44 / 45
アンドリューと栞屋の出会い
しおりを挟む
アンドリューは十歳となり、森で乗馬を楽しんだり、騎士達と剣や弓の練習をして楽しむのが好きだった。
「なぁ、この道の奥って何があるんだ?」
アンドリューは馬に乗って道のない森の中へ入ることはあっても、入り口から森の奥へ行くことはなかった。今まで気に留めていなかったが、一人のローブの男が森の中へ入っていくのを初めて見て森の一本道に興味を持った。いくつもある獣道とは違い、馬車が通れるほど広い。なのに通る人は少ないのが疑問に思った。
「罪人の家があるんですよ。厩舎で働く男達が住んでいるんです。だからあまり道の奥に行く人はいないんですよ」
「少し見てから狩りに行こう」
「聖人様!」
アンドリューは興味本位で方向転換をして森の道を進んだ。なだらかなカーブは僅かに馬車の車輪の跡がかすかに見える。罪人とまで言われている者が家の前まで馬車を使うとは思えず、アンドリューは僅かに切土されたであろう斜面を見て、その先には小さな街でもあるのかと考えていたが、見えて来たのは小さな小屋だけだった。
「誰もいないな…」
後ろからアンドリューを追いかけて来た護衛達も初めて入った者が多く、キョロキョロと当たりを伺っていると、一つの小屋のドアが開いた。
「聖人…様?」
「あれ?リューじゃないか!」
小屋から出て来た男に、アンドリューの護衛の一人が声を掛けた。
「ヴィンセント・アルミエ?聖人様と一緒に何かご用ですか?」
「知り合いか?」
護衛にアンドリューが問いかけると、聖騎士だという。制服を着ていないことから非番だと考えられた。
「私と同期の聖騎士です。聖女様とも面識がある奴なので、聖女様が街に出る時にはたまに警護についているはずです。剣の筋もいいので聖宮騎士団に入るのも時間の問題でしょう」
「姉上と面識があるとは珍しいな」
アンドリューは孤児院出身の神官や騎士に話しかける聖女様を見たことはあったが、警護にわざわざつけていると聞いて興味を持った。
「お前はここで何をしていたんだ?」
「店に立ち寄っただけですが…あの…なにか?」
リューは責められているのかと混乱したように目を泳がせた。聖女様とは面識があっても、聖人様にあったのは初めてだ。
「店?」
「はい。ここは栞屋ですので」
リューが小さな看板を指差すと、アンドリューは馬を降りて看板を確認すると、扉に手を掛けた。その様子見て、副団長を務めるアッシュバードも急いで後を追った。アッシュバードは聖女様が昔、森の栞屋へ赴いていたのを思い出していた。
「休憩中だったか?」
カランカランと音を立てながらアンドリューはドアを開き、小さな店をグルリと周りを見渡して、そこにローブの男がベンチに座って本を読んでいるのに気付いた。置物かと見間違えたが、フードの中の驚いたような目は確かに光っていた。
「聖人アンドリュー殿下…お会いできて光栄…です」
エリアスはローブの男は聖女様同様に光に包まれている男の子を見て、何が起こったのか理解出来なかった。
エリアスは一瞬、シャーロットが来たのかと思った。
「畏まらなくていい。ふらりと寄っただけだ」
アンドリューはすぐ目の前のテーブルに積み上げるようにして並べられている薄い木で出来た栞を手に取った。
「これは…」
見覚えのある栞だった。薄い木に塗られた樹脂に埋め込まれた花。貴族達の使う栞というのは、貴族たちが好んで使う鼈甲や、柔らかいシルクのリボンを使うのが一般的だ。
活版印刷の新しい本は袋綴じのままなので、それを開くペーパーナイフを挟むことも多いが、金属製のものは紙を痛めるので一時的な栞に使う程度になる。
木の栞は市場では見たことがない。しかし、アンドリューはこの栞をよく知っていた。
「聖女様も昔はここによくいらしてたんですよ。確かこの本にまだ聖女様の栞が挟まってるはず…」
「あっ…おい…」
リューが本棚に手をかけたが、エリアスは何年も訪れていない聖女のことをその弟に話していいのか迷った。
「ほら、ありました。ご結婚されてからは中々森まではいらっしゃらないですけど…あの一番下のハンモックは聖女様がよくお昼寝してたんです。聞いたことありませんでした?」
リューは栞の裏側に彫られたシャーロットの文字を見せながらニコニコとアンドリューに話しかけた。
「本当にここに姉上が?」
シャーロットと刻まれた栞はやはり見覚えがあった。いや、正確に言えばその文字にも、この木の栞もだ。全てが自らが使っている栞と似ている。
「はい。私が子供の頃です。栞屋のおっちゃんとも仲が良くて、聖女様は本を全部盗まれた栞屋に、自分が読む本だと少しずつ本を置いて行ってくれました」
「ハンモックとはどう使う物だ?寝るのはわかるがこれでは動いて乗ることさえ出来ない」
アンドリューはリューの話のどこまでを聞いていたのか分からないほど、ハンモックと格闘している。
「低いものはお尻から乗ってそのまま力を抜いて寝るだけです」
リューが少しアドバイスをすれば、アンドリューはすぐにハンモックに横になった。
「これは快適だな…」
アンドリューはすぐに寝息を立て始め、狩りに行くために一緒に来ていた護衛たちは、そのうち外で剣を交じ合わせた。見晴らしのいい小屋は、監視がしやすい。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「エリアス、冒険書を増やそう」
アンドリューはすっかりハンモックの虜になり、窓を開けて風に当たりながら本を読み、そのまま眠ることが習慣化するようになった。
「お前…シャーロットとそっくりじゃねーか」
アンドリューと栞屋は、いつの間にか護衛騎士も驚くほど仲良くなっていた。その言葉を聞いて、アンドリューは静かに笑みを浮かべた。
「なぁ、この道の奥って何があるんだ?」
アンドリューは馬に乗って道のない森の中へ入ることはあっても、入り口から森の奥へ行くことはなかった。今まで気に留めていなかったが、一人のローブの男が森の中へ入っていくのを初めて見て森の一本道に興味を持った。いくつもある獣道とは違い、馬車が通れるほど広い。なのに通る人は少ないのが疑問に思った。
「罪人の家があるんですよ。厩舎で働く男達が住んでいるんです。だからあまり道の奥に行く人はいないんですよ」
「少し見てから狩りに行こう」
「聖人様!」
アンドリューは興味本位で方向転換をして森の道を進んだ。なだらかなカーブは僅かに馬車の車輪の跡がかすかに見える。罪人とまで言われている者が家の前まで馬車を使うとは思えず、アンドリューは僅かに切土されたであろう斜面を見て、その先には小さな街でもあるのかと考えていたが、見えて来たのは小さな小屋だけだった。
「誰もいないな…」
後ろからアンドリューを追いかけて来た護衛達も初めて入った者が多く、キョロキョロと当たりを伺っていると、一つの小屋のドアが開いた。
「聖人…様?」
「あれ?リューじゃないか!」
小屋から出て来た男に、アンドリューの護衛の一人が声を掛けた。
「ヴィンセント・アルミエ?聖人様と一緒に何かご用ですか?」
「知り合いか?」
護衛にアンドリューが問いかけると、聖騎士だという。制服を着ていないことから非番だと考えられた。
「私と同期の聖騎士です。聖女様とも面識がある奴なので、聖女様が街に出る時にはたまに警護についているはずです。剣の筋もいいので聖宮騎士団に入るのも時間の問題でしょう」
「姉上と面識があるとは珍しいな」
アンドリューは孤児院出身の神官や騎士に話しかける聖女様を見たことはあったが、警護にわざわざつけていると聞いて興味を持った。
「お前はここで何をしていたんだ?」
「店に立ち寄っただけですが…あの…なにか?」
リューは責められているのかと混乱したように目を泳がせた。聖女様とは面識があっても、聖人様にあったのは初めてだ。
「店?」
「はい。ここは栞屋ですので」
リューが小さな看板を指差すと、アンドリューは馬を降りて看板を確認すると、扉に手を掛けた。その様子見て、副団長を務めるアッシュバードも急いで後を追った。アッシュバードは聖女様が昔、森の栞屋へ赴いていたのを思い出していた。
「休憩中だったか?」
カランカランと音を立てながらアンドリューはドアを開き、小さな店をグルリと周りを見渡して、そこにローブの男がベンチに座って本を読んでいるのに気付いた。置物かと見間違えたが、フードの中の驚いたような目は確かに光っていた。
「聖人アンドリュー殿下…お会いできて光栄…です」
エリアスはローブの男は聖女様同様に光に包まれている男の子を見て、何が起こったのか理解出来なかった。
エリアスは一瞬、シャーロットが来たのかと思った。
「畏まらなくていい。ふらりと寄っただけだ」
アンドリューはすぐ目の前のテーブルに積み上げるようにして並べられている薄い木で出来た栞を手に取った。
「これは…」
見覚えのある栞だった。薄い木に塗られた樹脂に埋め込まれた花。貴族達の使う栞というのは、貴族たちが好んで使う鼈甲や、柔らかいシルクのリボンを使うのが一般的だ。
活版印刷の新しい本は袋綴じのままなので、それを開くペーパーナイフを挟むことも多いが、金属製のものは紙を痛めるので一時的な栞に使う程度になる。
木の栞は市場では見たことがない。しかし、アンドリューはこの栞をよく知っていた。
「聖女様も昔はここによくいらしてたんですよ。確かこの本にまだ聖女様の栞が挟まってるはず…」
「あっ…おい…」
リューが本棚に手をかけたが、エリアスは何年も訪れていない聖女のことをその弟に話していいのか迷った。
「ほら、ありました。ご結婚されてからは中々森まではいらっしゃらないですけど…あの一番下のハンモックは聖女様がよくお昼寝してたんです。聞いたことありませんでした?」
リューは栞の裏側に彫られたシャーロットの文字を見せながらニコニコとアンドリューに話しかけた。
「本当にここに姉上が?」
シャーロットと刻まれた栞はやはり見覚えがあった。いや、正確に言えばその文字にも、この木の栞もだ。全てが自らが使っている栞と似ている。
「はい。私が子供の頃です。栞屋のおっちゃんとも仲が良くて、聖女様は本を全部盗まれた栞屋に、自分が読む本だと少しずつ本を置いて行ってくれました」
「ハンモックとはどう使う物だ?寝るのはわかるがこれでは動いて乗ることさえ出来ない」
アンドリューはリューの話のどこまでを聞いていたのか分からないほど、ハンモックと格闘している。
「低いものはお尻から乗ってそのまま力を抜いて寝るだけです」
リューが少しアドバイスをすれば、アンドリューはすぐにハンモックに横になった。
「これは快適だな…」
アンドリューはすぐに寝息を立て始め、狩りに行くために一緒に来ていた護衛たちは、そのうち外で剣を交じ合わせた。見晴らしのいい小屋は、監視がしやすい。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「エリアス、冒険書を増やそう」
アンドリューはすっかりハンモックの虜になり、窓を開けて風に当たりながら本を読み、そのまま眠ることが習慣化するようになった。
「お前…シャーロットとそっくりじゃねーか」
アンドリューと栞屋は、いつの間にか護衛騎士も驚くほど仲良くなっていた。その言葉を聞いて、アンドリューは静かに笑みを浮かべた。
1
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説
本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜
桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」
歓声が上がる。
今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。
私はどさくさに紛れてこの国から去る。
本当の聖女が私だということは誰も知らない。
元々、父と妹が始めたことだった。
私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。
家のもの以外は知らなかった。
しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」
「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」
私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。
そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。
マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。
現在、結婚パレードの最中だ。
この後、二人はお城で式を挙げる。
逃げるなら今だ。
※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。
すみません
婚約破棄された聖女なご令嬢はざまぁよりも滅びゆくこの国から一目散で逃げ出したい
きんのたまご
恋愛
この国の聖女で公爵令嬢のパメラリアは真実の愛を見つけた婚約者の第1皇子から婚約破棄された。
今までは婚約者がいたからこの滅びゆく国を一生懸命護っていたけれど…婚約破棄されたならもう私にこの国を護る義理は無い!
婚約破棄されたらざまぁしないと?そんな事知りません!私はこんな国からさっさと逃げ出します!
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
婚約破棄された悪役令嬢が聖女になってもおかしくはないでしょう?~えーと?誰が聖女に間違いないんでしたっけ?にやにや~
荷居人(にいと)
恋愛
「お前みたいなのが聖女なはずがない!お前とは婚約破棄だ!聖女は神の声を聞いたリアンに違いない!」
自信満々に言ってのけたこの国の王子様はまだ聖女が決まる一週間前に私と婚約破棄されました。リアンとやらをいじめたからと。
私は正しいことをしただけですから罪を認めるものですか。そう言っていたら檻に入れられて聖女が決まる神様からの認定式の日が過ぎれば処刑だなんて随分陛下が外交で不在だからとやりたい放題。
でもね、残念。私聖女に選ばれちゃいました。復縁なんてバカなこと許しませんからね?
最近の聖女婚約破棄ブームにのっかりました。
婚約破棄シリーズ記念すべき第一段!只今第五弾まで完結!婚約破棄シリーズは荷居人タグでまとめておりますので荷居人ファン様、荷居人ファンなりかけ様、荷居人ファン……かもしれない?様は是非シリーズ全て読んでいただければと思います!
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
家柄が悪いから婚約破棄? 辺境伯の娘だから芋臭い? 私を溺愛している騎士とお父様が怒りますよ?
西東友一
恋愛
ウォーリー辺境伯の娘ミシェルはとても優れた聖女だった。その噂がレオナルド王子の耳に入り、婚約することになった。遠路はるばる王都についてみれば、レオナルド王子から婚約破棄を言い渡されました。どうやら、王都にいる貴族たちから色々吹き込まれたみたいです。仕舞いにはそんな令嬢たちから「芋臭い」なんて言われてしまいました。
連れてきた護衛のアーサーが今にも剣を抜きそうになっていましたけれど、そんなことをしたらアーサーが処刑されてしまうので、私は買い物をして田舎に帰ることを決めました。
★★
恋愛小説コンテストに出す予定です。
タイトル含め、修正する可能性があります。
ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いいたします。
ネタバレ含むんですが、設定の順番をかえさせていただきました。設定にしおりをしてくださった200名を超える皆様、本当にごめんなさい。お手数おかけしますが、引き続きお読みください。
不幸な君に幸福を 〜聖女だと名乗る女のせいで「悪役聖女」と呼ばれていますが、新しい婚約者は溺愛してくださいます!〜
月橋りら
恋愛
「この偽聖女!お前とは婚約破棄だ!」
婚約者である第二王子から婚約破棄を告げられたとき、彼の隣にいたのは「自称」聖女のリリアーナだった。
それから私の評判は、「悪役聖女」。
それから、聖女詐称の罪で国外追放されそうになったが、止めてくれたのはーー。
*この小説は、エブリスタ様でも同時連載しております。
カクヨム様でも連載いたしますが、公開は10月12日を予定しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる