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特別な名前
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シャーロット。そう呼ぶのは、母といつか来る王子様だけの予定でした。婚約者が出来るまではそう思っていたけど、現実は甘くはありません。
「シャーロット、今日から俺が婚約者だ。よろしくな」
唐突に名前を呼ばれて愕然として、私はしばらく動くことができませんできた。私は名前を呼ぶことを許してもいないのに、特別な名前であるシャーロットと呼んだことが許せなかったのです。本に書いてありました。許可もないのに名前で呼ぶことは不躾で非常識な行為だと。
「彼が私の婚約者ですか?」
辺りを見渡して念の為本物の婚約者がいないか確認したが、それらしい人はいませんでした。彼が婚約者なのは嘘ではないのでしょう。
「何?文句があるのか?王子と婚約出来るのなんて凄いことなんだぞ」
王子というのは、本に出てくる特別な存在の王子様ではなく、国王の子供の王子という意味らしい。でも国王の子供はたくさんいるし、国はたくさんあるのだと知っています。だから彼が言うほど凄いこととは思えませんでした。
「神官、私は帰ります。手を繋いでください」
最近見習いから神官になった神官は、お仕事のために神殿に住むようになった私の世話をする係。朝から夜までずっと一緒にいるから信用ができます。神官にもシャーロットと呼ばれたことはないのに、本当に気分が悪いのです。
私の母と王子様だけが呼ぶことをできる名前だったのに、シャーロットという名前が嫌いになりそうでした。
「彼の態度はあまりいいものではありませんでしたね」
「私を名前で呼びました。とても失礼でした」
婚約者とは、将来結婚をする人だと言っていましたが、母は結婚は好きな人とするものだと言っていました。なら、私は彼が好きではないので結婚はしない。ということは、婚約者ではないと思います。
「それでも婚約者ですから、朝のお祈りだけはしてあげてください。お仕事ですから」
仕事だと言われれば、お祈りはしなければいけない。仕事というのは、生きていくためにしなければいけない人間の義務です。母は私が聖女だから仕事をしなくても生きていると言っていたので、私が聖女をやめたら、母は死んでしまうのです。
「お仕事はします」
父に会いに行くのが仕事になったように、嫌いな人に会いに行くのも仕事になりました。仕事は楽なことばかりではないと騎士も言っていたけど、本当にその通りで、聖女という仕事は楽しいことばかりではない。
「シャーロット!待てよ!」
「次にシャーロットと呼んだら呪いますよ。聖なる父は聖女が呪えば腐ると言っていました。腐りたくなければ名前を呼ばないでください」
本当は今すぐにでも呪ってしまいたいと思うほど、婚約者のいいところは見つかりませんでした。でも、婚約者は人を殺したわけでもなく、人を殴ったわけでもないので、毎日我慢しています。父は人を呪えば聖女も呪われると言っていました。自分を腐らせてまで婚約者を腐らせたいわけではないので、ただ、仕事をするだけです。
「聖女!チェスをしよう。トランプでもいいぞ」
ある時から、婚約者は普通の人になりました。挨拶をすれば挨拶をしてくれます。たまには遊びに誘われることもあります。シャーロットと呼ばれることもないので、私も普通に楽しいです。
「聖女!神殿まで送るよ。まだ話したいんだ」
いつの間にか、神官の手ではなく婚約者の手を取って歩くようになりました。彼もまた、私が心から祈りたい人に変わりつつありました。でも、それはほんの一瞬のことでした。
神官が神官長になり、神官の偉い人になったと理解した頃、再び婚約者に祈るのが嫌になりました。婚約者はとても分かりやすい人です。神官長は朝の祈りさえ行えば、婚約者のことは無視をしてもいいと言いました。仕事だけすればいいのはとても楽なことです。
婚約者が女性といるところは何度も見たことがあります。婚約者と一緒にお茶をしていたり、一緒のソファに座っているところも見たことがありました。やはり、結婚しない人と婚約者でいることはおかしなことです。それでも神官長は彼を婚約者だと言います。なので、私は父に頼むしかありませんでした。
「聖なる父よ、ただ一つの愛し子のお願いを聞いてください。婚約者との縁を切りたいのです」
私はその日、娘として父に会いに行ったのです。私は父が神だと知っていました。そして、私が婚約者より一足早く成人したことも知っていました。親離れには聖女というのは邪魔なものです。お仕事で会わなければなりませんから。
朝食を食べた後婚約者の部屋へ行くと、婚約者は朝の祈りはいらないといいました。そして、婚約も破棄するとはっきりと言ったのです。これほど父に感謝したことはありませんでした。朝のお祈りがなければ、お仕事はないのと一緒でした。
寂しいけど、父とはそろそろお別れの時です。最近は母ともたまにしか会っていません。私は成人したのですからそれも当たり前になっていくのです。母は少しだけ自分でお仕事を始めていました。だから私も、聖女を辞められるのです。
婚約破棄され、私は聖女を辞めることにしました。
「父よ、さよならです」
神殿に住むようになってから、父は私に会いにくるようになっていました。今でも会いに来ていますが、もう聖女ではないので無視しています。
父に会いに行く時だけが、父と会える時です。
祈って、助けて、笑って、私は私の大切な人たちと一緒に生きていきます。聖女じゃなくても祈れます。
そうして楽しく生きていれば、王子様はやってくるのです。白馬に乗った本物の王子様がいつかきっと私を迎えに来てくれるはずです。
神殿に帰らなくても怒る人はいません。神官長はたまにお小言を言うけれど、私を心配しているからです。神官長は私のスケジュール管理を続けています。私はいつの間にか国王になっていました。
王子だった人をたまに見かけますが、私の王子様ではありません。王子でもなくなったので、なんと呼べばいいのか分かりませんが、生きているのは良いことではないでしょうか。
まだみんなは私を聖女様と呼びます。でもそれでもいいのです。
今では聖女を強制されることはありませんし、聖女も私の名前の一つですから。
「シャーロット、今日から俺が婚約者だ。よろしくな」
唐突に名前を呼ばれて愕然として、私はしばらく動くことができませんできた。私は名前を呼ぶことを許してもいないのに、特別な名前であるシャーロットと呼んだことが許せなかったのです。本に書いてありました。許可もないのに名前で呼ぶことは不躾で非常識な行為だと。
「彼が私の婚約者ですか?」
辺りを見渡して念の為本物の婚約者がいないか確認したが、それらしい人はいませんでした。彼が婚約者なのは嘘ではないのでしょう。
「何?文句があるのか?王子と婚約出来るのなんて凄いことなんだぞ」
王子というのは、本に出てくる特別な存在の王子様ではなく、国王の子供の王子という意味らしい。でも国王の子供はたくさんいるし、国はたくさんあるのだと知っています。だから彼が言うほど凄いこととは思えませんでした。
「神官、私は帰ります。手を繋いでください」
最近見習いから神官になった神官は、お仕事のために神殿に住むようになった私の世話をする係。朝から夜までずっと一緒にいるから信用ができます。神官にもシャーロットと呼ばれたことはないのに、本当に気分が悪いのです。
私の母と王子様だけが呼ぶことをできる名前だったのに、シャーロットという名前が嫌いになりそうでした。
「彼の態度はあまりいいものではありませんでしたね」
「私を名前で呼びました。とても失礼でした」
婚約者とは、将来結婚をする人だと言っていましたが、母は結婚は好きな人とするものだと言っていました。なら、私は彼が好きではないので結婚はしない。ということは、婚約者ではないと思います。
「それでも婚約者ですから、朝のお祈りだけはしてあげてください。お仕事ですから」
仕事だと言われれば、お祈りはしなければいけない。仕事というのは、生きていくためにしなければいけない人間の義務です。母は私が聖女だから仕事をしなくても生きていると言っていたので、私が聖女をやめたら、母は死んでしまうのです。
「お仕事はします」
父に会いに行くのが仕事になったように、嫌いな人に会いに行くのも仕事になりました。仕事は楽なことばかりではないと騎士も言っていたけど、本当にその通りで、聖女という仕事は楽しいことばかりではない。
「シャーロット!待てよ!」
「次にシャーロットと呼んだら呪いますよ。聖なる父は聖女が呪えば腐ると言っていました。腐りたくなければ名前を呼ばないでください」
本当は今すぐにでも呪ってしまいたいと思うほど、婚約者のいいところは見つかりませんでした。でも、婚約者は人を殺したわけでもなく、人を殴ったわけでもないので、毎日我慢しています。父は人を呪えば聖女も呪われると言っていました。自分を腐らせてまで婚約者を腐らせたいわけではないので、ただ、仕事をするだけです。
「聖女!チェスをしよう。トランプでもいいぞ」
ある時から、婚約者は普通の人になりました。挨拶をすれば挨拶をしてくれます。たまには遊びに誘われることもあります。シャーロットと呼ばれることもないので、私も普通に楽しいです。
「聖女!神殿まで送るよ。まだ話したいんだ」
いつの間にか、神官の手ではなく婚約者の手を取って歩くようになりました。彼もまた、私が心から祈りたい人に変わりつつありました。でも、それはほんの一瞬のことでした。
神官が神官長になり、神官の偉い人になったと理解した頃、再び婚約者に祈るのが嫌になりました。婚約者はとても分かりやすい人です。神官長は朝の祈りさえ行えば、婚約者のことは無視をしてもいいと言いました。仕事だけすればいいのはとても楽なことです。
婚約者が女性といるところは何度も見たことがあります。婚約者と一緒にお茶をしていたり、一緒のソファに座っているところも見たことがありました。やはり、結婚しない人と婚約者でいることはおかしなことです。それでも神官長は彼を婚約者だと言います。なので、私は父に頼むしかありませんでした。
「聖なる父よ、ただ一つの愛し子のお願いを聞いてください。婚約者との縁を切りたいのです」
私はその日、娘として父に会いに行ったのです。私は父が神だと知っていました。そして、私が婚約者より一足早く成人したことも知っていました。親離れには聖女というのは邪魔なものです。お仕事で会わなければなりませんから。
朝食を食べた後婚約者の部屋へ行くと、婚約者は朝の祈りはいらないといいました。そして、婚約も破棄するとはっきりと言ったのです。これほど父に感謝したことはありませんでした。朝のお祈りがなければ、お仕事はないのと一緒でした。
寂しいけど、父とはそろそろお別れの時です。最近は母ともたまにしか会っていません。私は成人したのですからそれも当たり前になっていくのです。母は少しだけ自分でお仕事を始めていました。だから私も、聖女を辞められるのです。
婚約破棄され、私は聖女を辞めることにしました。
「父よ、さよならです」
神殿に住むようになってから、父は私に会いにくるようになっていました。今でも会いに来ていますが、もう聖女ではないので無視しています。
父に会いに行く時だけが、父と会える時です。
祈って、助けて、笑って、私は私の大切な人たちと一緒に生きていきます。聖女じゃなくても祈れます。
そうして楽しく生きていれば、王子様はやってくるのです。白馬に乗った本物の王子様がいつかきっと私を迎えに来てくれるはずです。
神殿に帰らなくても怒る人はいません。神官長はたまにお小言を言うけれど、私を心配しているからです。神官長は私のスケジュール管理を続けています。私はいつの間にか国王になっていました。
王子だった人をたまに見かけますが、私の王子様ではありません。王子でもなくなったので、なんと呼べばいいのか分かりませんが、生きているのは良いことではないでしょうか。
まだみんなは私を聖女様と呼びます。でもそれでもいいのです。
今では聖女を強制されることはありませんし、聖女も私の名前の一つですから。
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