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「シュゼイン。大丈夫か?起きられるか?」



肩を揺すられると頭の奥を握り締められるように痛む。
何が起きたのかと目の前のものに焦点を合わせると、ルーカスだった。



「フィリップは先に帰らせたよ。馬車も待機させているけど気分はどうだい?」



「頭が痛いが大丈夫だ。どのくらい時間が経った?」



目まで痛いのではないかと感じるほど頭の奥が痛い。
あのまま眠ってしまったのだろう。
いや、気を失っていたのかもしれない。



「僕が話を聞いてからは1時間ほどだ。もう少し休んでいたほうがいいかな。ちょっと伝えてくる。あ、横に置いてある水は安全だからよかったら飲んで」



少し小柄な彼がシュゼインの奥を指さすようにしながら部屋を出た。
扉が閉まると物音ひとつしない静かな部屋だった。
シュゼインはグラスの水を半分ほど口に入れると再び横になることにした。


見上げた天井は天使の羽のように白かった。
ふと、ルーカスの言葉が頭を巡る。
。彼は何かを知っていると思った。
自分の身に何が起こったのか早く知りたいと焦る。
いつの間にか被せられていた布団を握りしめていた。




ふと、そういえばアウストリア嬢はどうしたのかと思い出す。
ハッと被っていた布団を広げ体を起こした。


「グッ…」



頭が殴られているかのように痛む。
服は着ていると確認だけして再びゆっくりと布団に身を任せた。
この部屋に来るまでの会話を思い出すが、彼女も自身の醜聞にならないよう配慮していたと思う。
彼女ではないか…
もしこの不調が毒ならば彼女かと思ったのだが、疑って申し訳なかったと思う。


では何か…記憶の中に不審なものはない。
他の者の手から受け取ったのはアウストリア嬢のグラスしかない。しかし、並べられたテーブルの手前のものを取ったところも確認したはずだ。


では先ほどのルーカスの言葉は一体…
答えが出ないがフィリップスと入場した時からの記憶を追い始めたところで、コンコンとノックの音がした。


返事を待たずに開かれた隙間から、同級生にしては童顔なルーカスが覗き込んだ。


「そこまで遅い時間でもないし、君のところの馬車も待たせることにしたよ。水も飲んだようだけど、気分はどう?」



茶色い目をパチクリと瞬かせてからシュゼインの方へ歩みを進めると、サイドテーブルに備え付けられた椅子をベッドの横へ運び、そこへ腰掛けた。



「横になっていれば大丈夫そうだ。ルーカス、俺が眠ってから何があったか分かるか?」




まるで腰を落ち着かせる為だけに座ったかのように上体を前傾させて浅く座っていたルーカスが、少しだけ口を歪めるのが分かった。
考えていたように、いい話は聞けそうにないと察するには充分な反応だった。



「まず、うちの執事の話では、ここに君を連れて来た後、水を持ってきたらしい。しかし、起きる気配はなく、ドレスも汚れてしまったから迎えが来るまで動けないと言う女性に任せて、女性に言われた通りドアは閉めずに僕に話を通すために部屋を出たと言っていた。念のためもう一度部屋に戻ろうとしたところ、部屋の扉が閉まっていて、ノックをしても応答がなかったため、指示を受けるために僕にもう一度声を掛けてきた。僕と執事が部屋に入ると、君は1人で寝ていた。そんな感じだ」



シュゼインはもう一度下を見るような視線を送り、服は着ていたと再び考えていた。



「ちなみに、僕が部屋に入った時、君は服は着ていたけど、ベルトはしまっていなかった。トラウザーズはボタンは外れていたし、シャツも出ていたよ。これは不味いのではないかと思い、形だけ整えて布団を被せてから医師を呼んだんだ。慌ててたから馬乗りになってしまったよ。ごめんね」



シュゼインの視線を感じ取ったように付け加えるルーカスの言葉を聞いて青ざめるしかなかった。
手で目を覆うようにして項垂れる。
目の前に広がる天使の羽根が、シュゼインを睨みつけているかのように思えた。




「慌ててたから後から思ったんだけど、時間的に言えばごく短時間だったと思う。可能かどうかは分からないけど……未遂なのではないかな?」



「そう思うか?」



間髪入れずに問うと、ルーカスは目を逸らし、シュゼインは無責任な言葉に睨みつけるようにルーカスを見ていた。




「まぁ…僕だったら未遂とは…仮定しておかないかな…」




医師の見立てによると、幻覚作用のある薬物を使用されたのではないかということだった。
シュゼインには身体に合わないような薬だったのだろうと。
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