65 / 130
女
2
しおりを挟む
「もし…もしもですが、シュゼインを忘れられていないなら、ステファニーは幽閉して、シュゼインと一緒にいられる様にする用意もあります。伯爵家が孤立することは避けられないかもしれませんが、離縁させて正式に妻になりたいならそう言う選択もあります。本当は娘のステファニーの幽閉は最初に提案していたのです。シュゼインとクロッカの幸せをただ奪う事を私は良しとしたことは一度もありません」
イリアは一度大きく息を吸った。
クロッカの答えによっては自身は不要の産物と化す。
期待を込めてはいけないと、覚悟を決めて話し始めた。
「私はあなたの意思に従うことを約束します。きちんとそれらを伝えた上で聞きたかったのです。あなたが今好意を寄せているのはアルベルトですか?」
「はい。しかし、今のアルベルトとは本当に結婚するつもりはありません。彼に会うことなく修道院へ行くつもりなのです」
クロッカはもう警戒をする必要がなかった。イリアはアウストリア公爵夫人でありながら敵ではないと納得した。いや、ただ1人の味方が現れたのだとすら感じた。
エドレッドも、シュゼインも、アルベルトもクロッカの気持ちを確かめることをしなかった。自分の考えばかり押し付けることしかしないのに、クロッカの味方の様な顔をしていただけだ。
自分の不利益だとしても、クロッカの意思に従うと言ってくれたイリアの言葉が嬉しかった。
「それならば、クロッカに提案できる事がありますの。その提案に乗るか乗らないかは、あなたが決めればいいわ。自分の人生だもの自分の生きたい様に生きるべき。その選択肢の一つとして、修道院行きをやめることを考えて欲しいの」
イリアはシュゼインを選ばなかったことに少しホッとしていた。
客観的に見て、シュゼインを選ぶメリットが見出せなかったからだ。
大切な時に必要な決断を下せないものはきっとこの先も場に流されるだけ。長い人生を預けるには頼りない。
「修道院行きをやめる?」
「えぇ。アルベルトからは決して婚約破棄をしないわ。それを利用した方がいいと思うの。きっと彼にお灸を据えることにもなるわ。でもそれを考えるにも、自分の置かれている状況を正しく把握しておくべきよ。だからアルベルトともう一度会うことを勧めるの。それから…特進科への推薦は貰えているのかしら?」
クロッカはもう一度首を傾げる。
自分の置かれている状況は自分の考えているよりも悪いということなのかと考えれば恐ろしくさえ感じていた。
「えっ…はい。」
「そう、それは話が早いわ。修道院へ行かなくても官職への道があるじゃない。自分の幸せは自分で掴むものよ!アルベルトはあなたを官職の嫁にして才を潰すことを危惧していたのが気になっていたの。1人の女性として見れないのは、年齢的なものも勿論あるけれど、あなたを領主の嫁として見ていたことも影響していると思うの。どう?アルベルトの横に対等に立ちたいとは思わない?」
アルベルトと対等にという言葉に、義娘として扱われることに不満を感じていたクロッカは惹かれた。
しかし、宮廷での女性の官職とは王妃などに付く女官くらいしかない。
一度伯爵家と婚約破棄をし、その婚約破棄した父親で高位官職といえるアルベルトとの婚約があれば、王族の私室女官としては扱いにくい存在。
女官になることが許されても、派閥争いの中心にいるアルベルトとの婚約は、それこそ邪魔なものになるだろう。
「対等な立場に立つことが出来るのならばなりたいものです。しかし、それだけでアルベルトが私を愛せるとは思えません。それに、女官になるのはアルベルトとの婚約があっても、それを破棄したとしても立ち位置的に難しいことでしょう」
「クロッカ、あなたがアルベルトを振り向かせるのよ。ただ諦めてしまっては何も手に入らないの。でもそうね、この先アルベルトなんかよりいい人が現れるかもしれない。そうしたらその時、アルベルトへ婚約破棄を言い渡してやればいいわ。あなたは魅力的だもの。実力主義の宮廷内で、本当に優秀な男たちは2度の婚約破棄くらいであなたを見る目を変えないわ。あなたは女官ではなく、尚書官や儀典官など男性と同じ官職を目指すべきよ」
今、この国は復興の中程を漸く過ぎたところにいる。
景気は上がり、続く復興作業もあり人手不足となっていた。
それは宮廷でも同じこと。次男、三男も領地にいても仕事があるため官職を希望するものは少なくなっていた。
特進科も目に見えて人数は少なくなっている。
イリアはこれを女性の社会進出のきっかけとなるのではないかと考えていた。
本来、女性はもっと評価されるべきであると考えはじめて久しい。
社交性、教養、マナー、ダンス、さらには刺繍などの器用さも幼い頃から求められている。
マルチタスクをこなす能力を求められ、それに対して当たり前に答えてきたのだ。
実際、女の子を育てる方がお金がかかるというのは常識だった。
男性と同じだけ女性にも優秀なものはいる。
イリアは思っていた。ジャクリーンもアルベルトもシュゼインも愛すべきバカ達なのだと。
イリア・ロベール。彼女はこの国でただ1人、爵位も官職も関係なく、作家イリア・ローベルという地位を手に入れた女性だ。
クロッカが官職を望むのならば女性として立ち上がろうと1人決意していた。
イリアは一度大きく息を吸った。
クロッカの答えによっては自身は不要の産物と化す。
期待を込めてはいけないと、覚悟を決めて話し始めた。
「私はあなたの意思に従うことを約束します。きちんとそれらを伝えた上で聞きたかったのです。あなたが今好意を寄せているのはアルベルトですか?」
「はい。しかし、今のアルベルトとは本当に結婚するつもりはありません。彼に会うことなく修道院へ行くつもりなのです」
クロッカはもう警戒をする必要がなかった。イリアはアウストリア公爵夫人でありながら敵ではないと納得した。いや、ただ1人の味方が現れたのだとすら感じた。
エドレッドも、シュゼインも、アルベルトもクロッカの気持ちを確かめることをしなかった。自分の考えばかり押し付けることしかしないのに、クロッカの味方の様な顔をしていただけだ。
自分の不利益だとしても、クロッカの意思に従うと言ってくれたイリアの言葉が嬉しかった。
「それならば、クロッカに提案できる事がありますの。その提案に乗るか乗らないかは、あなたが決めればいいわ。自分の人生だもの自分の生きたい様に生きるべき。その選択肢の一つとして、修道院行きをやめることを考えて欲しいの」
イリアはシュゼインを選ばなかったことに少しホッとしていた。
客観的に見て、シュゼインを選ぶメリットが見出せなかったからだ。
大切な時に必要な決断を下せないものはきっとこの先も場に流されるだけ。長い人生を預けるには頼りない。
「修道院行きをやめる?」
「えぇ。アルベルトからは決して婚約破棄をしないわ。それを利用した方がいいと思うの。きっと彼にお灸を据えることにもなるわ。でもそれを考えるにも、自分の置かれている状況を正しく把握しておくべきよ。だからアルベルトともう一度会うことを勧めるの。それから…特進科への推薦は貰えているのかしら?」
クロッカはもう一度首を傾げる。
自分の置かれている状況は自分の考えているよりも悪いということなのかと考えれば恐ろしくさえ感じていた。
「えっ…はい。」
「そう、それは話が早いわ。修道院へ行かなくても官職への道があるじゃない。自分の幸せは自分で掴むものよ!アルベルトはあなたを官職の嫁にして才を潰すことを危惧していたのが気になっていたの。1人の女性として見れないのは、年齢的なものも勿論あるけれど、あなたを領主の嫁として見ていたことも影響していると思うの。どう?アルベルトの横に対等に立ちたいとは思わない?」
アルベルトと対等にという言葉に、義娘として扱われることに不満を感じていたクロッカは惹かれた。
しかし、宮廷での女性の官職とは王妃などに付く女官くらいしかない。
一度伯爵家と婚約破棄をし、その婚約破棄した父親で高位官職といえるアルベルトとの婚約があれば、王族の私室女官としては扱いにくい存在。
女官になることが許されても、派閥争いの中心にいるアルベルトとの婚約は、それこそ邪魔なものになるだろう。
「対等な立場に立つことが出来るのならばなりたいものです。しかし、それだけでアルベルトが私を愛せるとは思えません。それに、女官になるのはアルベルトとの婚約があっても、それを破棄したとしても立ち位置的に難しいことでしょう」
「クロッカ、あなたがアルベルトを振り向かせるのよ。ただ諦めてしまっては何も手に入らないの。でもそうね、この先アルベルトなんかよりいい人が現れるかもしれない。そうしたらその時、アルベルトへ婚約破棄を言い渡してやればいいわ。あなたは魅力的だもの。実力主義の宮廷内で、本当に優秀な男たちは2度の婚約破棄くらいであなたを見る目を変えないわ。あなたは女官ではなく、尚書官や儀典官など男性と同じ官職を目指すべきよ」
今、この国は復興の中程を漸く過ぎたところにいる。
景気は上がり、続く復興作業もあり人手不足となっていた。
それは宮廷でも同じこと。次男、三男も領地にいても仕事があるため官職を希望するものは少なくなっていた。
特進科も目に見えて人数は少なくなっている。
イリアはこれを女性の社会進出のきっかけとなるのではないかと考えていた。
本来、女性はもっと評価されるべきであると考えはじめて久しい。
社交性、教養、マナー、ダンス、さらには刺繍などの器用さも幼い頃から求められている。
マルチタスクをこなす能力を求められ、それに対して当たり前に答えてきたのだ。
実際、女の子を育てる方がお金がかかるというのは常識だった。
男性と同じだけ女性にも優秀なものはいる。
イリアは思っていた。ジャクリーンもアルベルトもシュゼインも愛すべきバカ達なのだと。
イリア・ロベール。彼女はこの国でただ1人、爵位も官職も関係なく、作家イリア・ローベルという地位を手に入れた女性だ。
クロッカが官職を望むのならば女性として立ち上がろうと1人決意していた。
0
お気に入りに追加
734
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる