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気持ち

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「アルベルトはこの世の女性全てに殴られる旅へ出たらいいわ」


何も知らされず2年も婚約させられていたとは信じられない。
シュゼインと結ばれる前提で婚約していたのなら理解も容易いが、何も知らず別の女を妻にした婚約者の父親と嫌々ながらも婚約したということは、家の為に我慢をしたか、あるいはそこに希望を見つけたからだろう。



ハイランス家には弟がいる事は以前調べていた。
洪水で多大な損害を出したが、復興作業で雇用は以前より増し、経済的に困っていることはなかったはずだ。
イリアの胸に夫と娘の犯した罪の重さがのしかかる。
彼女を苦境に立たせた原因を作ったのはアウストリア家なのである。



「彼女を苦しめた側の私が言うのも憚られることですが、はっきり言わせてもらいます。ハイランス伯爵令嬢から見れば、あなたも加害者です。彼女は愛されないのなら嫌だとはっきり仰ったのでしょう。それなのに婚約したと言う事は、あなたは彼女に嘘をついたということ。成人した女性とは言え、まだ15歳だった彼女の心を無闇に弄び、期待だけを持たせて、結果的に傷口を開くようにボロボロに傷つけたのです。その上、妻にしようなどとどの口がいうのですか。ただの独占欲で更に彼女を追い込もうと考えるだなんて鬼畜以外の何者でもないわ。彼女は物ではないのですよ。恥を知りなさい」



最後にふんっと鼻を鳴らせたイリアは、酸欠になるほどクロッカに感情移入していた。
呼吸を乱し、息が大きくなる。
同じ女性として許すことが出来なかった。
女性はその辺に落ちている石ころではないのだ。
男の気まぐれのような考え一つで自由にしていい存在ではない。
かつてシュゼインを彼女から奪った娘を許せなかったのと同じように、アルベルトを許すことが出来なかった。



「あぁ…君に言われて初めてクロッカの怒った意味を真に理解出来た…私は最低な男だな…」



あぁと声を漏らして項垂れる彼はガックリと肩を下ろしていた。
こんなアルベルトを見るのも初めてだった。
何故そんなことにこの男が気が付かなかったのか不思議で仕方がない。
人の機微には敏感だったはずだ。
だからこそその地位にいるのだと言うのにその面影すら今の彼からは感じられなかった。



「カリーナも、きっとハイランス伯爵令嬢を傷付けたことに怒り狂っていることでしょう。目の前の傷ついている女性に気付かないような男なのかと失望しているに違いないわ」


カリーナはいつも笑顔だったけれど、正義感の強い人だった。
若いままのカリーナの怒った顔を2人は思い浮かべていた。
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