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帰国の知らせ

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「キャサリン、遅かったね」



ホールの入り口から、こちらを覗き込むストラウス公爵ホルス殿下の爽やかな満面の笑みが2人を待っていた。
同じ笑みを返せないキャサリンの顔は引き攣っていた。


「クロッカ、あれが現実よ。突然来ても喜んでくれると思ってるなんて残念な男よね」


クロッカの耳元で呟いた後も、キャサリンは表情を崩さず、クロッカのことを考えてしまって毛羽立っていた焦りも翳り、確実に苛立っていた。



今なら分かる。
白地にブルーの花をあしらったドレスであるキャサリンに対して、ホルス殿下は赤いジャケットに黒と金の刺繍であり、チグハグな印象で、衣装合わせもせずにパーティに来たことは一目瞭然であり、これでは不仲説すら出てしまいそうな程だ。



「ハイランス伯爵令嬢も久しぶりだね。ドレスを着るととても印象が変わるよ」


「ストラウス公爵お久しぶりでございます。公爵も赤いジャケットがとてもお似合いですわ。それから、長い間公爵夫人に帯同いただいたこと、大変感謝しております」



膝を折りカーテシーをとる。
横から見れば脚の側面は丸見えだが、もう慣れてきてしまっていた。
赤いジャケットのことは失言だったと認める。
キャサリンの視線が痛い。



「問題なく視察が終わってよかったよ。アガトンも王国へ留学するそうじゃないか。学園では会わないだろうが、最初は友人もおらず辛いこともあるはずだ。少しだけ気を遣ってもらえると助かる」


自身の留学でも心細く思ったことがあったのだろう、彼は丁寧に頭を下げた。



「もちろんです。殿下にも大変良くしていただきました。王国では私がもてなさなければいけませんわ」


「あぁクロッカ!また近くで見ると大人みたいなドレスだね!とっても綺麗だよ」



片手にシャンパンを持ったフェリペがホルスの後ろからひょっこりと顔を出す。



「フェリペ殿下、ご無沙汰しております。私はもう成人してから長く大人として過ごしていますよ。この度の視察、大変勉強になりました。ありがとうございます」



皮肉を込めもしたが、実際この旅に出てよかったと心から思っていた。
自分を支えてくれる人と出会い、人生の価値観が変わった。人間として一回り大きくなった自信が出来たことは思わぬ副産物だった。


「あぁ、それはよかった。アルベルトももう来るよ」


当たり前のように言ってくれているが、詫びの一つでも先に言えないのだろうか。
この名前を聞くだけで飛び跳ねる心臓を投げつけてやりたい。


「そうですか。こちらへはいつ到着されたのですか?」



昨日から来ているのならホルス殿下もキャサリンをエスコートしなければならなかったし、それはアルベルトもそうだ。
何の知らせもなく、パートナーがいながらエスコートもなくパーティへ参加したのだ。
今更当たり前のようにいると言われても説明が不足している。



「あぁ、二日前には着くつもりでいたんだが、予定通りに行かなくてね。先程着いて着替えて大急ぎで来たんだよ」


皇帝陛下の生誕パーティに遅刻とは恐れ多いことを。
しかしストラウス公爵が一緒なら仕方がない。



「それはお疲れでしょう。今日は使者が参加されると聞いております。フェリペ殿下がいつの間にか王族から抜けられていたとは驚きましたわ」



「プフッ…やだクロッカ、あなた最高ね」



国の使者に成り下がったのかと嫌味を言うくらい許して欲しい。
彼らは断りもなくここにいるし、ホールへの入り口の前に立ち、2人がホールの外にいることにも気付いてもいないのだから。
キャサリンは思わず吹き出してしまって扇で口元を慌てて隠している。


「なんだクロッカ怒ってるのか?」



「フェリペ殿下、何故当たり前のようにここにいるのです?突然名ばかりの婚約者と一緒に現れて、怒らない方がおかしいのでは?」


「そうよ。ホルスも嘘をついてまで内緒にして。私のエスコートもせず、衣装の打ち合わせもしてないからそんな赤い服を着て、私は白と青よ?明日の紙面は私たちの不仲説が一面を飾る事は間違い無いわ。パーティについて意思疎通が出来ていなかったのが丸わかりで恥ずかしいわよ」



急遽こんな場所で責め立てることになったが、まだ外なので許されるだろう。
これから私たちはその不仲の相手と挨拶回りをしなければならないのだから、本当に勘弁して欲しいものだ。


「いやぁそこまで頭が回らなかった。どうせならクロッカを迎えに来て驚かせようと思ったんだけど、裏目に出てしまった。でも遅れてきた事は良かったじゃないか。エスコート出来なかったのは仕方のないことだったんだし分かってもらえるさ」



「「そういうことを言っているのではありません」」



良いタイミングでダンスの終わりを告げている。
これ以上はここで話し合うことではないので一端話は回収するしかない。


「この話はまた後で」


2人がホールに足を踏み入れると何も知らないアルベルトが現れ、2人の神経を逆撫でることになるのだった。
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