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歳の差

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アルベルトは屋敷へ戻ると、すぐにコンラトを執務室に呼んだ。
部屋の奥に置かれた真新しい机はまだ美しい光沢を纏っていた。


「シュゼインはどうしている」


「夜会などには頻繁に出ていますが、特に動きはありません」


「クロッカには昔から苦労させられる。勝てる勝負だと思っていたんだが…」


アルベルトはステファニーの妊娠が発覚した際、ある賭けにでていた。
勝てない勝負をする趣味はない。
手応えを感じたからこそ賭けにでたのだが、賭けに負けたとしてもフォローができると思っていた。
今はそれすらも握りつぶされそうだ。

 
「人の心というのは複雑なものですからね」


今回ばかりは複雑では困るのだが…


ふとイリア・ロベールの言葉がよぎる。

 



『シュゼインの為にアルベルトが娶るのかと思っていたわ』




今思えば彼女の勘違いこそが最善策だった。
いや、今のシュゼインならともなく、あの時のシュゼインがそれを受け入れたはずがないか…
過去取った手段に対しても最善策が他になかったのかと考えてしまうのは悪い癖だ。




他を殴り捨ててでも奪わなければ手に入らないものは確かにある。
彼はそれに気付いたはずなのだがすぐに動こうとはしなかった。
アルベルトにとってそれは誤算だった。
そもそもこんなにも長期戦になるとは思ってもいなかったのだ。


今日、クロッカに能面のような無表情を貼りつけさせたのは紛れもない自分だ。
あの顔が頭から離れない。




クロッカの幼少期は天真爛漫で活発だった。
一つ歳の離れた弟とエドレッドの後ろをついて回ったかと思えばいつの間にかアルベルトの滞在する客室に潜り込んできたり、落ちている葉っぱをじっと見ていたり、かと思えば屋敷の壁を遊具のようにして登り出したり、弟と遊んでいたからかもしれないが、シュゼインよりも好奇心旺盛な子だった。


淑女教育に呼ばれれば、庭でごろんと寝転んでいた子が背筋を伸ばし机に向かう。
目つきすら変わる彼女を見て、木登りまでする少女とは思わないことだろう。
要領の良さとやるべき事を理解する賢さと忍耐強さ。
5歳にしてはとてもしっかりした女の子だった。
甘えん坊で気弱なシュゼインとは真逆と言っていい。


特に本心を隠す事はとても上手かった。
怒りに震えながらもそれを笑顔で隠すことのできる彼女。

嘘をつくのはとても上手かったし、本当に隠したいと思えば、表情や行動から悟らせるような事もしなかった。


その彼女が無表情でいたという事は、抱え込めないほどの感情を、見せる価値も隠す価値もない人間だと判断されたということ。


きっとアルベルトとの婚約破棄はハイランス家から正式に言い渡されることになるだろう。
だがエドレッドは修道院へは行かせたくないはずなので、暫く時間はあるはずだ。



シュゼインが結局は他の何もかも捨ててクロッカを選ぶと思っていた。
もしもシュゼインがクロッカを選ばないなら、そのままアルベルトが結婚する。しかしそうはならないだろうと思っていた。


クロッカを不幸にしたくない。
しかし結局は彼女を傷付けている今をどうにかしなければ、1番最悪な形でクロッカを失ってしまうことになる。


アルベルトはこの難題にもう2年間頭を悩ましていた。
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