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帰国の知らせ

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「あら、寝てしまっているわね」

キャサリンがアルベルトの視線に気付いて後ろを振り返ると、クロッカはソファーに身を任せるように寝てしまっていた。


「もう夜も遅い。私達もよく分かったから、一度怒りは収めてくれないか?」


アルベルトは立ち上がって小麦粉の袋をソファへどしりと置くと、クロッカの元へ向かう。



「はぁ…アルベルト、あなたクロッカをいつまで縛るつもり?王国へ帰ったら自由にしてあげなさいよ?」


当たり前のようにクロッカを抱えようとするアルベルトに、つい呆れた息が漏れてしまった。
まだ子を思う父親のようだと思っているのなら、他人が何を言おうとも考えが変わることはないだろう。
しかし、それならばもう長く苦しんでいるクロッカを解放してあげたいと思っていた。



美しく輝くラピスラズリを見て頬が緩んでも、最後には傷付いたような顔をするクロッカを何度も見てきた。
感情の落差を目の当たりにする度、精神的に苦しんでいることは手に取る様に明らかで、それでもこの帝国内で弱音を吐くことは一度たりともなかった彼女の幸せを願わない者はいないだろう。



「イリア・ロベールにも以前同じようなことを言われたよ。彼女が官職に就いて落ち着いた頃、婚約破棄するつもりだ」


アルベルトが言い終わる頃には、ソファに座るクロッカの膝の裏と背中に手を入れて、ふわりと持ち上げられていた。
まるでクロッカの体重を感じさせない動きに、彼女の眠りを妨げたくない思いやりが感じられた。



「そ、そう。アルベルト、余計なことを言ってごめんなさいね」


内緒で帝国まで来るぐらいだから、婚約破棄なんて頭にもないのだろうと思っていたキャサリンは、面食らってしまった。




「エマ、アルベルトを部屋へ案内してあげて。遅くなって悪かったわ。護衛は通常通りの配備を。アルベルトはすぐ戻ってきなさい」



キャサリンは大人しくアルベルトにクロッカを部屋に運んでもらうことにし、この部屋で待つことにした。
アルベルトがきちんと考えているのなら何も言うことはない。


アルベルト達が部屋を出るとホルスの対面のソファへ座る。
立ちっぱなしだったので今になって足にだるさを感じていた。



「フェリペ殿下、本当の目的はなんなの?」


アルベルトの意思を聞き、キャサリンは思うところがあった。
彼らはクロッカの前では言えない事情を抱えていたのかもしれないと頭をよぎったのだ。



「王国へ帰ったらまた暫く騒がしくなる。2人がゆっくり話せるのは王国へ帰るまでだろう。今は帰国するクロッカへの注目度も増しているんだ」


「そう。なら尚更知らせが欲しかったところね。私にも秘密にしていた意図が分からないわ」


やはりクロッカがいた為にはぐらかそうとして火に油を注ぐような物言いをしていたようだ。
キャサリンは新しく注がれた紅茶を口に含み、先程の怒りが蘇ってくるのを一緒に飲み込むことにした。



「それは単純に気が回らなかっただけだ。すまない」


「私がフェリペから聞いて、サプライズだと思ったばかりに申し訳なかった」



フェリペはフェリペだったとばかりに口から納得のため息を吐くことになった。
3人の顔には疲れの色が濃く浮かび上がっていたため、アルベルトが戻っていくると、すぐに解散することとなったが、ホルスは当たり前にキャサリンとは別の方向へ帰って行くこととなった。
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