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クロッカはすぐにアルベルトと婚約を破棄し修道院へ行くことを決めたとエドレッドに手紙を送っていた。
ハイランス本家から手紙が届き、婚約破棄の条件を決めるのにワーデン家と話し合うことになる。
まだ恐らく時間はかかる。
クロッカは迷った結果暫くは学園に通うことにした。
知識は自らを裏切る事はない。
さらに討論大会の日程が近く、既にパネリストとしても指名されていたので迷惑をかけるというのも大きな理由だった。
そして、アルベルトも行動を起こしていた。
シュゼインを呼び立て、婚約は破棄され、クロッカは修道院へ行くつもりだと説明をした。
シュゼインはアルベルトとクロッカの結婚は揺るがないものだと考えていた。全ての条件が揃う時に向かって努力をしていたつもりだったが、それは先延ばしに過ぎなかったと思い知らされることになった。
アルベルトもシュゼインも当たり前にまだクロッカがシュゼインを想っていると考えていたのだ。
クロッカはお昼休みの終わり頃、友人と教室に向かっていた。
前から歩いてくる人影が自分を見ている気がして、とても嫌な予感がしていた。
「ハイランス嬢、私にお時間をいただけないだろうか」
クロッカの予感は当たってしまった。
クロッカに話しかけてきたのはグレーの柔らかい髪をふわりと靡かせたシュゼインだった。
声をかけられた瞬間に顔がつい引き攣ったのが分かる。
しくじってしまったと気を取り直して顔を作る。
弱みは見せてはいけない。それは幼い頃から教えられる淑女教育の処世術だった。
「ワーデン卿、もう午後の授業が始まります。生憎あげられる時間はないようですわ。それに、婚約者のいる身、いくらその息子だからといって男性と2人きりになるわけにはいきませんわ。手短に済む話でしたら、ここでお伺いいたしますが」
扇を出すまでもない。にっこりと口元を上げ、目尻を少し下げればいいだけ。
隣の友人をチラリと見ると、同じような表情をして反応を見るようにクロッカを見た。
「では授業が終わった後に別館の2階のサロンで話そう。そこなら夕方でも侍女がいるだろう」
言い終わると同時にシュゼインは去ろうとする。
「お待ちになって!私には話はありません。サロンへは参りません」
クロッカは急いで声をかけて断ったのだが、その声を聞いたシュゼインは向き直ってクロッカの手を取った。
「なら強引にでも」と言いながらクロッカの歩いてきた道へそのまま引っ張られる。
手が伸びてきた瞬間かわそうとしたのだが反応するのが遅れてしまった。
「先に教室へ行っているわね!」
クロッカの顔は嫌そうだったが、助けは求めていなさそうだと判断したらしくクロッカの友人は手を振るのみだった。
「ちょっと…」表情を崩したまま友人を見るがどんどん距離が空いてしまう。
どうしてワーデン家の男たちはこんなにも強引なのだろうかと呆れるしかない。
「手が痛いわ。離してちょうだい」
そう言ってもシュゼインはキツく手首を掴んだまま離さなかった。
すれ違う人の目線が痛かった。
ハイランス本家から手紙が届き、婚約破棄の条件を決めるのにワーデン家と話し合うことになる。
まだ恐らく時間はかかる。
クロッカは迷った結果暫くは学園に通うことにした。
知識は自らを裏切る事はない。
さらに討論大会の日程が近く、既にパネリストとしても指名されていたので迷惑をかけるというのも大きな理由だった。
そして、アルベルトも行動を起こしていた。
シュゼインを呼び立て、婚約は破棄され、クロッカは修道院へ行くつもりだと説明をした。
シュゼインはアルベルトとクロッカの結婚は揺るがないものだと考えていた。全ての条件が揃う時に向かって努力をしていたつもりだったが、それは先延ばしに過ぎなかったと思い知らされることになった。
アルベルトもシュゼインも当たり前にまだクロッカがシュゼインを想っていると考えていたのだ。
クロッカはお昼休みの終わり頃、友人と教室に向かっていた。
前から歩いてくる人影が自分を見ている気がして、とても嫌な予感がしていた。
「ハイランス嬢、私にお時間をいただけないだろうか」
クロッカの予感は当たってしまった。
クロッカに話しかけてきたのはグレーの柔らかい髪をふわりと靡かせたシュゼインだった。
声をかけられた瞬間に顔がつい引き攣ったのが分かる。
しくじってしまったと気を取り直して顔を作る。
弱みは見せてはいけない。それは幼い頃から教えられる淑女教育の処世術だった。
「ワーデン卿、もう午後の授業が始まります。生憎あげられる時間はないようですわ。それに、婚約者のいる身、いくらその息子だからといって男性と2人きりになるわけにはいきませんわ。手短に済む話でしたら、ここでお伺いいたしますが」
扇を出すまでもない。にっこりと口元を上げ、目尻を少し下げればいいだけ。
隣の友人をチラリと見ると、同じような表情をして反応を見るようにクロッカを見た。
「では授業が終わった後に別館の2階のサロンで話そう。そこなら夕方でも侍女がいるだろう」
言い終わると同時にシュゼインは去ろうとする。
「お待ちになって!私には話はありません。サロンへは参りません」
クロッカは急いで声をかけて断ったのだが、その声を聞いたシュゼインは向き直ってクロッカの手を取った。
「なら強引にでも」と言いながらクロッカの歩いてきた道へそのまま引っ張られる。
手が伸びてきた瞬間かわそうとしたのだが反応するのが遅れてしまった。
「先に教室へ行っているわね!」
クロッカの顔は嫌そうだったが、助けは求めていなさそうだと判断したらしくクロッカの友人は手を振るのみだった。
「ちょっと…」表情を崩したまま友人を見るがどんどん距離が空いてしまう。
どうしてワーデン家の男たちはこんなにも強引なのだろうかと呆れるしかない。
「手が痛いわ。離してちょうだい」
そう言ってもシュゼインはキツく手首を掴んだまま離さなかった。
すれ違う人の目線が痛かった。
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