48 / 52
第二部
子供たちの未来
しおりを挟む
私の幼少期は、妹二人と共に血まみれで過ごした。私たち三姉妹は、通常魔法省から派遣を要請する魔術師の乳母のような世話係では手に負えないほどの魔力の強さで、私たちを制御出来るのは、母しかいなかった。
産まれてからすぐの魔力の器が安定していない頃は魔力が暴発したりはしないが、数ヶ月経つと魔力の器は体内を巡る魔力を蓄えられるようになる。そうなると、母のいない場では父は私たちを抱くことも出来なかった。
子供は、泣いても、笑っても、怒っても魔力が暴発してしまうのだ。
私はデイヴィッドと結婚してすぐに子供を授かり、ティティアンナと名付けられた。
そして、先日、ヘルナンティスと名付けた息子を出産した。
「ティティはヘルが気になって仕方ないみたいね」
二歳になるティティは、ほんの少しの魔力制御も出来る年齢ではないため、一日中私から離れることが許されない。魔力が強すぎて、感情により頻繁に魔力暴走を起こすため、目を離すことは許されない。ほんの一時位ならば強固な結界の中眠らせることもあるが、彼女自身が怪我した時に対処できないため、余程のことがなければ私がそばを離れることはない。後はダリアとクロエ頼りだ。
筆頭魔術師であった母ですら、ティティの魔力では危険だった。
「ティティね、ヘルを抱っこちたいの」
ヘルはまだ産まれて間もないため、魔力暴走することはない。しかし、ティティの魔力暴走に巻き込まれる危険がある。それでも私は、二人の触れ合いを禁止するつもりはなかった。
私自身、妹たちと傷だらけになりながら育ったが、隔離されながら育つよりも良かったと思っている。
「ティティおいで、ママと一緒に抱っこしましょう」
ティティを膝の上に乗せると、ヘルを魔法でベッドから浮かせて腕の中に納めた。
「ヘルー」
ティティは私の腕の中にいるヘルに手を伸ばして抱っこしている気分になっている。かと思えば、ヘルのほっぺをプニプニと触りだす。
「ティティはヘルのたった一人のお姉さんだね」
デイヴィッドが椅子の後ろから私の首に手を回して抱きついてきた。
ティティには加護と防御の魔法、ヘルとデイヴィッドには加護の魔法だけを与えている。それでもティティが不意に大爆発して魔力が暴走すれば、この部屋の結界と、彼らを保護する魔法を強めなければならない。
私は団欒の時も気を抜けない日々だ。
「さぁ、そろそろお昼寝の時間よ。ヘルがゆっくり寝れるようにベッドに寝かして、ティティもお昼寝の前に本でも読む?」
「じゃあ今日はパパが読んであげよう」
デイヴィッドはティティがもう少しだけ感情が落ち着くまで私が隣にいる時しかティティに触れることができない。絶賛イヤイヤ期のティティに、膨大な魔力に対する魔法を長期間且つ長時間維持することは今の私には難しい。だから、大きな魔力放出に対しては、その場で対応するしかなかった。
「ステラ、疲れてるよね?まだ身体も辛いだろうから横になりな。ティティもベッドだ」
ヘルが産まれてから、ティティも私も部屋から出ることはほとんどない。私は産後の安静期間で、ヘルから離れて少し散歩をとともいかない。ティティがいつまでこの環境に疑問を抱かないか心配だ。
デイヴィッドは思っていた以上にいい夫となり、愛情深い父親になった。ぬるま湯のように心地よく安心して身を委ねることが出来る。魔力はいつもギリギリで、思った以上に育児に魔力を使っているが、デイヴィッドが出来るだけ家にいてくれるので、なんとか維持出来ている状態だ。他の人ではこうはいかなかっただろう。
王宮の結界さえなければ、負担はこれ程多くはなかったはずだ。
「ステラ?もう少し寝ていてもいいよ。ダリアが子供たちを見てる」
私が目を覚ますと、部屋は夕陽に照らされていた。長く眠っていたようだ。気付けばデイヴィッドは私の髪を撫でていた。
「久しぶりにゆっくり寝れたわ。ヘルは?お腹空かせてたでしょう?」
「ダリアが魔法省から乳母を連れて来た。ダリアがいるならステラが寝ている間に乳母にいてもらうのはいい案かもしれないな。ヘルやティティの友人になってくれるかもしれない」
乳母を雇うということは、彼女の連れてくる子供いるということだ。デイヴィッドを含めた普通の貴族たちには皆乳兄妹がいるのが普通。乳母のいなかったイシュトハンが特殊なのだ。
「ダリアの魔力なら安心できる。ダリアの都合のいい時は乳母も頼もうかしら」
「ティティの為にもその方がいい。ステラも体を休められて、ティティも外に出れるなら協力してもらおう。ステラ一人では限界がある。代わりはいないのだから無理はしないようにしよう。ステラの寝顔を見ながら本を読む時間も欲しいしね。水を持ってくるよ」
デイヴィッドはベッドから下りると、割れないように棚の中に入れてある水差しからグラスに水を見れて持って来てくれた。
「ありがとう」
「ステラ、ティティとヘルは君と比べて魔力保持量はどの位なんだ?」
「ヘルはまだ保持できていないから分からないけど、流れてる魔力はティティと同じくらいあるわ。母乳からも魔力は流れるしね」
私が魔力不足になるのは母乳によるところが大きい。母乳には多くの魔力が含まれる為、ヘルも器がなく長時間保持できないだけで、常に魔力を体に取り込んでいる。
「ステラ、あの子達も君のようにこの国に利用されるのだろうか?」
デイヴィッドの発したこの一言から、自分達の将来のビジョンが変わっていった。
産まれてからすぐの魔力の器が安定していない頃は魔力が暴発したりはしないが、数ヶ月経つと魔力の器は体内を巡る魔力を蓄えられるようになる。そうなると、母のいない場では父は私たちを抱くことも出来なかった。
子供は、泣いても、笑っても、怒っても魔力が暴発してしまうのだ。
私はデイヴィッドと結婚してすぐに子供を授かり、ティティアンナと名付けられた。
そして、先日、ヘルナンティスと名付けた息子を出産した。
「ティティはヘルが気になって仕方ないみたいね」
二歳になるティティは、ほんの少しの魔力制御も出来る年齢ではないため、一日中私から離れることが許されない。魔力が強すぎて、感情により頻繁に魔力暴走を起こすため、目を離すことは許されない。ほんの一時位ならば強固な結界の中眠らせることもあるが、彼女自身が怪我した時に対処できないため、余程のことがなければ私がそばを離れることはない。後はダリアとクロエ頼りだ。
筆頭魔術師であった母ですら、ティティの魔力では危険だった。
「ティティね、ヘルを抱っこちたいの」
ヘルはまだ産まれて間もないため、魔力暴走することはない。しかし、ティティの魔力暴走に巻き込まれる危険がある。それでも私は、二人の触れ合いを禁止するつもりはなかった。
私自身、妹たちと傷だらけになりながら育ったが、隔離されながら育つよりも良かったと思っている。
「ティティおいで、ママと一緒に抱っこしましょう」
ティティを膝の上に乗せると、ヘルを魔法でベッドから浮かせて腕の中に納めた。
「ヘルー」
ティティは私の腕の中にいるヘルに手を伸ばして抱っこしている気分になっている。かと思えば、ヘルのほっぺをプニプニと触りだす。
「ティティはヘルのたった一人のお姉さんだね」
デイヴィッドが椅子の後ろから私の首に手を回して抱きついてきた。
ティティには加護と防御の魔法、ヘルとデイヴィッドには加護の魔法だけを与えている。それでもティティが不意に大爆発して魔力が暴走すれば、この部屋の結界と、彼らを保護する魔法を強めなければならない。
私は団欒の時も気を抜けない日々だ。
「さぁ、そろそろお昼寝の時間よ。ヘルがゆっくり寝れるようにベッドに寝かして、ティティもお昼寝の前に本でも読む?」
「じゃあ今日はパパが読んであげよう」
デイヴィッドはティティがもう少しだけ感情が落ち着くまで私が隣にいる時しかティティに触れることができない。絶賛イヤイヤ期のティティに、膨大な魔力に対する魔法を長期間且つ長時間維持することは今の私には難しい。だから、大きな魔力放出に対しては、その場で対応するしかなかった。
「ステラ、疲れてるよね?まだ身体も辛いだろうから横になりな。ティティもベッドだ」
ヘルが産まれてから、ティティも私も部屋から出ることはほとんどない。私は産後の安静期間で、ヘルから離れて少し散歩をとともいかない。ティティがいつまでこの環境に疑問を抱かないか心配だ。
デイヴィッドは思っていた以上にいい夫となり、愛情深い父親になった。ぬるま湯のように心地よく安心して身を委ねることが出来る。魔力はいつもギリギリで、思った以上に育児に魔力を使っているが、デイヴィッドが出来るだけ家にいてくれるので、なんとか維持出来ている状態だ。他の人ではこうはいかなかっただろう。
王宮の結界さえなければ、負担はこれ程多くはなかったはずだ。
「ステラ?もう少し寝ていてもいいよ。ダリアが子供たちを見てる」
私が目を覚ますと、部屋は夕陽に照らされていた。長く眠っていたようだ。気付けばデイヴィッドは私の髪を撫でていた。
「久しぶりにゆっくり寝れたわ。ヘルは?お腹空かせてたでしょう?」
「ダリアが魔法省から乳母を連れて来た。ダリアがいるならステラが寝ている間に乳母にいてもらうのはいい案かもしれないな。ヘルやティティの友人になってくれるかもしれない」
乳母を雇うということは、彼女の連れてくる子供いるということだ。デイヴィッドを含めた普通の貴族たちには皆乳兄妹がいるのが普通。乳母のいなかったイシュトハンが特殊なのだ。
「ダリアの魔力なら安心できる。ダリアの都合のいい時は乳母も頼もうかしら」
「ティティの為にもその方がいい。ステラも体を休められて、ティティも外に出れるなら協力してもらおう。ステラ一人では限界がある。代わりはいないのだから無理はしないようにしよう。ステラの寝顔を見ながら本を読む時間も欲しいしね。水を持ってくるよ」
デイヴィッドはベッドから下りると、割れないように棚の中に入れてある水差しからグラスに水を見れて持って来てくれた。
「ありがとう」
「ステラ、ティティとヘルは君と比べて魔力保持量はどの位なんだ?」
「ヘルはまだ保持できていないから分からないけど、流れてる魔力はティティと同じくらいあるわ。母乳からも魔力は流れるしね」
私が魔力不足になるのは母乳によるところが大きい。母乳には多くの魔力が含まれる為、ヘルも器がなく長時間保持できないだけで、常に魔力を体に取り込んでいる。
「ステラ、あの子達も君のようにこの国に利用されるのだろうか?」
デイヴィッドの発したこの一言から、自分達の将来のビジョンが変わっていった。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
誰にも言えないあなたへ
天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。
マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。
年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?
せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。
※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる