような世話係では手に負えないほどの魔力の強さで、私たちを制御出来るのは、母しかいなかった。


 産まれてからすぐの魔力の器が安定していない頃は魔力が暴発したりはしないが、数ヶ月経つと魔力の器は体内を巡る魔力を蓄えられるようになる。そうなると、母のいない場では父は私たちを抱くことも出来なかった。
 子供は、泣いても、笑っても、怒っても魔力が暴発してしまうのだ。


 私はデイヴィッドと結婚してすぐに子供を授かり、ティティアンナと名付けられた。
 そして、先日、ヘルナンティスと名付けた息子を出産した。


「ティティはヘルが気になって仕方ないみたいね」


 二歳になるティティは、ほんの少しの魔力制御も出来る年齢ではないため、一日中私から離れることが許されない。魔力が強すぎて、感情により頻繁に魔力暴走を起こすため、目を離すことは許されない。ほんの一時位ならば強固な結界の中眠らせることもあるが、彼女自身が怪我した時に対処できないため、余程のことがなければ私がそばを離れることはない。後はダリアとクロエ頼りだ。
 筆頭魔術師であった母ですら、ティティの魔力では危険だった。


「ティティね、ヘルを抱っこちたいの」


 ヘルはまだ産まれて間もないため、魔力暴走することはない。しかし、ティティの魔力暴走に巻き込まれる危険がある。それでも私は、二人の触れ合いを禁止するつもりはなかった。
 私自身、妹たちと傷だらけになりながら育ったが、隔離されながら育つよりも良かったと思っている。


「ティティおいで、ママと一緒に抱っこしましょう」


 ティティを膝の上に乗せると、ヘルを魔法でベッドから浮かせて腕の中に納めた。

「ヘルー」


 ティティは私の腕の中にいるヘルに手を伸ばして抱っこしている気分になっている。かと思えば、ヘルのほっぺをプニプニと触りだす。


「ティティはヘルのたった一人のお姉さんだね」

 デイヴィッドが椅子の後ろから私の首に手を回して抱きついてきた。
 ティティには加護と防御の魔法、ヘルとデイヴィッドには加護の魔法だけを与えている。それでもティティが不意に大爆発して魔力が暴走すれば、この部屋の結界と、彼らを保護する魔法を強めなければならない。

 私は団欒の時も気を抜けない日々だ。


「さぁ、そろそろお昼寝の時間よ。ヘルがゆっくり寝れるようにベッドに寝かして、ティティもお昼寝の前に本でも読む?」

「じゃあ今日はパパが読んであげよう」
 

 デイヴィッドはティティがもう少しだけ感情が落ち着くまで私が隣にいる時しかティティに触れることができない。絶賛イヤイヤ期のティティに、膨大な魔力に対する魔法を長期間且つ長時間維持することは今の私には難しい。だから、大きな魔力放出に対しては、その場で対応するしかなかった。


「ステラ、疲れてるよね?まだ身体も辛いだろうから横になりな。ティティもベッドだ」


 ヘルが産まれてから、ティティも私も部屋から出ることはほとんどない。私は産後の安静期間で、ヘルから離れて少し散歩をとともいかない。ティティがいつまでこの環境に疑問を抱かないか心配だ。


 デイヴィッドは思っていた以上にいい夫となり、愛情深い父親になった。ぬるま湯のように心地よく安心して身を委ねることが出来る。魔力はいつもギリギリで、思った以上に育児に魔力を使っているが、デイヴィッドが出来るだけ家にいてくれるので、なんとか維持出来ている状態だ。他の人ではこうはいかなかっただろう。


 王宮の結界さえなければ、負担はこれ程多くはなかったはずだ。


「ステラ?もう少し寝ていてもいいよ。ダリアが子供たちを見てる」


 私が目を覚ますと、部屋は夕陽に照らされていた。長く眠っていたようだ。気付けばデイヴィッドは私の髪を撫でていた。


「久しぶりにゆっくり寝れたわ。ヘルは?お腹空かせてたでしょう?」

「ダリアが魔法省から乳母を連れて来た。ダリアがいるならステラが寝ている間に乳母にいてもらうのはいい案かもしれないな。ヘルやティティの友人になってくれるかもしれない」


 乳母を雇うということは、彼女の連れてくる子供いるということだ。デイヴィッドを含めた普通の貴族たちには皆乳兄妹がいるのが普通。乳母のいなかったイシュトハンが特殊なのだ。


「ダリアの魔力なら安心できる。ダリアの都合のいい時は乳母も頼もうかしら」

「ティティの為にもその方がいい。ステラも体を休められて、ティティも外に出れるなら協力してもらおう。ステラ一人では限界がある。代わりはいないのだから無理はしないようにしよう。ステラの寝顔を見ながら本を読む時間も欲しいしね。水を持ってくるよ」
 

 デイヴィッドはベッドから下りると、割れないように棚の中に入れてある水差しからグラスに水を見れて持って来てくれた。


「ありがとう」

「ステラ、ティティとヘルは君と比べて魔力保持量はどの位なんだ?」

「ヘルはまだ保持できていないから分からないけど、流れてる魔力はティティと同じくらいあるわ。母乳からも魔力は流れるしね」


 私が魔力不足になるのは母乳によるところが大きい。母乳には多くの魔力が含まれる為、ヘルも器がなく長時間保持できないだけで、常に魔力を体に取り込んでいる。


「ステラ、あの子達も君のようにこの国に利用されるのだろうか?」


 デイヴィッドの発したこの一言から、自分達の将来のビジョンが変わっていった。



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