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「さて、流石に学園内は無理だが、望まないならこの先ずっとシュゼインと会わずに過ごすことは簡単だ。婚姻を結ぶのは君の卒業と同時。その時彼は伯爵家を継ぎ、私は官職に専念する。すぐに王都に別の屋敷を用意しよう。婚約期間もそちらへくればシュゼインとは顔を合わせることはない。それから、今は娘のようにしか見れていないが、結婚するまでは2年あるじゃないか。ゆっくり別の立場の人物だと認識して行けばいい。お互いに愛する努力をしよう」



「おじ様は…おば様を忘れられるというの?別の女を考える男の隣に座らされる事に、侮辱を感じない者はいないわ」


クロッカは幼い頃からの呼び方を自然としてしまった。
愛する努力をしてくれる。その言葉だけでも救われたような気がした。
シュゼインがいないこともあって、張り詰めていたものが少しだけ緩んだのかもしれない。



「カリーナのことを忘れる事はできない。しかし、誰もカリーナの代わりにはなり得ないし、私も求めてはいない。ハイランス嬢を1人の女性として接する事はそれ程難しいことでは無いと思っているよ。きっと私は君を愛せる。試してみるかい?」


扉の前にいるアルベルトと、ソファの前に立つクロッカ。
立ち上がっているのは2人だけだった。
クロッカの目の前まで来ると、アルベルトはクロッカの腰に手を回し、ピッタリと体がくっつくほどに引き寄せ抱きしめる。
クロッカは抱きしめられたことに小さく抵抗していた。



「心配しなくても、私は君を全力で口説き落とすよ。君がもう可愛いだけの天使じゃないことは理解している。クロッカ。君を誰にも渡したく無いんだ。私と結婚してくれ」


彼が彼女の耳元で説き伏せるように囁き、そしてその耳をペロリと舐めるとびくりと仰け反る。
しかし腰に回された腕が離れていくことを許さない。



「クロッカ、良い返事を聞くまで離さないけど、どうする?」


動かなくなったクロッカは耳まで赤くしていた。
もちろんアルベルトもそれには気付いている。
それでも返事をしないのでクロッカの緩く巻かれている髪をクルクルと片手の指に巻きつけて遊びだす。



「クロッカ、もう諦めたらどうだ」



すぐ横から忘れていた存在から声をかけられもう一度びくりとクロッカの体が弾んだ。
後から応接室に戻ってきた為に、ドアに近いクロッカの隣に座っていたエドレッド。

目の前で繰り広げられている友人とも言えるアルベルトが、自分の娘を抱き寄せて口説いているところを見せられ気不味そうにポリポリと頭を描いた。


「そんなの…ずるいわ…」



「君の未来の旦那はそういう男だよ。私を男として見れない訳じゃ無いことも、君の赤い耳を見れば分かる。君の答えはもう一つしかないよ。答えてくれるね?」


諦めの悪いクロッカにトドメの一撃とばかりにアルベルトは腕の力を込める。
力を込められると、自分の心臓の音が聞こえているのでは無いかと思うほどドクドクと動いているのを感じる。



議会とはパフォーマンスの場である。
いかに自分の考えが正しく、有効性があり、自分の考えを裏付ける証拠を提示し、賛同を得なければならない。
たとえ推しの弱い情報しか手元になくても、同意せざるを得ない流れを作る。
そして、それをする為には隙を与えず、自分の考えに自信を持てるだけの事前準備を要する。
一度でも間違いは許されない。
それが議会。

そこを勝ち抜けてきたこの男相手では、到底クロッカの及ぶところではなかった。




「お受けいたします」
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