69 / 130
開かれた道
2
しおりを挟む
結局、男性からの心象が悪いためなのか、クロッカの順位は2位という結果に終わった。
しかし女性達からの支持は絶大であった。
ユージェニー殿下の婚約者であるテレーズが後ろについているので、不満を隠しきれない男性も表面上それを見せる事はない。
クロッカから討論大会を見に来て欲しいと誘われていたイリアもあまりの彼女の大胆で素早い行動に驚かされていた。そのクロッカの活躍を見たイリアは、早速次の日の新聞の一枠を買い取り、討論大会での一幕について随筆を載せた。
それは会場にいなかった貴族や庶民の目に留まり、国民の心に留まることとなった。
「いやぁ、女に勝てる男なんていないよなぁ」
「うちのかぁちゃんに逆らってみろ、家を追い出されちまう」
特に庶民の間では、よく働く女性の強さは当たり前に認められており、もちろん女性を蔑むものもいたが、それは男として情けないと受け取られるものであった為、領主たちは領民を敵に回すまいと公の場で話題にする事はなかった。
このジェンダーフリーの思想は洪水により下火となっていた改革派と保守派の争いを激化させることに繋がっていった。
あまりの過熱ぶりに、ユージェニー殿下の婚約者であるテレーズを守る為、王妃は早々に今後の女性の活躍を支援すると表明するに至った。
これにより保守派を押し黙らせることになり、改革派が一気に勢力を増していくことなる。
王妃の声明に庶民は湧き上がり、高位の女性貴族達はこれまで貴族の義務として公表することのなかった婦人会の活動実績を公にし、その活動は広く称賛されることとなった。
そして討論大会後のクロッカはというと、無事に推薦状が届いており、悔しいながらも自分の未来を掴むために更なる努力を誓っていた。
学園に推薦状を提出し、特別クラスへの編入を希望したのだが、その間に騒動は過熱の一途を辿っており、特進科への編入者の発表は一時延期となっていた。
クロッカは護衛がいなくては外へ出られないほどで、安全を確保出来ないことから、暫し自宅待機を学園から言い渡されることとなった。
イリアの随筆は評判により仕事として定期的に寄稿するようになっていた。
その紙面を見てはため息を吐いていたのがアルベルトだった。
「君のところのお嬢様はものすごいことをしてくれたね」
「……イリア・ロベールも一枚噛んでいる。これは革命運動だ」
キリルは興味深いというようにアルベルトの持つ新聞を後ろから眺める。
根回しも何もなく、貴族学園の討論大会での議論が女性達の革命運動へと発展していく。
それは来るべくして来た未来だったのかもしれない。
改革派の中でも保守派の中でも女性の社会進出については賛否両論。あらたな派閥争いが生まれようとしていた。
「あの時は冷静そうに見えたけど、よっぽど腹に据えかねていたんだろうね」
「これは俺に対しての当て付けということか」
くっきりとアルベルトの眉間には皺が寄る。
しっぺ返しにしては壮大すぎる企画だ。
「いや、君も含めてこの世の中全ての男に対して嫌気が差したということだろう。まぁそこまで考えていたかは分からないけど、このイリア・ロベールの寄稿文を読んで、後ろめたさを感じない男はこの世にいないことは確かだ」
「どちらにせよ、彼女に歯が向かない様に対策をするしかない。まだ形だけは婚約者だ。堂々と手が出せるのは救いだったな」
この時まだ、アルベルトはこの騒動のせいで婚約破棄の話を進めることが出来ないのだと思っていた。
アルベルトは王都のハイランス家に護衛騎士を派遣し、警備の増強を助けていた。
その一方で外出のできないクロッカに人気の菓子や本、アクセサリーを差し入れとして届けさせた。
「まぁ、もらえるものはもらっておきますか」
どれもクロッカの好みであるため目の前に出されれば手が伸びないわけがなかった。
軟禁状態となっているクロッカだったが、特に不自由を感じることもなく、寧ろこの状況は臨んだ以上の結果だったと満足すらしていた。
しかし女性達からの支持は絶大であった。
ユージェニー殿下の婚約者であるテレーズが後ろについているので、不満を隠しきれない男性も表面上それを見せる事はない。
クロッカから討論大会を見に来て欲しいと誘われていたイリアもあまりの彼女の大胆で素早い行動に驚かされていた。そのクロッカの活躍を見たイリアは、早速次の日の新聞の一枠を買い取り、討論大会での一幕について随筆を載せた。
それは会場にいなかった貴族や庶民の目に留まり、国民の心に留まることとなった。
「いやぁ、女に勝てる男なんていないよなぁ」
「うちのかぁちゃんに逆らってみろ、家を追い出されちまう」
特に庶民の間では、よく働く女性の強さは当たり前に認められており、もちろん女性を蔑むものもいたが、それは男として情けないと受け取られるものであった為、領主たちは領民を敵に回すまいと公の場で話題にする事はなかった。
このジェンダーフリーの思想は洪水により下火となっていた改革派と保守派の争いを激化させることに繋がっていった。
あまりの過熱ぶりに、ユージェニー殿下の婚約者であるテレーズを守る為、王妃は早々に今後の女性の活躍を支援すると表明するに至った。
これにより保守派を押し黙らせることになり、改革派が一気に勢力を増していくことなる。
王妃の声明に庶民は湧き上がり、高位の女性貴族達はこれまで貴族の義務として公表することのなかった婦人会の活動実績を公にし、その活動は広く称賛されることとなった。
そして討論大会後のクロッカはというと、無事に推薦状が届いており、悔しいながらも自分の未来を掴むために更なる努力を誓っていた。
学園に推薦状を提出し、特別クラスへの編入を希望したのだが、その間に騒動は過熱の一途を辿っており、特進科への編入者の発表は一時延期となっていた。
クロッカは護衛がいなくては外へ出られないほどで、安全を確保出来ないことから、暫し自宅待機を学園から言い渡されることとなった。
イリアの随筆は評判により仕事として定期的に寄稿するようになっていた。
その紙面を見てはため息を吐いていたのがアルベルトだった。
「君のところのお嬢様はものすごいことをしてくれたね」
「……イリア・ロベールも一枚噛んでいる。これは革命運動だ」
キリルは興味深いというようにアルベルトの持つ新聞を後ろから眺める。
根回しも何もなく、貴族学園の討論大会での議論が女性達の革命運動へと発展していく。
それは来るべくして来た未来だったのかもしれない。
改革派の中でも保守派の中でも女性の社会進出については賛否両論。あらたな派閥争いが生まれようとしていた。
「あの時は冷静そうに見えたけど、よっぽど腹に据えかねていたんだろうね」
「これは俺に対しての当て付けということか」
くっきりとアルベルトの眉間には皺が寄る。
しっぺ返しにしては壮大すぎる企画だ。
「いや、君も含めてこの世の中全ての男に対して嫌気が差したということだろう。まぁそこまで考えていたかは分からないけど、このイリア・ロベールの寄稿文を読んで、後ろめたさを感じない男はこの世にいないことは確かだ」
「どちらにせよ、彼女に歯が向かない様に対策をするしかない。まだ形だけは婚約者だ。堂々と手が出せるのは救いだったな」
この時まだ、アルベルトはこの騒動のせいで婚約破棄の話を進めることが出来ないのだと思っていた。
アルベルトは王都のハイランス家に護衛騎士を派遣し、警備の増強を助けていた。
その一方で外出のできないクロッカに人気の菓子や本、アクセサリーを差し入れとして届けさせた。
「まぁ、もらえるものはもらっておきますか」
どれもクロッカの好みであるため目の前に出されれば手が伸びないわけがなかった。
軟禁状態となっているクロッカだったが、特に不自由を感じることもなく、寧ろこの状況は臨んだ以上の結果だったと満足すらしていた。
0
お気に入りに追加
731
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる