63 / 130
気持ち
5
しおりを挟む
「アルベルトはこの世の女性全てに殴られる旅へ出たらいいわ」
何も知らされず2年も婚約させられていたとは信じられない。
シュゼインと結ばれる前提で婚約していたのなら理解も容易いが、何も知らず別の女を妻にした婚約者の父親と嫌々ながらも婚約したということは、家の為に我慢をしたか、あるいはそこに希望を見つけたからだろう。
ハイランス家には弟がいる事は以前調べていた。
洪水で多大な損害を出したが、復興作業で雇用は以前より増し、経済的に困っていることはなかったはずだ。
イリアの胸に夫と娘の犯した罪の重さがのしかかる。
彼女を苦境に立たせた原因を作ったのはアウストリア家なのである。
「彼女を苦しめた側の私が言うのも憚られることですが、はっきり言わせてもらいます。ハイランス伯爵令嬢から見れば、あなたも加害者です。彼女は愛されないのなら嫌だとはっきり仰ったのでしょう。それなのに婚約したと言う事は、あなたは彼女に嘘をついたということ。成人した女性とは言え、まだ15歳だった彼女の心を無闇に弄び、期待だけを持たせて、結果的に傷口を開くようにボロボロに傷つけたのです。その上、妻にしようなどとどの口がいうのですか。ただの独占欲で更に彼女を追い込もうと考えるだなんて鬼畜以外の何者でもないわ。彼女は物ではないのですよ。恥を知りなさい」
最後にふんっと鼻を鳴らせたイリアは、酸欠になるほどクロッカに感情移入していた。
呼吸を乱し、息が大きくなる。
同じ女性として許すことが出来なかった。
女性はその辺に落ちている石ころではないのだ。
男の気まぐれのような考え一つで自由にしていい存在ではない。
かつてシュゼインを彼女から奪った娘を許せなかったのと同じように、アルベルトを許すことが出来なかった。
「あぁ…君に言われて初めてクロッカの怒った意味を真に理解出来た…私は最低な男だな…」
あぁと声を漏らして項垂れる彼はガックリと肩を下ろしていた。
こんなアルベルトを見るのも初めてだった。
何故そんなことにこの男が気が付かなかったのか不思議で仕方がない。
人の機微には敏感だったはずだ。
だからこそその地位にいるのだと言うのにその面影すら今の彼からは感じられなかった。
「カリーナも、きっとハイランス伯爵令嬢を傷付けたことに怒り狂っていることでしょう。目の前の傷ついている女性に気付かないような男なのかと失望しているに違いないわ」
カリーナはいつも笑顔だったけれど、正義感の強い人だった。
若いままのカリーナの怒った顔を2人は思い浮かべていた。
何も知らされず2年も婚約させられていたとは信じられない。
シュゼインと結ばれる前提で婚約していたのなら理解も容易いが、何も知らず別の女を妻にした婚約者の父親と嫌々ながらも婚約したということは、家の為に我慢をしたか、あるいはそこに希望を見つけたからだろう。
ハイランス家には弟がいる事は以前調べていた。
洪水で多大な損害を出したが、復興作業で雇用は以前より増し、経済的に困っていることはなかったはずだ。
イリアの胸に夫と娘の犯した罪の重さがのしかかる。
彼女を苦境に立たせた原因を作ったのはアウストリア家なのである。
「彼女を苦しめた側の私が言うのも憚られることですが、はっきり言わせてもらいます。ハイランス伯爵令嬢から見れば、あなたも加害者です。彼女は愛されないのなら嫌だとはっきり仰ったのでしょう。それなのに婚約したと言う事は、あなたは彼女に嘘をついたということ。成人した女性とは言え、まだ15歳だった彼女の心を無闇に弄び、期待だけを持たせて、結果的に傷口を開くようにボロボロに傷つけたのです。その上、妻にしようなどとどの口がいうのですか。ただの独占欲で更に彼女を追い込もうと考えるだなんて鬼畜以外の何者でもないわ。彼女は物ではないのですよ。恥を知りなさい」
最後にふんっと鼻を鳴らせたイリアは、酸欠になるほどクロッカに感情移入していた。
呼吸を乱し、息が大きくなる。
同じ女性として許すことが出来なかった。
女性はその辺に落ちている石ころではないのだ。
男の気まぐれのような考え一つで自由にしていい存在ではない。
かつてシュゼインを彼女から奪った娘を許せなかったのと同じように、アルベルトを許すことが出来なかった。
「あぁ…君に言われて初めてクロッカの怒った意味を真に理解出来た…私は最低な男だな…」
あぁと声を漏らして項垂れる彼はガックリと肩を下ろしていた。
こんなアルベルトを見るのも初めてだった。
何故そんなことにこの男が気が付かなかったのか不思議で仕方がない。
人の機微には敏感だったはずだ。
だからこそその地位にいるのだと言うのにその面影すら今の彼からは感じられなかった。
「カリーナも、きっとハイランス伯爵令嬢を傷付けたことに怒り狂っていることでしょう。目の前の傷ついている女性に気付かないような男なのかと失望しているに違いないわ」
カリーナはいつも笑顔だったけれど、正義感の強い人だった。
若いままのカリーナの怒った顔を2人は思い浮かべていた。
0
お気に入りに追加
731
あなたにおすすめの小説
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~
柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。
こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。
「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」
そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。
だって、浮気をする人はいずれまた――
【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです
冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。
あなたを本当に愛していたから。
叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。
でも、余計なことだったみたい。
だって、私は殺されてしまったのですもの。
分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。
だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。
あなたはどうか、あの人と幸せになって ---
※ R-18 は保険です。
幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路
今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。
すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。
ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。
それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。
そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ……
※短い……はず
危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。
婚約者が親友と浮気してました。婚約破棄だけで済むと思うなよ?
リオール
恋愛
公爵令嬢ミーシャは、良い関係を築けてると思っていた婚約者カルシスの裏切りを知る。
それは同時に、浮気相手でもある、親友リメリアの裏切りでもあった。
婚約破棄?当然するに決まってるでしょ。
でもね。
それだけで済むと思わないでよ?
※R15は保険です
※1話が短いです
※これまでの作品と傾向違います。ギャグ無いです(多分)。
※全27話
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】あの愛をもう一度…
春野オカリナ
恋愛
サリナ・トルディは子爵夫人だ。可も不可もない至って普通の下級貴族。
ところがクリスマスを前にしたある日、夫が突然馬車事故で亡くなった。だが、問題は夫と一緒にカーマンベル伯爵夫人が同乗していたことだった。彼女はサリナとは幼馴染で、伯爵と夫のロイドは友人関係にあった。
社交界で酷い醜聞にさらされながら、サリナは二人の子供を何とか育てようと奮闘するも、子供の何気ない一言で自暴自棄になってしまい、睡眠薬を過剰摂取してしまう。
だが、目覚めたら夫が亡くなる2か月前に戻っていた。
サリナは愛する夫を事故にあわさない様にしようと心に決めたのだ。
そして、夫との関係が徐々に深まる中、あの事故の日が来る。サリナはその日夫に何があったのかを知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる