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新しい道

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 エマは男性に食事に誘われても断るのをやめた。出せない手紙を眺めるのを止め、他の人にも目を向ける努力をすることにした。


「エマ、最近よく出掛けてるけど、幼馴染のことはもういいの?」

 普段はプライベートに口を出してこない、同室の侍女仲間のアンナが呆れたように声を掛けてきた。


「言ってなかったけど…彼、恋人がいるのよ。とても仲のいい恋人がね…それなのに今更会いになんて…」

 口に出したら、惨めになって涙が流れてきてしまって、エマは慌てて口を押さえる。

「ごめん。今まで何も聞かなかったのに変なこと言って…大丈夫。失恋はね、新しい恋で忘れるのが一番。誰か良さそうな人はいた?」


 アンナは慌てて私の横に腰掛けて、ハンカチを貸してくれた。食事をするのは楽しいし、みんなとても紳士的だった。でも、好きだと思うには足りなかった。


「良い人なら、この人を好きになるって決めればいいの。一緒に何度も食事に行って、散歩して、嫌いにならなければ別れる必要もない。時間が経てば、きっと本当に好きだと思えるようになる。愛って熱烈なものだけじゃないの。静かに育てる愛だってあるんだよ。って…お見合い結婚した姉が言った。今は子供もいて、幸せそうなんだよ。これからデートなんでしょ?ほらほら、化粧もしなおして、髪は私がやってあげる!泣きながらデートに出掛ける人がいる?いないわよね?」

「うん。ありがとう…」


 誰の誘いも一度だけの食事で終わっていたが、アンナの助言を受けて、次の誘いを断ることをやめた。ゆっくりと逢瀬を重ねて少しだけ自尊心が高まるのを感じた。


 それでも、エマはジャンと伯爵令嬢の仲の良さに心を乱されていた。彼らが笑い合い、楽しそうに過ごす姿を目にするたびに、ジクリと痛みが滲む。一方で、ジャンとの幼馴染の絆を大切に思っているエマは、それを見て見ぬふりをして騎士の一人とデートを重ねていた。


 エマはデート中、伯爵令嬢とジャンが楽しそうに笑い合っている光景を目にする。彼らは美しい庭園の中で、まるで二人だけが存在するかのように笑いながら歩いていた。

 伯爵令嬢の明るい笑顔は、まるで太陽のように周囲を照らしていた。彼女は優雅なドレスをまとい、華麗な装飾品が彼女の美しさを一層引き立てていた。一方のジャンも、伯爵令嬢の傍らでにっこりと笑いながら、彼女の話に耳を傾けている様子だった。

 エマはその場面を見つめながら、微かな寂しさが心に広がっていくのを感じ、彼女はジャンとの特別な瞬間を共有することができなくなったことに、切なさを覚えた。

 彼らの笑い声が風に乗ってエマの耳に届きながら、彼女は自分自身に問いかける。「ジャンが幸せなら、それでいいの?」心の奥底でエマは自分がジャンと一緒にいたいという思いを確かに感じていた。

 しかし、彼女は自らの想いを押し殺しながら、ジャンの幸せを願う道を選び、食事を重ねていた騎士と正式に付き合うことに決めた。

「トーマス、この間の話、今更だけど受けてもいいかな?まだ間に合う?」

「エマ!ほんと?もちろんだよ!絶対幸せにする!」


 まだまだ駆け出しの騎士であるトーマスが、エマにとっての初めての彼氏となった。



◇ ◇ ◇

 時が経ち、ジャンとアデリーナとの関係が変化していっていた。アデリーナは、アカデミーで小さなイジメに合っているようだった。


「ジャンッ…!」


 アカデミーの前で、馬車から降りてアデリーナの帰りを待っていると、アデリーナが胸に飛び込んできた。このようなことは初めてで、どうすることが正解だったのか分からなかったが、抱き合っているのはあまり人に見られて良いものではないと、急いで馬車の中へエスコートした。


 話を聞くと、これまで全く交流のなかった皇太子殿下に話しかけられることが多くなり、それを勘違いされて皇太子殿下の婚約者に意地悪をされるようになったらしい。それがここ最近はクラスメイトも巻き込んで無視をされたり、我慢が出来なくなったようだ。


 アデリーナはアカデミーを休むようになり、伯爵は家庭教師をつけてしばらく休む許可を与えた。ジャンは自由になる時間が少なくなる。昼前から街に出ることも多くなり、アデリーナとの噂はますます広がっているようだった。しかし、彼女を放っておく訳にもいかなかった。仕事だけではなく、落ち込んで塞ぎ込んでしまったアデリーナを励ましたかった。


 しかし、そんな日々が続き、ジャンはアデリーナとの関係に疑問を感じ始める。彼は自分の心がエマに向かっていることを自覚し、アデリーナに対しては誠実でありたいという思いと、自分の本当の気持ちを抑える苦悩との間で揺れ動く。

 エマもジャンと伯爵令嬢の関係を遠くから見守っていた。彼女は彼の幸せを願いつつも、心の奥底では彼に対する思いを捨てきれずにいる。
 ジャンとの別れの時、エーデルワイスの花を贈ったことが忘れられず、彼への未練が深まるのを感じながらも、それを振り切るようにトーマスとの逢瀬を重ね、忙しい日々の中でトーマスに癒しを求めた。


 エマとトーマスは、休みを合わせ、少し遠い公園まで足を運んだ。彼と初めて食事をしてから、一年が経っていた。

「トーマス、ここはとても静かで穏やかな場所ね。こうしてあなたと座ってると、気持ちが楽になるわ」


 エマはベンチで隣に座ったトーマスの肩にそっと頭を寄せ、トーマスは顔を火照らしながらも、優しく微笑んだ。

「俺もそう思うよ。エマ、君と一緒にいると心が満たされるんだ。君の笑顔が俺の元気の源だよ」

 エマはトーマスならば、好きになれるかもしれないと思っていた。焦らず、エマのスピードに合わせてくれるトーマスと一緒にいると、気持ちが和らぐのは嘘ではなかった。

「本当に?私もトーマスと一緒にいると、すごく特別な気持ちになるわ。このままずっとこんな風に過ごしたいな」


 エマとトーマスは互いに微笑み合い、ゆっくりと唇が重なる。エマはたくさんの時間をトーマスと重ねて、少しずつ傷を癒して、トーマスとの穏やかな時間を大切にしていた。


 その様子を、アデリーナの付き添いでやってきたジャンが見ていた。ジャンが願っていた再会であったが、エマの口付けを見て冷静でいられるわけもなかった。
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