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「リーリエ、婚約を破棄させてほしい」


今朝、街の孤児院に視察に行く前に、態々私の家にまで来て愛を囁いてから出かけていった私の婚約者であるリーバスが、何でもないことかのようにするりと婚約破棄を申し出た。


「え?婚約破棄!?本気!?」


単語でしか話せなくなっても仕方のない事態だろう。
この結婚は、伯爵家である彼の家の方から縁談を持ちかけてきて、ただの子爵令嬢だった私は、父親に何か聞かれる事もなく、家の判断で婚約を了承することになったが、彼は私に対してとても甘く愛を囁いてくれる人だったし、私にべったりとくっついて、恥ずかしいことに、あまりの溺愛に学園でも有名になる程だったのだ。


「あぁ。リーリエには悪いけど、私は運命と出逢ってしまったのだ」


そう言われれば、私も仕方ないと折れるしかなかった。
だって、彼にとって私への愛は一日考える必要も無いほど薄っぺらいものだったのだから。


慰謝料をもらって持参金を積めば、嫁にもらってくれるところもあるだろう。
そう思って了承したのだが、リーバスは婚約破棄の話が進む中、翌日に前触れもなく家にやって来た。


「リーバス様が何故か今日もいらっしゃいました」


うちのメイドも驚く行動だった。


「君に紹介したい人がいてね」


ーーまさか、運命とやらを連れてきたのではあるまいな??


あまりに滑稽に思って、それはそれで見てみたいものだと、連れてくることを了承したのだが、彼が連れてきたのは、どこからどう見ても男性だった。
背はスラリと高いし、身なりからしても平民ではなく貴族だろう。


ーーなるほど、性別を超えた運命とは恐れ入ったわ。


常識外のお相手だから、運命だと!!そう解釈すれば、婚約破棄も納得がいった。
それは仕方がないのかもしれない。
私への薄っぺらい愛なんか風で吹き飛んで、性別の壁もあっさりと超えてしまうような躍動的な愛が芽生えてしまったなら、もうそれは婚約破棄を言い出すことも仕方がなかったのだろう。


「彼は?」


私も性別の壁さえも超えてこれからの苦難を乗り越えていこうとしている2人を攻撃する気にはなれなかった。
しらばっくれて、彼を紹介させる。


「興味を持った?彼はシーセル・マーカー卿。僕の秘書官になったダンネル伯爵の息子さ」


新人の秘書官と出掛けた先で、芽生えた恋…
なるほど。興味はあります。


そうしてお茶まで出して歓迎してしまったのだが、それは間違いだった。
リーバスはなんと、婚約破棄をする私の新しい婚約者にどうかとシーセル・マーサーを差し出してきて、慰謝料の減額を求めたのだ。

シーセル・マーサーは、同じアカデミーの騎士科トップ成績の将来期待されている男だった。
しかし、彼の大ファンが親友にいるため、婚約だなんて了承出来るわけがなかった。
もちろん子爵家はあらゆる手を使って抗議し、世間の味方もつけた。


アホな事に、リーバスの言う運命の相手というのは隣国の次期女王が内定している姫だった。
もちろん彼はコテンパンにふられ、世間から大バッシングをされ、伯爵家としてのメンツを保つ為に多額の慰謝料を払う事になった伯爵家は、領地の郊外にリーバスを引っ込ませる事にした。



世間のほとぼりが覚めた頃に結婚させるつもりなのだろうが、婚約破棄と隣国の姫にフラれたことが公に知られてしまい、多額の慰謝料を払う事になり財政的にも不安定になってしまった伯爵家に良い縁が都合よく訪れるなんてことは難しいだろう。


一方、リーリエも困惑していた。


「そろそろ、諦めて結婚したら?」


いくつもの騎士団から勧誘を受けると言われるシーセル・マーサー卿は、伯爵家の秘書になる事を選んだ変わり者だとリーリエは思っていたのだが、リーバスとの婚約破棄後、すぐに伯爵家の秘書を辞退して、熱心にリーリエを口説いている。


シーセル・マーサー卿を見たいが為に留学までしてきたリーリエの友人は、てっきりシーセルにガチ恋勢だと思っていたのだが、早く彼と結婚しろと圧力すらかけてくるのである。


「うぅっ…ちょっと暫く一人旅して考えてくるわ」


そうしてアカデミー卒業後に侍女と護衛付きのプチ旅行に出たのだが……



「ええっ!?そこまでして付いてきたの!?」


旅先でシーセル・マーサー卿の熱烈な求婚を受けてしまう。


え?結婚?したくないから旅に出たんですけど!?
そんなリーリエが絆されちゃうお話。
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