104 / 130
オルボアール
5
しおりを挟む
「クロッカ」
「はい」
食に集中して静かな時間が僅かに過ぎた頃、アガトンの真面目な声がクロッカの手を止めさせた。
「これを受け取って欲しい」
「なに?プレゼント?」
手渡された箱を開けると、敷き詰められるように金色に輝く星の形があった。
真っ黒なジュエリーボックスに並べられた星は、10個は入っている。
それが夜空に見立てたようでロマンチックだ。
「クロッカにはピアスをもらったのに、ずっと何を送ればいいか迷っていて帝都でずっと探していたんだ。それで、クロッカは青や紺のドレスを着ることが多いから、星のヘアピンを選んだんだけど…あんまりかな?」
「あまりにも素敵だから見惚れちゃったわ!これヘアピンだったのね。アップヘアの時に散りばめたら絶対可愛い!ありがとう。大切にするわ」
一つ引き出してみると、U字のヘアピン部分が見える。
これならば編み込んだ髪に刺すだけで固定ができるし、星の部分しか見えず野暮ったくならない。
実用性も兼ね備え、文句のつけようがない。
「気に入ってくれたなら良かった」
安心したように息を吐いたアガトンは肩の力も抜けたようで背もたれに身を任せていた。
「すごく気に入ったわ。ピンの形も使いやすいものだし、星を髪に散りばめられると思うとドレス選びも楽しみになるもの」
「王国に行くまで渡せないかと思ったけど、今日持ってきてよかったよ。ルフェーベル商会の品じゃないからキャサリンの前で渡しづらくて」
「キャサリンならそんなことは全く気にしないけど…あら、噂をすれば寝坊助のキャサリンが来たわよ」
護衛を1人だけ連れて、キャサリンは店内に入ってきた。
事前に店の雰囲気について聞いていたのか、遠くから話しかけてくることはない。
「アガトン殿下、クロッカ、おはようございます」
キャサリンが店内に入ると、護衛の1人が移動し、3人の座る席を挟むように2人ずつに分かれた。
「おはよう」
「おはよう。キャサリン、朝から急がせてしまったかしら。ごめんなさい」
ふわりと少し裾が広がっただけのワンピースに、結い上げもせず下ろした髪は、いつものキャサリンとはだいぶ印象が違う。
「クロッカ、よく起きれたわね。ん、顔色はそんなに悪くないわね。安心したわ。私がこの時間に起きれたのは奇跡に近いわよ」
クロッカの隣に腰掛けたキャサリンは、早速メニューを見ていた。
事情を察してくれた様子に一安心する。
「キャサリンにはアールグレイをお勧めするわ」
「アールグレイ?わざわざ勧めるにしては少し時期外れじゃない?」
確かに今は旬な時期ではないし、新茶ではないだろう。
しかしそれは代表的な他の茶葉も同じこと。
まだ春が訪れたばかりのこの時期に飲まれる紅茶は、秋にとられたものがほとんどだ。
「無理に勧めたりはしないけど、折角だからアールグレイがいいんじゃないかなって」
「何よその含みのある言い方。クロッカが飲んだのはどれなの?」
キャサリンは訝しげに空になったクロッカのカップを覗き込んでいた。
「私はディンブラをいただきました。アガトン殿下はオレンジティよ」
「オススメするのに飲んでないってどういうことよ…いいわ。3人でアールグレイを飲みましょう。それからスクランブルエッグとソーセージ、後サンドイッチにするわ」
キャサリンの注文は護衛が既に紙に書き込んでいた。
空のカップを見て、3人分のアールグレイを頼んだのだろうが、半分は警戒もしたのだろう。
アールグレイに何かあるかと。
「え、なに?注文したものを報告でもするの?」
隣の席から聞こえるペンを走らせる音に気付き、キャサリンは驚いていた。
「ここは自己注文制ですので」
当たり前のような口調で護衛話してはいるが、彼も先程、注文方法を知って驚いていた人の1人だ。
「そうなの。雰囲気だけじゃなくて本当に変わったお店なのね。よろしく頼むわ。あら、クロッカ、その手に持っているのは何?ジュエリーケース?」
クロッカの手の中にあった、黒いジュエリーケースを目敏くも発見したキャサリンは、察しがついているかのようにアガトンの方へ視線を移した。
「ええ。今アガトンからヘアアクセサリーをいただきましたの。とっても素敵なのよ!」
クロッカが再び蓋を開けると、待っていたかのように薄暗い店内で少ない光を反射するかのように星が光っていた。
「あら、金のヘアアクセサリー?アガトン、あなたプレゼントのセンスがあるわね。良いものを選んだわ。いつの間にか一人前になって、なんだか寂しいわね」
「キャサリンに褒められるとは思ってもみなかったよ」
「ダメ出しをされると?素敵なものはちゃんと素敵だと認めますよ。アドバイスが欲しい時は、頼ってくれて構わないのですけど?」
しっかりとルフェーベル商会で買うことも薦める抜かりの無い会話も久しぶりで、楽しかった旅を思い出していた。
「はい」
食に集中して静かな時間が僅かに過ぎた頃、アガトンの真面目な声がクロッカの手を止めさせた。
「これを受け取って欲しい」
「なに?プレゼント?」
手渡された箱を開けると、敷き詰められるように金色に輝く星の形があった。
真っ黒なジュエリーボックスに並べられた星は、10個は入っている。
それが夜空に見立てたようでロマンチックだ。
「クロッカにはピアスをもらったのに、ずっと何を送ればいいか迷っていて帝都でずっと探していたんだ。それで、クロッカは青や紺のドレスを着ることが多いから、星のヘアピンを選んだんだけど…あんまりかな?」
「あまりにも素敵だから見惚れちゃったわ!これヘアピンだったのね。アップヘアの時に散りばめたら絶対可愛い!ありがとう。大切にするわ」
一つ引き出してみると、U字のヘアピン部分が見える。
これならば編み込んだ髪に刺すだけで固定ができるし、星の部分しか見えず野暮ったくならない。
実用性も兼ね備え、文句のつけようがない。
「気に入ってくれたなら良かった」
安心したように息を吐いたアガトンは肩の力も抜けたようで背もたれに身を任せていた。
「すごく気に入ったわ。ピンの形も使いやすいものだし、星を髪に散りばめられると思うとドレス選びも楽しみになるもの」
「王国に行くまで渡せないかと思ったけど、今日持ってきてよかったよ。ルフェーベル商会の品じゃないからキャサリンの前で渡しづらくて」
「キャサリンならそんなことは全く気にしないけど…あら、噂をすれば寝坊助のキャサリンが来たわよ」
護衛を1人だけ連れて、キャサリンは店内に入ってきた。
事前に店の雰囲気について聞いていたのか、遠くから話しかけてくることはない。
「アガトン殿下、クロッカ、おはようございます」
キャサリンが店内に入ると、護衛の1人が移動し、3人の座る席を挟むように2人ずつに分かれた。
「おはよう」
「おはよう。キャサリン、朝から急がせてしまったかしら。ごめんなさい」
ふわりと少し裾が広がっただけのワンピースに、結い上げもせず下ろした髪は、いつものキャサリンとはだいぶ印象が違う。
「クロッカ、よく起きれたわね。ん、顔色はそんなに悪くないわね。安心したわ。私がこの時間に起きれたのは奇跡に近いわよ」
クロッカの隣に腰掛けたキャサリンは、早速メニューを見ていた。
事情を察してくれた様子に一安心する。
「キャサリンにはアールグレイをお勧めするわ」
「アールグレイ?わざわざ勧めるにしては少し時期外れじゃない?」
確かに今は旬な時期ではないし、新茶ではないだろう。
しかしそれは代表的な他の茶葉も同じこと。
まだ春が訪れたばかりのこの時期に飲まれる紅茶は、秋にとられたものがほとんどだ。
「無理に勧めたりはしないけど、折角だからアールグレイがいいんじゃないかなって」
「何よその含みのある言い方。クロッカが飲んだのはどれなの?」
キャサリンは訝しげに空になったクロッカのカップを覗き込んでいた。
「私はディンブラをいただきました。アガトン殿下はオレンジティよ」
「オススメするのに飲んでないってどういうことよ…いいわ。3人でアールグレイを飲みましょう。それからスクランブルエッグとソーセージ、後サンドイッチにするわ」
キャサリンの注文は護衛が既に紙に書き込んでいた。
空のカップを見て、3人分のアールグレイを頼んだのだろうが、半分は警戒もしたのだろう。
アールグレイに何かあるかと。
「え、なに?注文したものを報告でもするの?」
隣の席から聞こえるペンを走らせる音に気付き、キャサリンは驚いていた。
「ここは自己注文制ですので」
当たり前のような口調で護衛話してはいるが、彼も先程、注文方法を知って驚いていた人の1人だ。
「そうなの。雰囲気だけじゃなくて本当に変わったお店なのね。よろしく頼むわ。あら、クロッカ、その手に持っているのは何?ジュエリーケース?」
クロッカの手の中にあった、黒いジュエリーケースを目敏くも発見したキャサリンは、察しがついているかのようにアガトンの方へ視線を移した。
「ええ。今アガトンからヘアアクセサリーをいただきましたの。とっても素敵なのよ!」
クロッカが再び蓋を開けると、待っていたかのように薄暗い店内で少ない光を反射するかのように星が光っていた。
「あら、金のヘアアクセサリー?アガトン、あなたプレゼントのセンスがあるわね。良いものを選んだわ。いつの間にか一人前になって、なんだか寂しいわね」
「キャサリンに褒められるとは思ってもみなかったよ」
「ダメ出しをされると?素敵なものはちゃんと素敵だと認めますよ。アドバイスが欲しい時は、頼ってくれて構わないのですけど?」
しっかりとルフェーベル商会で買うことも薦める抜かりの無い会話も久しぶりで、楽しかった旅を思い出していた。
0
お気に入りに追加
734
あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる