上 下
19 / 45

聖女、初めての街

しおりを挟む
 オルレリアン家のアン様と初めて会ってから三年が経ちました。オルレリアン家に招待されたり、神殿に招待したり、今ではとても仲良しです。
 七つ年上のアン様ですが、最初の印象とは違いとても自由な方です。そう言った意味では、ユリエルの兄であるオスカー様も自由な方ですが、恐らくアン様には負けるのではないかと思います。


「いいですか?制服を脱いでも騎士の心は捨てることなかれ!聖女様の行くところに騎士が行くのです!」


「ハッ!我らの聖女様を命懸けでお守りいたします!」



 アン様の一声で、今日は街に出ることになりました。私は初めての街にドキドキしています。私はマントを被っても聖女とバレてしまうのですが、マントは必要だと被せられました。騎士達も大勢揃いましたが、皆騎士服を着ていません。


 私は、昨年の二十歳の誕生日に合わせて帝教王となりました。国王、教王、帝教王となり、大陸全ての指揮権が私に与えられています。大昔の歴史書に載っていた聖女が嫁いだ国の王も大陸の長となったと書いてあったので、自然の摂理だったのかもしれません。加護というのは平和に不可欠だったのでしょう。


 「夫人ではなく、アンと呼んでください」と言われたので、アン様と呼んでいます。特別な名前を呼ぶ許可をもらえるのはとても嬉しいことでした。パーティは楽しそうな様子を見ているのがお仕事だと思っていましたが、挨拶を終えたらお仕事ではないことをアン様と仲良くなってから知りました。半分仕事で半分は仕事ではないのです。
 それをユリエルと二人で頭にハテナマークを付けながら話した日を思い出すと可笑しくなります。


「さぁ聖女様、まずはドレスを見に行きましょう。行商やデザイナーを呼ぶのもいいですが、やはり店舗に行くと新しい発見があるものです」

「アン様、私は緊張しています…」

「大丈夫です。平民からも聖女様だというのは一目瞭然ですけど、マントを被っていれば、お忍びだと察してくれます。王都の街というのはそういうものなのです」


 アン様は冬に領地に帰っている間に、春になったら街へ買い物に行こうと手紙に書いてくれたことを実行してくれたのです。


「さぁ、馬車にお乗りください」

「神殿の馬車以外に乗るのは初めでです…」

「あ、ユリエル様はお休みなのですよね?お楽しみくださいね。聖女様のエスコートは私にお任せください。さぁ、行きましょう聖女様」


 ユリエルを置いて馬車に乗るのも初めてでした。馬車に乗る時は、騎士団長とユリエルと三人で乗るのがルールだったからです。


「オルレリアン夫人、私のことをお忘れなのですか?エスコートはお任せください」

「あら、ルーファス団長。ではお言葉に甘えますわ」


 騎士団長は私の手を取って馬車に乗せた後、アン様の手を取りました。いよいよ街に出発するのです。


「暖かくなって花も綺麗に色付いていますね」

「はい。でも神殿では冬に咲く花を多く植えているので、冬も花は咲いていますよ?」

「そうなのですか?侯爵領は冬は雪が積もりますから羨ましい限りですわ」

 雪というのは王都でも降りますが、薄らと白く染まるのは数年に一度程度です。侯爵領はたくさんの雪が降るので、冬は布を折ったり、藁を編んだり、家で出来る仕事を平民はしているらしいです。手仕事が盛んな街にはそんな理由があったのだと、勉強になります。


 ドレスショップというのはパーティホールのようでした。たくさんの色で埋められ、たくさんのものが売っています。


「これはなんでしょうか?」

「これは胸当てですね。ドレスのパーツの一部です。取り外して違うものを付ければ同じドレスでも雰囲気を変えられます」

「なるほど」

「ゆっくり見てください!店の者に聞けば全て説明してくれますよ」


 神殿に来るデザイナーの人は、全てオーダーメイドなので、見たこともない品がたくさんありました。


「これは気に入りました。これを買います」

「あら、ご自分の物を探していたのかと思いました」

「ユリエルが最初に街に行った時にプレゼントをくれました。だから、私もユリエルにプレゼントをと思っていたのです」

「フフッ!聖女様はユリエル様が好きなのですね」

「好きです。騎士団長も好きですし、料理長も好きです。アン様ももちろん好きですよ」


 私はその日、いつの間にかたくさんの物を買っていました。部屋に戻って箱がたくさん置いてあったことにとてもびっくりしたほどです。


「聖女様、おかえりなさいませ。街はいかがでしたか?」

「とても楽しく、買いすぎてしまいました」

「それは良かったですね。どちらに行かれたのですか?」

「ドレスショップと、宝石店と、雑貨屋とレストランです」

「食事もされてきたのですか!?」

「はい。アン様と一緒に食べました。ちゃんと料理長の味でしたよ。きっと、作ったのは料理長です」


 料理長の顔は一度も見ることはありませんでしたが、料理長の味は分かります。それに、騎士団長が止めもせず案内したのですから、間違いありません。


「そうでしたか…私は何も聞いておりませんでした。確認しておきます」

「これは全部ユリエルへのプレゼントです。初めて見るものばかりだったので買いすぎてしまったのです…迷惑だったら他の人にあげてもいいですよ」

「全部ですか?」

「そうです。私もこんなに多いと思っていなかったのでビックリしています」

 ユリウスの部屋は何もないので、このまま持って行っても困ることは無いと思いますが、ユリエルの部屋には小さな衣装部屋しかありません。


「とても嬉しいです。誰かに差し上げることなんて出来るはずもありません。開けてもよろしいですか?」


 私は日が落ちるまでユリエルと買った物を一つ一つ開けていきました。そしてやっぱり、夜はユリエルと寝たいと思ったのです。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜

桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」 歓声が上がる。 今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。 私はどさくさに紛れてこの国から去る。 本当の聖女が私だということは誰も知らない。 元々、父と妹が始めたことだった。 私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。 家のもの以外は知らなかった。 しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」 「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」 私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。 そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。 マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。 現在、結婚パレードの最中だ。 この後、二人はお城で式を挙げる。 逃げるなら今だ。 ※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。 すみません

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女と言われた姉が堕ちていくまで

あんころもちです
恋愛
ダリア聖教王国の公爵長女のエリーは人々から聖女として慕われていた。 でも妹の私はローズはエリーはとんでもない悪女だと知っていた。

処理中です...