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女神
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あの恐怖すら感じた事件から4ヶ月が経とうとしていた。
特にあの事件のことでアウストリア家からの文もなく、アトリエからは、アウストリア家がドレスの金を払ったと聞いていた。
特にこちらから言うべきこともないし、関わることもしたくなかったので、アトリエには向こうの申し出通りで構わないと返事を出していた。
実に平和だったと思う。クロッカと街へ出かけたり、友人とチェスの腕を競ったり、ほとんどあのパーティのことは忘れていた。
クラスのシュゼインのボックスに、見慣れない封筒が紛れ込んでいた。
すっかり気の緩んでいたシュゼインだったが、ステファニーの名前が刻まれているのを見ると破るようにして中を確かめた。
妊娠してしまい、あなたとの結婚を画策していた父にバレてしまいそうです。
ごめんなさい。
メッセージカードに小さな文字で書かれた内容に、頭上から雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
何もなかったと信じていた。
いや、信じていたかった。
その日、シュゼインは早退した。
すぐに領地に戻り父に報告するべきだと考えていた。
不意に訪れた本当の結末に頭を抱え、馬車に揺られることになった。
思考がバラバラとして、頭の中まで揺さぶられているのではないかと感じる。
もう一度封筒を確認する。
当主から送られるものより簡素な文様のように見えたが、たしかにアウストリア家の封蝋印だった。
彼女がいつも使っているものなのだろう。
血よりも深い深紅の封蝋がくっつけていただろう場所は、派手に色を残していた。
その下に、ステファニー・アウストリアと描き慣れているであろう美しい文字で刻まれている。
そして、メッセージカードにも目を落とす。
最後に見た、目を左右に揺すって俯く姿が思い浮かぶ。
たった3行の小さな文字に彼女の想いが乗っかったようだった。
本意ではないと言いたいのか…
責めたいが何故か責めきれない。
自分にも落ち度はあるが、原因を作った者に何故こんなにも庇いたい気持ちが生まれるのか不思議だった。
目を瞑れば楽しそうに笑うクロッカが浮かぶ。
綺麗な金色の髪は光に透けるとダイヤのように輝き、透き通るブルーの瞳は濃くも薄くも見えて幻想的だ。
その目が笑うと弧を描くように細まり想像するだけで幸せな気分に浸れる。
彼女を失うのかと思うと心が痛い。
何とかならないのか。必死に策を練る。
しかし相手は公爵家、どうにもならない。
一番いい結果だと思っていたものが、一番最悪の結果だった。もう、どうにもならないのだ。
結婚するしかないだろう。せめて、こちらから言い出すべきだと考えた。
それでもまだ、クロッカを諦めることは出来なかった。
特にあの事件のことでアウストリア家からの文もなく、アトリエからは、アウストリア家がドレスの金を払ったと聞いていた。
特にこちらから言うべきこともないし、関わることもしたくなかったので、アトリエには向こうの申し出通りで構わないと返事を出していた。
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すっかり気の緩んでいたシュゼインだったが、ステファニーの名前が刻まれているのを見ると破るようにして中を確かめた。
妊娠してしまい、あなたとの結婚を画策していた父にバレてしまいそうです。
ごめんなさい。
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思考がバラバラとして、頭の中まで揺さぶられているのではないかと感じる。
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彼女がいつも使っているものなのだろう。
血よりも深い深紅の封蝋がくっつけていただろう場所は、派手に色を残していた。
その下に、ステファニー・アウストリアと描き慣れているであろう美しい文字で刻まれている。
そして、メッセージカードにも目を落とす。
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それでもまだ、クロッカを諦めることは出来なかった。
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