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友人
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ジャクリーンとは婚約してからも結婚してからも友人のようだったが、熱い感情はなくても確かに絆というものを感じていた。
初恋のカリーナを忘れてはいなかったが、ジャクリーンはイリアにもしっかりと愛を注いでいたと思う。
それは友愛だったかもしれない。それでも一つの夫婦の形としてはとてもいいものだった。
カリーナへの想いを大切にしまっている彼ごと好きになったのだから不満は全くなかった。
彼がカリーナの変わりとして扱う事が無かったのもイリアにとっては幸運だった。
子供にも恵まれ、イリア・ロベールとして名を上げていくと、社交の場へ足を運ばなくても世間的にも許されるようになった。
理想的な結婚生活と言っていいほどイリアの望むものがアウストリア家には揃っていた。
狡い方法でジャクリーンを手に入れた罰は、カリーナが亡くなったという知らせと共にドアを叩いてきた。
「あなた、本当なの?カリーナに何が?」
突然の知らせに、亡くなったという言葉がグルグルと頭を回り、受け入れることは出来なかった。
ジャクリーンの執務室に行くと、ジャクリーンも知らせの手紙を片手に口を開け、呆然としていた。
「あなた、しっかりして。それがワーデン家からの手紙なのね?私にも見せて」
半ば奪い取るようにして手紙を確かめると、風邪を拗らせて亡くなり、明日葬儀を行う事が簡単に書かれていた。
「ワーデン領で行うならすぐに出ないと明日の葬儀に間に合わないわ。あなた、急いで支度しましょう。1時間後にはここを出るわよ」
口を開くことも出来ないジャクリーンの肩を揺らしながらイリアは必死に時間の計算をしていた。肩に添えた指が震える。
なぜ。どうして。そう思いながらも悲しみに浸る時間はなかった。
娘2人は乳母に任せることにして、侍女を1人だけ連れていくことにし、馬車に乗り込んだ。
アウストリア家からでは王都に着くにも馬車では夜中になる。こんな時ばかりは距離がもどかしい。もっと近くにいられたらすぐに飛んでいけるのにと、考えても仕方のないことが頭を過ぎていた。
一報を聞いただけではジャクリーンもイリアも受け入れられていなかった。
「あぁ、本当に亡くなってしまったのかもしれない」
イリアがそう呟いたのは、教会へ道に続く馬車の列。その横を棺に手を掛けたアルベルトが通り過ぎて行くのが見えた。
アルベルトの顔を見たのは何年ぶりだろうか。
目覚しい活躍の裏で、彼の私生活はあってないようなものだった。
顔色の悪いアルベルトを視界に入れた後では、現実に打ちのめされる。
「あなた、馬車を降りて歩いて向かいましょう」
同じように窓の外に視界をやっているジャクリーンに声を掛ける。
昨日からまともな会話はしていない。
それほど2人にとって衝撃の知らせだったのだ。
教会へ着くと、広い教会の中は人が溢れかえっていた。
ジャクリーンと共に祭壇の前に置かれたラタンの前に立った。
親族でないため顔を見ることはできない。
この中に本当にカリーナが眠っているのかと疑ってしまう。
隣のジャクリーンの腕に縋るようにして立ちすくむしかなかった。
段々とカリーナは本当に死んだのだと理解し始めると、涙が次から次へと流れてくる。
あまりの集まった人の多さに遅れて始まることになった式は、同じように啜り泣く者で溢れかえった。
彼女はこんなにも愛されていた人だったのかと改めて実感し、私だけの大切な友人ではないのだと思い知らされもした最後だった。
初恋のカリーナを忘れてはいなかったが、ジャクリーンはイリアにもしっかりと愛を注いでいたと思う。
それは友愛だったかもしれない。それでも一つの夫婦の形としてはとてもいいものだった。
カリーナへの想いを大切にしまっている彼ごと好きになったのだから不満は全くなかった。
彼がカリーナの変わりとして扱う事が無かったのもイリアにとっては幸運だった。
子供にも恵まれ、イリア・ロベールとして名を上げていくと、社交の場へ足を運ばなくても世間的にも許されるようになった。
理想的な結婚生活と言っていいほどイリアの望むものがアウストリア家には揃っていた。
狡い方法でジャクリーンを手に入れた罰は、カリーナが亡くなったという知らせと共にドアを叩いてきた。
「あなた、本当なの?カリーナに何が?」
突然の知らせに、亡くなったという言葉がグルグルと頭を回り、受け入れることは出来なかった。
ジャクリーンの執務室に行くと、ジャクリーンも知らせの手紙を片手に口を開け、呆然としていた。
「あなた、しっかりして。それがワーデン家からの手紙なのね?私にも見せて」
半ば奪い取るようにして手紙を確かめると、風邪を拗らせて亡くなり、明日葬儀を行う事が簡単に書かれていた。
「ワーデン領で行うならすぐに出ないと明日の葬儀に間に合わないわ。あなた、急いで支度しましょう。1時間後にはここを出るわよ」
口を開くことも出来ないジャクリーンの肩を揺らしながらイリアは必死に時間の計算をしていた。肩に添えた指が震える。
なぜ。どうして。そう思いながらも悲しみに浸る時間はなかった。
娘2人は乳母に任せることにして、侍女を1人だけ連れていくことにし、馬車に乗り込んだ。
アウストリア家からでは王都に着くにも馬車では夜中になる。こんな時ばかりは距離がもどかしい。もっと近くにいられたらすぐに飛んでいけるのにと、考えても仕方のないことが頭を過ぎていた。
一報を聞いただけではジャクリーンもイリアも受け入れられていなかった。
「あぁ、本当に亡くなってしまったのかもしれない」
イリアがそう呟いたのは、教会へ道に続く馬車の列。その横を棺に手を掛けたアルベルトが通り過ぎて行くのが見えた。
アルベルトの顔を見たのは何年ぶりだろうか。
目覚しい活躍の裏で、彼の私生活はあってないようなものだった。
顔色の悪いアルベルトを視界に入れた後では、現実に打ちのめされる。
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