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婚約破棄
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2週間が経っても、クロッカを含む3人の行方が分かっていなかった。
王宮内は張り詰め、国内で起きた襲撃に国民の非難は高まっていた。
そんな緊迫した中で、マリジェラの犯行声明が届き、クロッカの死が伝えられた。
クロッカはマリジェラの城の前に吊るされているという。
ベイリー・ハワードの執務室は途端に慌ただしくなった。
「すぐに確認を取れ!」
「確認と言っても、もう判別はつかないのでは…」
「衣服でも髪でも何でもいい。この目で確認しなければならない」
ベイリー・ハワードは、すぐにマリジェラに潜入していた者からの報告を読み返した。
不穏な動きは長く続いていた。
問題は、どこを相手に戦争をするつもりなのか、それだけのはずだった。
事前に情報をつかめていたらと思うと自分が不甲斐なかった。
テロを起こすとは想定外で、既に捕らえられた保守派を、黒幕だと疑いもしていなかった。
クロッカは賢かった。
あの襲撃の生き証人となった侍女により、犯人たちの訛りから調査が入り、そして、警備隊が到着する前にルノー侯爵がその場にいたことが判明し、速やかに処理することができた。
それでもクロッカと補佐官、護衛の3人の行方はどうしても掴むことが出来なかった。
真の黒幕がマリジェラだということも掴めなかったが、その代わりに王家は邪魔な保守派を消すことに成功した。
当たり前だが、ルノー侯爵もマリジェラの関与を口に出すことはなかった。しかし、犯行声明を出したことで間違いなく関与している。
最初から声明を出すつもりでの計画だと悟った。
彼女はこの国の女性の光のはずだった。
実情は暗黒の渦の中もがいているようなそんな世界だが、先頭を歩かなければならない彼女を、なんとしても守らなければならないと思わせる実力のかけらを持っていた。
これからそれを実力として根付かせてみせると思っていたのだが、今となってはすでにその実力を認めざるを得なかった。
「彼女を失った損失が大きすぎる」
彼女の小さな気配りが、有利な条件での貿易を引き出してくれることも多かった。
王妃では出来ない細かな外交を受け持っていたのも彼女だった。
複数国とやり取りできる貴重な存在を突然失い、外国に派遣されていることが多かった彼女の、国境を越えた情報収集力がいかに凄かったかを目の当たりにしている。
部下への的確な指示と、普段の温和な態度は驚く程に仕事を捗らせていたことに今更気付くことになるとは。
たった2週間で感じるのだから、今から不安でならない。
「アルベルト・ワーデンから面会の要求が来ています」
「15分後、こちらから向かうと伝えてくれ」
一度味わったぬるま湯から途端に水風呂に引き戻されたかのような執務室が居心地が悪くて仕方がない。
武器の輸出が主な外貨獲得手段であったマリジェラが追い込まれていたかといえば、そこまでの効果はなかっただろう。
マリジェラから武器を買う国は、この大陸では表面上はいなくなっていたが、裏ではやはり取引はされている。
影で甘い蜜を吸いたい者は多くいるため、徹底的に追い詰めるには至っていない。
「経済的制裁のみでは限界がある…か…」
国境が近かった為、アイナス帝国も事件の捜査協力に積極的に動いてくれていたが、マリジェラの関与を疑っているような素振りはなかった。
もしこのまま戦争となれば、帝国は大陸をまとめ上げて援護してくれるところまで交渉しなければならない。
この国がなくなれば次は帝国にも手を出しやすくなるので、帝国としても最大限に援護すると考えるが、その対価として差し出せるものを用意しなければならない。
どちらにしても国民を思えば、戦争を積極的するわけにはいかない。
戦争をしても利益は何もないのだ。
「アガトン王子殿下については何か言ってきているか?」
「いえ、今のところ殿下は護衛を増やす事もありません。しかし、マリジェラの声明を受けて、考えているところでしょう」
「まだ考える余地はあると言うことだな」
ベイリー・ハワードは、静かに執務室を出た。
アルベルトとクロッカの婚約破棄を発表したその日、その婚約破棄された婚約者が王都から離れた地で襲撃され、そして亡くなった。
事実だけを並べるといかにも滑稽だった。
他人の口を縛り付けることは出来ないことがもどかしい。
王宮内は張り詰め、国内で起きた襲撃に国民の非難は高まっていた。
そんな緊迫した中で、マリジェラの犯行声明が届き、クロッカの死が伝えられた。
クロッカはマリジェラの城の前に吊るされているという。
ベイリー・ハワードの執務室は途端に慌ただしくなった。
「すぐに確認を取れ!」
「確認と言っても、もう判別はつかないのでは…」
「衣服でも髪でも何でもいい。この目で確認しなければならない」
ベイリー・ハワードは、すぐにマリジェラに潜入していた者からの報告を読み返した。
不穏な動きは長く続いていた。
問題は、どこを相手に戦争をするつもりなのか、それだけのはずだった。
事前に情報をつかめていたらと思うと自分が不甲斐なかった。
テロを起こすとは想定外で、既に捕らえられた保守派を、黒幕だと疑いもしていなかった。
クロッカは賢かった。
あの襲撃の生き証人となった侍女により、犯人たちの訛りから調査が入り、そして、警備隊が到着する前にルノー侯爵がその場にいたことが判明し、速やかに処理することができた。
それでもクロッカと補佐官、護衛の3人の行方はどうしても掴むことが出来なかった。
真の黒幕がマリジェラだということも掴めなかったが、その代わりに王家は邪魔な保守派を消すことに成功した。
当たり前だが、ルノー侯爵もマリジェラの関与を口に出すことはなかった。しかし、犯行声明を出したことで間違いなく関与している。
最初から声明を出すつもりでの計画だと悟った。
彼女はこの国の女性の光のはずだった。
実情は暗黒の渦の中もがいているようなそんな世界だが、先頭を歩かなければならない彼女を、なんとしても守らなければならないと思わせる実力のかけらを持っていた。
これからそれを実力として根付かせてみせると思っていたのだが、今となってはすでにその実力を認めざるを得なかった。
「彼女を失った損失が大きすぎる」
彼女の小さな気配りが、有利な条件での貿易を引き出してくれることも多かった。
王妃では出来ない細かな外交を受け持っていたのも彼女だった。
複数国とやり取りできる貴重な存在を突然失い、外国に派遣されていることが多かった彼女の、国境を越えた情報収集力がいかに凄かったかを目の当たりにしている。
部下への的確な指示と、普段の温和な態度は驚く程に仕事を捗らせていたことに今更気付くことになるとは。
たった2週間で感じるのだから、今から不安でならない。
「アルベルト・ワーデンから面会の要求が来ています」
「15分後、こちらから向かうと伝えてくれ」
一度味わったぬるま湯から途端に水風呂に引き戻されたかのような執務室が居心地が悪くて仕方がない。
武器の輸出が主な外貨獲得手段であったマリジェラが追い込まれていたかといえば、そこまでの効果はなかっただろう。
マリジェラから武器を買う国は、この大陸では表面上はいなくなっていたが、裏ではやはり取引はされている。
影で甘い蜜を吸いたい者は多くいるため、徹底的に追い詰めるには至っていない。
「経済的制裁のみでは限界がある…か…」
国境が近かった為、アイナス帝国も事件の捜査協力に積極的に動いてくれていたが、マリジェラの関与を疑っているような素振りはなかった。
もしこのまま戦争となれば、帝国は大陸をまとめ上げて援護してくれるところまで交渉しなければならない。
この国がなくなれば次は帝国にも手を出しやすくなるので、帝国としても最大限に援護すると考えるが、その対価として差し出せるものを用意しなければならない。
どちらにしても国民を思えば、戦争を積極的するわけにはいかない。
戦争をしても利益は何もないのだ。
「アガトン王子殿下については何か言ってきているか?」
「いえ、今のところ殿下は護衛を増やす事もありません。しかし、マリジェラの声明を受けて、考えているところでしょう」
「まだ考える余地はあると言うことだな」
ベイリー・ハワードは、静かに執務室を出た。
アルベルトとクロッカの婚約破棄を発表したその日、その婚約破棄された婚約者が王都から離れた地で襲撃され、そして亡くなった。
事実だけを並べるといかにも滑稽だった。
他人の口を縛り付けることは出来ないことがもどかしい。
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