皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

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第一部

王都でのデート

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デイヴィッドは成人してすぐの15歳で爵位を受け継いだ稀な存在だ。
しかも受け継いだのは筆頭公爵家であって、苦労は人の何倍もあったはずだ。

彼の母親も王家の血筋である公爵家出身であったことは、彼を大いに助けることになったが、それでも人の上に立つには若すぎる年齢だった。


「アカデミーでもあなたは人気なのでしょうね」

「君も去年まで同じ校舎で学んでいたじゃないか」

「…正直アカデミーであなたを見かけたのは一、二度程度と記憶しているわ。私、興味のないことは受け付けないタイプだし」


アカデミーは小さな社交界のようだが、フロージアの横にいた私にとっては思っていたよりも実力のある公爵となったなという印象しかなく、パーティでの彼しか記憶になかった。


「確かに学年が違うと校内で会うことは少ないが、私は週に二、三度はステラを見かけていたよ」

「え、そう?」

「遠くに居ても声だけで君がいるって気付くくらいには、君に夢中だった。そう思うと、今こうして君が膝の上にいるのは夢の様だね」


彼は結構甘いタイプだ。
どこかが触れてないと不安になっているんじゃないかと思うほど、スキンシップが多い。
なんだかんだ、私はすっかり絆されてしまっている気がする。


「試験も終わったことだし、少し王都で気分転換とかどうだろう?」


アカデミーは卒業前の最終試験を終えて、単位の取得の大部分を既に終えて学園に通うことも少なくなっていたデイヴィッドも、週に一度ほどの通学に変わる予定だ。


毎日財力に物を言わせて転送装置で王都まで通っていた彼の生活にも卒業が見え始めている。
普段苦労は見せないが、少し考えればすぐに私と一緒にいる時間をわざわざ作っているのだと気づくことが出来た。


「なら、プロムで着るスーツを見に行かない?」

「それはいいね。君のドレスと一緒に注文しよう」


卒業式後に行われるプロムナードは、パートナー必須の人生の一大イベントだ。
私は去年、フロージアと参加した。まだ、彼と結婚することを疑いもしていなかったのに、1年経ったら別の人と参加をするなんて本当に不思議だ。


「主役は貴方なのは忘れちゃダメだからね?」

「卒業式が終わったらすぐに迎えにいくからね。朝から準備してて」

「まだスーツすら選んでないのに準備をしろだなんて!でもそうね、一つ下の女の子達に負けない様にしなきゃいけないってことだわ」


私たちは王都の街へ出掛けた。
クラーク領の勉強も兼ねて、城下町に出ることはあったが、デイヴィッドよりも夫人と出掛けることの方が多かった。


「馬車もいいけど、少しふらっと歩いてみない?靴は大丈夫?」


しっかりとしたデイドレスで出てきたので、ヒールの高さもそれなりにはあるが、歩けないほどでもない。


「あまり長くは歩けませんが、少しだけなら」


私も少し歩きたかった。
学生だった頃は友人とお茶をしたり、買い物をしたりした。


「よく悪友達と一緒に貴族街を抜けて平民に紛れて屋台で食事を済ませたりしてるって言ったら、呆れる?」

「いいえ、私もよくやりましたよ」

「本当に?女性でそんなことをしているのは聞いたことがなかった」

「まぁ、護衛付きでしたけどね」


そういう悪さをする半分以上はフロージアとだった。
オーラで多くの魔力を持つとバレる私は、オーラの見えない人が多い平民街の方が気楽で、密かに友人達も誘って平民に紛れて楽しんでいた。


ーー懐かしい。

一年の差というのは今はとても大きいのだと感じる。
いつもは年齢の差は感じないのに、私が思い出を話して、彼は今を話す。


「これからのステラの横に私がいるならいいか…」


ボソッと独り言の様に呟いたのを私は聞き逃さなかった。
こういう不意打ちでポロッと本音が出てしまったかのように言われるのには弱い。
あの魔法契約を彼が後悔する日がくるのではないかと怯えてしまうほど今が幸せなのだ。


私たちが予約していたドレスショップ、アトリエエミールに着くまで雑貨屋を覗きみたり、剣を見たり、歩くことでしか出来ない寄り道を楽しんだ。


「マダムエミール、いないのか?」


人気のドレスショップなので店員は多いはずなのだが、店に入っても誰一人として顔を見せることはない。


「いらっしゃいませ!店主を呼んで参ります掛けてお待ちください」


ベルを鳴らしてから助手と見られる女性が奥から出てきた。
貴族向けの店ではこういった扱いを受けるのは珍しい。店主が出て来れない理由があるのだろうか。


「今日は帰るよ。忙しいようだし」


彼はそういうと、私の腰に手を回した。
きっと、返事を待たずに帰ろうとしたのは彼の店への気遣いだろう。


「あら、私のせいでお待たせしたようで申し訳ありません」

私たちが一歩歩き出したところで、後ろから私たちに向けて声がかけられた。
振り返れば、アルギミール侯爵令嬢が奥の部屋から出てくるところだった。


「いや、用も無くなったし構わないよ。ステラ行こうか」


流れるように再び歩き出したデイヴィッドに、私は大人しくついていくことにした。確かに、この店に用は無くなったといえる。公爵の予約よりも侯爵令嬢を優先したというだけで、この店の信用は落ちた。


「やだわ。悪いことしてしまったわね」


私たちを下に見た言い方をするので、気分が悪かったが私たちはそれ以上足を止めずに店を出た。深く関わっても気分を悪くするだけだ。
ただ、明日には先にいた彼女の順番を待てずに帰っていったなんてことが噂になるかもしれない。それは癪だなと考えていると、ポンと頭を叩かれる。


「ステラ、少し遊んで帰ろうか」

「遊ぶって?」

「あぁ、例えばこの一面の建物全て買って帰るとか、どう?」


王都の貴族街の一角を全て買うだなんて、正気の沙汰じゃない。
相当なお金を積むことになる。



「ふふっ本気?」

「あぁ。店舗はレントだろうし、五人くらいに声をかけるだけで済むはずだ。何人が所有者か賭けるかい?」

「いち、に、さん、し…12棟あるわね…じゃあ私は9人にするわ。デイヴィッドは5人なんでしょう?」

「12棟か…5人は厳しかったかもしれないな。でも一度口にしたことを曲げるわけにはいかない。何を賭ける?」


折角の遊びだから、大きく賭けないと楽しくない。


「なら、私が負けたら一晩私の部屋に泊めてあげる」

「本当に?それだと私が負けても私の部屋に泊まるってすれば…」

「デイヴィッドォオ?」

「ハハッ…わかったよ。じゃあ…君が勝ったらどこか君が好きなところに別荘を建てる。既にあるのを買ってもいいし、どちらでも。どう?」


デイヴィッドの部屋に泊まるのも楽しそうだけど、やっぱりそれじゃ賭けとしては楽しくない。


「どこに別荘を建ててもらおうかしら」


すっかり勝った気で私は海や避暑地、隣国の王都など、たくさんの候補を上げながら、土地の所有者のいる王宮へと向かった。土地の使用権の取引履歴を見れば現在の所有者が分かるはずだ。
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