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聖女と母と父
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私の母は教会でのびのびと過ごしています。
毎日何をしているかは分からないけど、お酒も好きだしギャンブルも好き。夜に部屋に帰ってこないことも多いけど、私を愛していないわけじゃないはずです。
「シャーロット!あぁマイスウィートベイビー、どこに行っていたの?」
「散歩。騎士が肩車してくれるの」
夕方まで寝ている母はあまり役には立たないが、幸せそうな寝顔を見ているのは好きだった。お酒くさいとは思うけど、たまになら隣で一緒に寝るのも好き。
「騎士ー!母倒れた!たいへん!」
私は台をよじ登って窓を開けていつも立っている騎士に向かって叫ぶ。家の前に立っている人はみんないい人で、ご飯もくれるしオヤツもくれるし遊びにだって連れて行ってくれるのです。声をかけたら絶対に助けてくれる自信がありました。
「すぐに行きます!」
教会の敷地内に建てられた私の家は、覚えきれないくらい多くの人がいる。騎士に班長、騎士団長、神官、助祭、司祭、枢機卿、よく分からないけど同じ名前の人も多くてたまに困ります。
母と騎士団長みたいに分かりやすい名前を付けたらいいと思うのです。でもそれは、名前をつけた人に失礼だから決して声には出しません。
「フレイヤ様はどうなさったのですか?あ、母様のことです」
「母様は…マット滑って牛乳をこぼした後、階段から落ちた」
フレイヤ様というのが、母のもう一つの名前です。私にも聖女以外に秘密の名前があります。シャーロットと私を呼ぶのは母しかいないから、きっと母がつけた名前で、マイスウィートベイビーというのもきっと母がつけた名前。
本で読んだ限りでは、許しがでたら内緒の名前を呼んでもいいらしい。だから私は母を母としか呼ばないし、誰も私をシャーロットとは呼ばない。それでもいつか、私だけの王子様が迎えに来たら内緒の名前を教えてあげるのです。「シャーロットって呼んで」って。それがロマンチックなんだって書いてありました。
母は足を骨折して、治療院に暫く住むことになって、私は一人で家で過ごすことになりました。でも平気。ご飯も騎士が持って来てくれるし、お風呂は夜に侍女が入れてくれます。髪の毛だって洗ってくれてとても気持ちがいいのです。
「侍女ー!神殿まで連れて行って欲しい」
「それならば騎士も一緒について来てもらいましょう」
教会の裏の階段をたくさん登らなければ神殿には辿り着くことはできません。侍女に抱っこしてもらうか、騎士に肩車してもらうのがたどり着く方法です。そうすると、信者の人が飴もくれるし「可愛いね」って褒めてくれます。
「聖なる父、いつか父に会いたいです」
私のお祈りはいつも同じ。母は父のことは好きではないので、ゴミ箱に捨ててしまったらしい。だけど、父は案外いい人だと思います。会いに来れば優しく挨拶してくれます。ただ、母にゴミ箱に捨てられてしまったから会うことは出来ないのです。ゴミ箱に捨ててしまったら、すぐに拾わないと二度と戻ってはきません。
「私の愛しい娘、いつか会いに行くからね」
父はいつも抱きしめてくれる。姿は見えないけど、抱きしめられていることは分かります。たまに髪の毛をピンッと引っ張ったりするところが母から嫌われた原因だと思うのです。
「母、怪我して心配だから暫く父のところにはこない。母は私がいないとベッドで寝ない」
「ならば、祈るといい。お前が祈れば母は治る」
父の言った通りに祈ったら、母はすぐに元気になりました。相変わらずお酒は飲むし、たまに帰ってこないこともあるけど、またずっと同じ家で暮らせるようになりました。
「私はほんのちょこっと母が好き。母はちょこっといい人」
「あぁベイビー、私はシャーロットがこの世で1番好き。お酒よりずっとずっとよ」
母に抱かれて眠る夜は気持ちが良かった。父がいればきっともっと気持ちがいいけど、母が父を嫌いなら仕方がないことです。
「父、いつか会いに来るって言ってた。会いに来たら部屋に入れるべきか、キッチンに入れるべきか悩む」
「父は家に入れなくてもいい。あんな男…でもそうね、シャーロットが聖女なのは感謝すべきかしら、当然と言えば当然だけど…まぁお茶くらいは出してもいいわよ」
「なら、キッチンに入れることにする」
母に祈りを捧げた後、私は仕事をするようになりました。私が仕事をしないとみんなが怪我をしてしまうらしい。優しい信者達が暴れてしまうかもしれないと言っていたからとても大変なことになります。
お仕事といっても、父のところへ行きいつもの祈りと似ていて、国の為に祈ればいいだけです。それから午後になったら教会に行って信者に祈ります。それが聖女のお仕事だといっていました。
「聖なる父よ、みんなが笑って過ごせますようにお見守りください」
「愛しい娘が望むのなら叶えよう。他にはないのか?」
「お仕事なので他にはないです。明日は雨が降るように祈ります」
「そうか…今日は雨も降らせて笑顔にもしよう。だから明日も他に何がいいか考えてきておくれ…父は寂しい」
「お仕事だから別のことがないか聞いてみます」
聖女が神殿から下る時、目の前には大きな虹が三つも掛かっていた。
「父は結構サービス屋さんです。だから結構好き」
こうして私は仕事を始めました。ただ、お仕事なので私は指示に従わなくてはならないのです。
朝は早いけどお仕事は結構楽しいし、馬車に乗ればたくさんの信者に会えます。孤児院では信者の名前もたくさん聞きました。ロビーにポピーにマークにランダ。名前を呼んでいいと言われたのは初めてで嬉しかったのです。それでも私の名前は秘密にしています。特別な王子様だけに教えるって決めているのです。
毎日何をしているかは分からないけど、お酒も好きだしギャンブルも好き。夜に部屋に帰ってこないことも多いけど、私を愛していないわけじゃないはずです。
「シャーロット!あぁマイスウィートベイビー、どこに行っていたの?」
「散歩。騎士が肩車してくれるの」
夕方まで寝ている母はあまり役には立たないが、幸せそうな寝顔を見ているのは好きだった。お酒くさいとは思うけど、たまになら隣で一緒に寝るのも好き。
「騎士ー!母倒れた!たいへん!」
私は台をよじ登って窓を開けていつも立っている騎士に向かって叫ぶ。家の前に立っている人はみんないい人で、ご飯もくれるしオヤツもくれるし遊びにだって連れて行ってくれるのです。声をかけたら絶対に助けてくれる自信がありました。
「すぐに行きます!」
教会の敷地内に建てられた私の家は、覚えきれないくらい多くの人がいる。騎士に班長、騎士団長、神官、助祭、司祭、枢機卿、よく分からないけど同じ名前の人も多くてたまに困ります。
母と騎士団長みたいに分かりやすい名前を付けたらいいと思うのです。でもそれは、名前をつけた人に失礼だから決して声には出しません。
「フレイヤ様はどうなさったのですか?あ、母様のことです」
「母様は…マット滑って牛乳をこぼした後、階段から落ちた」
フレイヤ様というのが、母のもう一つの名前です。私にも聖女以外に秘密の名前があります。シャーロットと私を呼ぶのは母しかいないから、きっと母がつけた名前で、マイスウィートベイビーというのもきっと母がつけた名前。
本で読んだ限りでは、許しがでたら内緒の名前を呼んでもいいらしい。だから私は母を母としか呼ばないし、誰も私をシャーロットとは呼ばない。それでもいつか、私だけの王子様が迎えに来たら内緒の名前を教えてあげるのです。「シャーロットって呼んで」って。それがロマンチックなんだって書いてありました。
母は足を骨折して、治療院に暫く住むことになって、私は一人で家で過ごすことになりました。でも平気。ご飯も騎士が持って来てくれるし、お風呂は夜に侍女が入れてくれます。髪の毛だって洗ってくれてとても気持ちがいいのです。
「侍女ー!神殿まで連れて行って欲しい」
「それならば騎士も一緒について来てもらいましょう」
教会の裏の階段をたくさん登らなければ神殿には辿り着くことはできません。侍女に抱っこしてもらうか、騎士に肩車してもらうのがたどり着く方法です。そうすると、信者の人が飴もくれるし「可愛いね」って褒めてくれます。
「聖なる父、いつか父に会いたいです」
私のお祈りはいつも同じ。母は父のことは好きではないので、ゴミ箱に捨ててしまったらしい。だけど、父は案外いい人だと思います。会いに来れば優しく挨拶してくれます。ただ、母にゴミ箱に捨てられてしまったから会うことは出来ないのです。ゴミ箱に捨ててしまったら、すぐに拾わないと二度と戻ってはきません。
「私の愛しい娘、いつか会いに行くからね」
父はいつも抱きしめてくれる。姿は見えないけど、抱きしめられていることは分かります。たまに髪の毛をピンッと引っ張ったりするところが母から嫌われた原因だと思うのです。
「母、怪我して心配だから暫く父のところにはこない。母は私がいないとベッドで寝ない」
「ならば、祈るといい。お前が祈れば母は治る」
父の言った通りに祈ったら、母はすぐに元気になりました。相変わらずお酒は飲むし、たまに帰ってこないこともあるけど、またずっと同じ家で暮らせるようになりました。
「私はほんのちょこっと母が好き。母はちょこっといい人」
「あぁベイビー、私はシャーロットがこの世で1番好き。お酒よりずっとずっとよ」
母に抱かれて眠る夜は気持ちが良かった。父がいればきっともっと気持ちがいいけど、母が父を嫌いなら仕方がないことです。
「父、いつか会いに来るって言ってた。会いに来たら部屋に入れるべきか、キッチンに入れるべきか悩む」
「父は家に入れなくてもいい。あんな男…でもそうね、シャーロットが聖女なのは感謝すべきかしら、当然と言えば当然だけど…まぁお茶くらいは出してもいいわよ」
「なら、キッチンに入れることにする」
母に祈りを捧げた後、私は仕事をするようになりました。私が仕事をしないとみんなが怪我をしてしまうらしい。優しい信者達が暴れてしまうかもしれないと言っていたからとても大変なことになります。
お仕事といっても、父のところへ行きいつもの祈りと似ていて、国の為に祈ればいいだけです。それから午後になったら教会に行って信者に祈ります。それが聖女のお仕事だといっていました。
「聖なる父よ、みんなが笑って過ごせますようにお見守りください」
「愛しい娘が望むのなら叶えよう。他にはないのか?」
「お仕事なので他にはないです。明日は雨が降るように祈ります」
「そうか…今日は雨も降らせて笑顔にもしよう。だから明日も他に何がいいか考えてきておくれ…父は寂しい」
「お仕事だから別のことがないか聞いてみます」
聖女が神殿から下る時、目の前には大きな虹が三つも掛かっていた。
「父は結構サービス屋さんです。だから結構好き」
こうして私は仕事を始めました。ただ、お仕事なので私は指示に従わなくてはならないのです。
朝は早いけどお仕事は結構楽しいし、馬車に乗ればたくさんの信者に会えます。孤児院では信者の名前もたくさん聞きました。ロビーにポピーにマークにランダ。名前を呼んでいいと言われたのは初めてで嬉しかったのです。それでも私の名前は秘密にしています。特別な王子様だけに教えるって決めているのです。
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