5 / 16
ご遠慮いたします
しおりを挟む
頭は冷えてもすぐに沸騰するものだ。
今しがたリーバスの発した言葉が、私はこんな男が好きだったのかと震えさせる。
「何とおっしゃって?」
よく母が失礼なことを言われた時に良く言うセリフが、ポロリと口から滑り落ちた。
母の場合は眼光鋭く睨むのだが、私の場合はポロリと出てしまっただけなので、怒りを沈める為に目を瞑ってしまっていた。
「だからね、君がシーセルと結婚すれば、婚約破棄しても損失はないだろう?慰謝料も少なくて済む。彼も構わないと言っているし、君も縁談に困ることもなくなる。私も安心してアイリスと一緒になれる」
このシーセルという男、婚約破棄を言い渡した婚約者に運命の人を見つけて欲しいとほざいていたのに、結局は金の心配をしてここに来たのだ。そうに違いない。
金で解決しようとしてあげたのに、金すらも渋る最低野郎だ。
閃光の花と呼ばれる貴公子が、同じ伯爵家、いや辺境伯ともなれば侯爵と同等と言ってもいい、それなのにアカデミー卒業前に何故秘書官として入ることになったのかは不思議だが、彼も相当頭がおかしいのだろう。
他のどの道に進んでも安泰だったかもしれないが、選んだ道は最低だったのだ。
それも彼の選んだ道だ。私の口出すところじゃない。
運命の人かと思ってお茶まで出したのにこの結果か。
「謹んでご辞退いたします」
馬鹿にするにも程がある。
何故許されると思うのか。
明日の朝刊でこの仕打ちを公表してやる!
「え?シーセルは気に入らなかった?」
「え?と申されましても、運命の相手は自分で見つけますので、推薦なさるのはご遠慮くださいませ」
お茶菓子まで用意しなかったことは幸いした。
こちらも別に歓迎して彼らにここに座ってもらっているわけではない。
「失礼する」
ノックもせずにこの部屋に入って来られる者は一人しかいない。
この家の当主である父が帰ったのだ。
あぁ助かった。
父はすぐに彼らを追い払った。
「この野郎、よく抜け抜けとこの家の門をくぐれたな」
そう言い放ってポポポイッと玄関に投げ捨てた父に拍手を送りたい。
途中剣を抜きそうになったシーセルに、「お前、その剣を抜いたら、テンサー家は王都から締め出されるぞ」と脅して剣をしまわせたのだ。その見事な追い出しっぷりに、侍従達からも主人を称賛する声が上がった。
「ふん。俺の娘に婚約破棄をしておいて、秘書官を当てがおうとするなんてふざけるにも限度がある。今日の件も正式に抗議するぞ。お前もお前だ。あの野郎にお茶を出すなんてとんでもない。次はどんだけ騒いでも門を通れることはない。お前も覚えておきなさい!」
もう一度父はフンッと鼻息を荒くしながら仕事へと戻っていった。
そんな様子を見て、可愛い弟は父に似ませんようにと願う。
何故私まで怒るのよ…
「セシル、今日のことを新聞社に連絡して記事にしてもらって。慰謝料倍は貰わないと気が済まないわ」
「かしこまりました。ですが、お嬢様が彼ら二人を秘密の恋人同士かと思って、喜んでお茶を出したなんて記事、お嬢様にもダメージが大きくありませんか?」
「何言ってるの!そこだけは黙っておきなさい!」
セシルは裏家業を担当するために雇われたが、女性ということで普段は私専属の侍女として紛れている。
少し普通と違う考え方なのは、価値観を普通のところに置いていないからだ。
「殺しもやれば、盗みもやります!得意なことは闇に紛れることです」
そう言い放って採用された彼女は、父は偉く気に入っているので、そちらの仕事の成果は認められているのだろう。
だから、新聞に記事をたれ込むのもお茶の子さいさいのはずなのだ。
「あ、やっぱり、記事の内容は父と相談して決めてくれる?」
「お嬢様、私のことまだ信用していませんね?」
信用はしている。でも心配なものは心配なのよ。
今しがたリーバスの発した言葉が、私はこんな男が好きだったのかと震えさせる。
「何とおっしゃって?」
よく母が失礼なことを言われた時に良く言うセリフが、ポロリと口から滑り落ちた。
母の場合は眼光鋭く睨むのだが、私の場合はポロリと出てしまっただけなので、怒りを沈める為に目を瞑ってしまっていた。
「だからね、君がシーセルと結婚すれば、婚約破棄しても損失はないだろう?慰謝料も少なくて済む。彼も構わないと言っているし、君も縁談に困ることもなくなる。私も安心してアイリスと一緒になれる」
このシーセルという男、婚約破棄を言い渡した婚約者に運命の人を見つけて欲しいとほざいていたのに、結局は金の心配をしてここに来たのだ。そうに違いない。
金で解決しようとしてあげたのに、金すらも渋る最低野郎だ。
閃光の花と呼ばれる貴公子が、同じ伯爵家、いや辺境伯ともなれば侯爵と同等と言ってもいい、それなのにアカデミー卒業前に何故秘書官として入ることになったのかは不思議だが、彼も相当頭がおかしいのだろう。
他のどの道に進んでも安泰だったかもしれないが、選んだ道は最低だったのだ。
それも彼の選んだ道だ。私の口出すところじゃない。
運命の人かと思ってお茶まで出したのにこの結果か。
「謹んでご辞退いたします」
馬鹿にするにも程がある。
何故許されると思うのか。
明日の朝刊でこの仕打ちを公表してやる!
「え?シーセルは気に入らなかった?」
「え?と申されましても、運命の相手は自分で見つけますので、推薦なさるのはご遠慮くださいませ」
お茶菓子まで用意しなかったことは幸いした。
こちらも別に歓迎して彼らにここに座ってもらっているわけではない。
「失礼する」
ノックもせずにこの部屋に入って来られる者は一人しかいない。
この家の当主である父が帰ったのだ。
あぁ助かった。
父はすぐに彼らを追い払った。
「この野郎、よく抜け抜けとこの家の門をくぐれたな」
そう言い放ってポポポイッと玄関に投げ捨てた父に拍手を送りたい。
途中剣を抜きそうになったシーセルに、「お前、その剣を抜いたら、テンサー家は王都から締め出されるぞ」と脅して剣をしまわせたのだ。その見事な追い出しっぷりに、侍従達からも主人を称賛する声が上がった。
「ふん。俺の娘に婚約破棄をしておいて、秘書官を当てがおうとするなんてふざけるにも限度がある。今日の件も正式に抗議するぞ。お前もお前だ。あの野郎にお茶を出すなんてとんでもない。次はどんだけ騒いでも門を通れることはない。お前も覚えておきなさい!」
もう一度父はフンッと鼻息を荒くしながら仕事へと戻っていった。
そんな様子を見て、可愛い弟は父に似ませんようにと願う。
何故私まで怒るのよ…
「セシル、今日のことを新聞社に連絡して記事にしてもらって。慰謝料倍は貰わないと気が済まないわ」
「かしこまりました。ですが、お嬢様が彼ら二人を秘密の恋人同士かと思って、喜んでお茶を出したなんて記事、お嬢様にもダメージが大きくありませんか?」
「何言ってるの!そこだけは黙っておきなさい!」
セシルは裏家業を担当するために雇われたが、女性ということで普段は私専属の侍女として紛れている。
少し普通と違う考え方なのは、価値観を普通のところに置いていないからだ。
「殺しもやれば、盗みもやります!得意なことは闇に紛れることです」
そう言い放って採用された彼女は、父は偉く気に入っているので、そちらの仕事の成果は認められているのだろう。
だから、新聞に記事をたれ込むのもお茶の子さいさいのはずなのだ。
「あ、やっぱり、記事の内容は父と相談して決めてくれる?」
「お嬢様、私のことまだ信用していませんね?」
信用はしている。でも心配なものは心配なのよ。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる