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公爵の結婚

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デリックに詰め寄った次の日には荷物の整理を始めた。

デリックが昨日すぐに情報屋の元へ向かったのは既に情報が入っていた。
これで娼館の女が皇帝側の情報屋の一人だということもわかり、デリックの情報源に当たりを付けることが出来た。

今日も昼前に突如として出掛けたので、いくつかの情報屋を回っているのかもしれない。また報告が来るだろう。


今日は領地について報告が上がってくる予定だったため屋敷にいるつもりだったが、デリックの慌てたように情報を得に出掛ける予想外の動きをしたため、こちらも早く動くことにした。
デリックは敵ではないだろうし、皇帝陛下も敵ではないだろう。
ここに滞在出来ているのは好意の裏付けでもあるのだから心配はしていない。


アガトンが隣の領地にいるのが偶然ではないとしたら、会いに来ない理由はなんだろうか。
公式な発表もないままゴードランの責任者にいる理由に、自分が関係しているのではないかと思うと、居ても立ってもいられず、デリックには内緒でゴードランに向かうことにした。


デリックには代わりに報告の処理に追われてもらうつもりだ。
ちょうどいい仕返しだろう。


「お父様、失礼しますね」


荷物を馬車に運んでもらう間に、ハリエットはコーネルの寝室に足を向けた。
貴族の家らしく警備にも予算を当てられるようになったため、コーネルの寝室の前で護衛にドアを開けてもらった。



「あぁ、ハリエット。屋敷のことで苦労をかけてすまないね」


昨夜、コーネルに屋敷の人員整理についてついに話をした。
コーネルは怒って侍女長を呼び出し、その場で解雇したのは驚いたが、そのあと体調を崩して寝込んでしまった。


「いいえ、後のことはこちらにお任せ下さい。お父様にとってもいい環境にするとお約束します」

「いや、私のことはいいんだ。全員クビにして新しく雇ったらいい。気付かなかった私の責任だ。皇帝陛下から預かったのに申し訳ない」


ハリエットはベッドの横が定位置となっている椅子に腰掛けた。


「いいえ、突然現れた私を受け入れるのは難しかったのでしょう。ただ、それをいつまでも許すわけにはいかなかっただけです」

「今朝デリックにも話を聞いた。何も知らなかったのが本当に恥ずかしかったよ。すまなかったね」

「本当に今までのことはいいのです。お父様が謝る必要なんてありません。これは私の問題だったのですから」


昨夜、図らずもコーネル自身が侍女長をクビにしたことは、屋敷に大きな衝撃を与えたようだった。
朝から謝罪の為にハリエットの部屋の前に行列が出来たほどだ。もちろん、そんなことで許すわけもなく、信用のかけらも持てない相手を雇うつもりはない。
人員の確保がまだ終わっていないから無視を決め込んでいる状態だ。


「ところで、お父様はゴードランにいるアガトン殿下について聞いてはいましたか?」


ハリエットはサイドテーブルに置かれたリンゴに手を伸ばして世間話でもするように皮を剥き始める。


「あぁ!バレてしまったのかい」

「お父様も知っていたのですね…」


何でもないことのようにケロリとしているコーネルに、毒気を抜かれたように脱力する。
この話をするまでの緊張が全て無駄だった。
手に持っているリンゴだって、何でもない話のように見せる為の演出だったのに。
こんなにあっさりと認めるとは思いもしなかった。


「君を養女にするようにと皇帝陛下の手紙を持参してきたのがアガトン王子殿下だった。紙に残すことはできないと、読んだらすぐに燃やされてしまったのには驚いた。その頃は体を起こすことも出来なかった私は、早く死ぬことが後継者として選ばれた娘にとってはいいのではないかと思った。万が一殺されても仕方のないことだと消極的に引き受けたことだった」


「そうですか。私は長く生きてもらって、領地について沢山話を聞けたらと思っています」



スルスルとナイフでリンゴの皮を剥いていく。
ハイランス家に居た時にはナイフを持ったこともなかった。



「こんなに可愛い娘が出来るとは思いもしてなかったんだ。それと、アガトン王子殿下はハリエットが負担に思わないように黙っていて欲しいと言っていたよ」


「殿下とは、皇帝陛下に帯同した旅で仲良くなりました。彼の純粋さがいつも眩しくて、私は彼の将来が楽しみだったんです」


「あぁ…その期待を裏切らない成長じゃないかな」


やっぱりアガトン殿下は私がグスチにいるからゴードランにいる。


コーネルがハリエットの頭にポンッと一度だけ頭に触れた時、ウィルソンがドアをノックした。


「ハリエット様、準備が出来ました」

「今行くわ」

ハリエットは均等に切られたリンゴをサイドテーブルに置いて立ち上がると、コーネルにアガトンに会いに行くと伝える。


「気をつけて行っておいで」


その優しい声に、ハリエットは「はい」とドアの方を向いたまま震える声で答えた。

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