98 / 130
帰国の知らせ
10
しおりを挟む
「あら、寝てしまっているわね」
キャサリンがアルベルトの視線に気付いて後ろを振り返ると、クロッカはソファーに身を任せるように寝てしまっていた。
「もう夜も遅い。私達もよく分かったから、一度怒りは収めてくれないか?」
アルベルトは立ち上がって小麦粉の袋をソファへどしりと置くと、クロッカの元へ向かう。
「はぁ…アルベルト、あなたクロッカをいつまで縛るつもり?王国へ帰ったら自由にしてあげなさいよ?」
当たり前のようにクロッカを抱えようとするアルベルトに、つい呆れた息が漏れてしまった。
まだ子を思う父親のようだと思っているのなら、他人が何を言おうとも考えが変わることはないだろう。
しかし、それならばもう長く苦しんでいるクロッカを解放してあげたいと思っていた。
美しく輝くラピスラズリを見て頬が緩んでも、最後には傷付いたような顔をするクロッカを何度も見てきた。
感情の落差を目の当たりにする度、精神的に苦しんでいることは手に取る様に明らかで、それでもこの帝国内で弱音を吐くことは一度たりともなかった彼女の幸せを願わない者はいないだろう。
「イリア・ロベールにも以前同じようなことを言われたよ。彼女が官職に就いて落ち着いた頃、婚約破棄するつもりだ」
アルベルトが言い終わる頃には、ソファに座るクロッカの膝の裏と背中に手を入れて、ふわりと持ち上げられていた。
まるでクロッカの体重を感じさせない動きに、彼女の眠りを妨げたくない思いやりが感じられた。
「そ、そう。アルベルト、余計なことを言ってごめんなさいね」
内緒で帝国まで来るぐらいだから、婚約破棄なんて頭にもないのだろうと思っていたキャサリンは、面食らってしまった。
「エマ、アルベルトを部屋へ案内してあげて。遅くなって悪かったわ。護衛は通常通りの配備を。アルベルトはすぐ戻ってきなさい」
キャサリンは大人しくアルベルトにクロッカを部屋に運んでもらうことにし、この部屋で待つことにした。
アルベルトがきちんと考えているのなら何も言うことはない。
アルベルト達が部屋を出るとホルスの対面のソファへ座る。
立ちっぱなしだったので今になって足にだるさを感じていた。
「フェリペ殿下、本当の目的はなんなの?」
アルベルトの意思を聞き、キャサリンは思うところがあった。
彼らはクロッカの前では言えない事情を抱えていたのかもしれないと頭をよぎったのだ。
「王国へ帰ったらまた暫く騒がしくなる。2人がゆっくり話せるのは王国へ帰るまでだろう。今は帰国するクロッカへの注目度も増しているんだ」
「そう。なら尚更知らせが欲しかったところね。私にも秘密にしていた意図が分からないわ」
やはりクロッカがいた為にはぐらかそうとして火に油を注ぐような物言いをしていたようだ。
キャサリンは新しく注がれた紅茶を口に含み、先程の怒りが蘇ってくるのを一緒に飲み込むことにした。
「それは単純に気が回らなかっただけだ。すまない」
「私がフェリペから聞いて、サプライズだと思ったばかりに申し訳なかった」
フェリペはフェリペだったとばかりに口から納得のため息を吐くことになった。
3人の顔には疲れの色が濃く浮かび上がっていたため、アルベルトが戻っていくると、すぐに解散することとなったが、ホルスは当たり前にキャサリンとは別の方向へ帰って行くこととなった。
キャサリンがアルベルトの視線に気付いて後ろを振り返ると、クロッカはソファーに身を任せるように寝てしまっていた。
「もう夜も遅い。私達もよく分かったから、一度怒りは収めてくれないか?」
アルベルトは立ち上がって小麦粉の袋をソファへどしりと置くと、クロッカの元へ向かう。
「はぁ…アルベルト、あなたクロッカをいつまで縛るつもり?王国へ帰ったら自由にしてあげなさいよ?」
当たり前のようにクロッカを抱えようとするアルベルトに、つい呆れた息が漏れてしまった。
まだ子を思う父親のようだと思っているのなら、他人が何を言おうとも考えが変わることはないだろう。
しかし、それならばもう長く苦しんでいるクロッカを解放してあげたいと思っていた。
美しく輝くラピスラズリを見て頬が緩んでも、最後には傷付いたような顔をするクロッカを何度も見てきた。
感情の落差を目の当たりにする度、精神的に苦しんでいることは手に取る様に明らかで、それでもこの帝国内で弱音を吐くことは一度たりともなかった彼女の幸せを願わない者はいないだろう。
「イリア・ロベールにも以前同じようなことを言われたよ。彼女が官職に就いて落ち着いた頃、婚約破棄するつもりだ」
アルベルトが言い終わる頃には、ソファに座るクロッカの膝の裏と背中に手を入れて、ふわりと持ち上げられていた。
まるでクロッカの体重を感じさせない動きに、彼女の眠りを妨げたくない思いやりが感じられた。
「そ、そう。アルベルト、余計なことを言ってごめんなさいね」
内緒で帝国まで来るぐらいだから、婚約破棄なんて頭にもないのだろうと思っていたキャサリンは、面食らってしまった。
「エマ、アルベルトを部屋へ案内してあげて。遅くなって悪かったわ。護衛は通常通りの配備を。アルベルトはすぐ戻ってきなさい」
キャサリンは大人しくアルベルトにクロッカを部屋に運んでもらうことにし、この部屋で待つことにした。
アルベルトがきちんと考えているのなら何も言うことはない。
アルベルト達が部屋を出るとホルスの対面のソファへ座る。
立ちっぱなしだったので今になって足にだるさを感じていた。
「フェリペ殿下、本当の目的はなんなの?」
アルベルトの意思を聞き、キャサリンは思うところがあった。
彼らはクロッカの前では言えない事情を抱えていたのかもしれないと頭をよぎったのだ。
「王国へ帰ったらまた暫く騒がしくなる。2人がゆっくり話せるのは王国へ帰るまでだろう。今は帰国するクロッカへの注目度も増しているんだ」
「そう。なら尚更知らせが欲しかったところね。私にも秘密にしていた意図が分からないわ」
やはりクロッカがいた為にはぐらかそうとして火に油を注ぐような物言いをしていたようだ。
キャサリンは新しく注がれた紅茶を口に含み、先程の怒りが蘇ってくるのを一緒に飲み込むことにした。
「それは単純に気が回らなかっただけだ。すまない」
「私がフェリペから聞いて、サプライズだと思ったばかりに申し訳なかった」
フェリペはフェリペだったとばかりに口から納得のため息を吐くことになった。
3人の顔には疲れの色が濃く浮かび上がっていたため、アルベルトが戻っていくると、すぐに解散することとなったが、ホルスは当たり前にキャサリンとは別の方向へ帰って行くこととなった。
0
お気に入りに追加
731
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
貴方のことは好きだけど…
ぽぽ
恋愛
異能の名家出身同士の両親の都合で決められた結婚
結婚したはいいが、妻の恵麻に対して冷たく接し、浮気も平気でする夫の伊織。
冷め切った関係の結婚生活ではあるけど、初恋であり最愛の人といれることに恵麻は喜びを感じていた。
しかし、ある日を境に2人の関係は変化する。
「私はやっぱり役立たずのようです」
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる