婚約破棄されたのに、運命の相手を紹介されました

佐原香奈

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ご遠慮いたします

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頭は冷えてもすぐに沸騰するものだ。


今しがたリーバスの発した言葉が、私はこんな男が好きだったのかと震えさせる。


「何とおっしゃって?」


よく母が失礼なことを言われた時に良く言うセリフが、ポロリと口から滑り落ちた。
母の場合は眼光鋭く睨むのだが、私の場合はポロリと出てしまっただけなので、怒りを沈める為に目を瞑ってしまっていた。


「だからね、君がシーセルと結婚すれば、婚約破棄しても損失はないだろう?慰謝料も少なくて済む。彼も構わないと言っているし、君も縁談に困ることもなくなる。私も安心してアイリスと一緒になれる」


このシーセルという男、婚約破棄を言い渡した婚約者に運命の人を見つけて欲しいとほざいていたのに、結局は金の心配をしてここに来たのだ。そうに違いない。
金で解決しようとしてあげたのに、金すらも渋る最低野郎だ。



閃光の花と呼ばれる貴公子が、同じ伯爵家、いや辺境伯ともなれば侯爵と同等と言ってもいい、それなのにアカデミー卒業前に何故秘書官として入ることになったのかは不思議だが、彼も相当頭がおかしいのだろう。


他のどの道に進んでも安泰だったかもしれないが、選んだ道は最低だったのだ。
それも彼の選んだ道だ。私の口出すところじゃない。
運命の人かと思ってお茶まで出したのにこの結果か。


「謹んでご辞退いたします」


馬鹿にするにも程がある。
何故許されると思うのか。
明日の朝刊でこの仕打ちを公表してやる!


「え?シーセルは気に入らなかった?」


「え?と申されましても、運命の相手は自分で見つけますので、推薦なさるのはご遠慮くださいませ」


お茶菓子まで用意しなかったことは幸いした。
こちらも別に歓迎して彼らにここに座ってもらっているわけではない。


「失礼する」


ノックもせずにこの部屋に入って来られる者は一人しかいない。
この家の当主である父が帰ったのだ。
あぁ助かった。


父はすぐに彼らを追い払った。


「この野郎、よく抜け抜けとこの家の門をくぐれたな」


そう言い放ってポポポイッと玄関に投げ捨てた父に拍手を送りたい。

途中剣を抜きそうになったシーセルに、「お前、その剣を抜いたら、テンサー家は王都から締め出されるぞ」と脅して剣をしまわせたのだ。その見事な追い出しっぷりに、侍従達からも主人を称賛する声が上がった。


「ふん。俺の娘に婚約破棄をしておいて、秘書官を当てがおうとするなんてふざけるにも限度がある。今日の件も正式に抗議するぞ。お前もお前だ。あの野郎にお茶を出すなんてとんでもない。次はどんだけ騒いでも門を通れることはない。お前も覚えておきなさい!」



もう一度父はフンッと鼻息を荒くしながら仕事へと戻っていった。
そんな様子を見て、可愛い弟は父に似ませんようにと願う。
何故私まで怒るのよ…



「セシル、今日のことを新聞社に連絡して記事にしてもらって。慰謝料倍は貰わないと気が済まないわ」

「かしこまりました。ですが、お嬢様が彼ら二人を秘密の恋人同士かと思って、喜んでお茶を出したなんて記事、お嬢様にもダメージが大きくありませんか?」


「何言ってるの!そこだけは黙っておきなさい!」


セシルは裏家業を担当するために雇われたが、女性ということで普段は私専属の侍女として紛れている。
少し普通と違う考え方なのは、価値観を普通のところに置いていないからだ。


「殺しもやれば、盗みもやります!得意なことは闇に紛れることです」


そう言い放って採用された彼女は、父は偉く気に入っているので、そちらの仕事の成果は認められているのだろう。

だから、新聞に記事をたれ込むのもお茶の子さいさいのはずなのだ。



「あ、やっぱり、記事の内容は父と相談して決めてくれる?」

「お嬢様、私のことまだ信用していませんね?」


信用はしている。でも心配なものは心配なのよ。


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