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策略

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丁寧に応接室に通され、和やかに話は進んでいた。
カリーナは父親に似ているようだった。
髪の色こそ深いアッシュだが、長いまつ毛にはっきりとした目鼻立ち、なにより口元の笑窪が彼女を連想させた。


「ところで、婚約期間を設けないということでしたが、急ぐ理由を聞いても構いませんか?」


王家からの推薦状がひっかかっているのだろう。控えめに訪ねてくるローランドに、アルベルトは背筋はきっちりと伸ばしていながらも少し申し訳なさそうに顔を崩していた。



「どこも同じかと思うのですが、アルベルトには昨年から縁談が多く寄せられており、伯爵家という立場から男爵家から公爵家まで幅も広く、断れない立場だからこそ断ることが出来ているという現状でして、さらに特進科へと進むと伯爵家を継ぐのではなく官僚として身を立てるのではないかと噂されているようでして、さらに縁談が増えておりました」



ベルナルドが話し出すとローランドは顔を顰める事となった。
カリーナからは伯爵家の長男だと聞いていたからだ。
ワーデン家なら安定した税収と、領民からの信頼が高いのでうまくやっていけると思っていたのだが、彼は特進科へと進んだ。それはどういうことなのかと考えて、なるほどと推薦状と結びついた。それが王命なのかと思い至った。



「殿下も婚約者を決められ、カリーナの元へも縁談は止まりません。ご苦労はお察しいたします。しかし、特進科に進んでは伯爵家はどうされる予定なのですか?王家からの官職への指名があったということでしょう。」


ワーデン家に息子が1人しかいないことは知っていた。
養子でもとるのか、子が増える予定があるのかどちらかだろう。しかしそれがうまくいかなければ、当然アルベルトにも負担がかかってくる。それはカリーナにも当然影響するだろう。



「伯爵家の爵位は私が引き継ぎます。官職と爵位を同時に保持し、邁進してまいりたいと思っています。これは王家からの提案でもあります。卒業後は同時に爵位も継ぎ、官職と並行して領地運営に励むことになります。領地と王都の往復で忙しいと思いますが、幸いにも数刻で着く距離に領地の屋敷はありますし、王都にも屋敷があります。自由に使える秘書が2人出来るということなので、何とかなるかと。カリーナには子ができれば領地に残って貰いたいと考えていますが、それまでは王都と行き来することも楽しめるでしょう。子が学園を卒業する時に爵位を渡し、私は官職に専念する予定です。」



思ってもいなかったことにローランドは目を瞬かせた。
アルベルトが官職に上がれば騒がしくなるだろう。待遇からして補佐官いや、将来的には大臣、宰相も視野に入れての指名だろうと推察される。
目の前の学生に、それほどの期待の目が向けられているということに動揺を隠せない。
危険ではないのか。ふと宮廷内の勢力図を思い浮かべる。ラースロー家は保守派として動いているが、近年内務大臣を中心に改革派が暗躍し始めていた。
侯爵家としては伝統を重んじることに賛成して保守派を支援していたが、改革派の言うことも理解できる部分も多かった。アルベルトがどちらの派閥に取り込まれるのかはとても重要なことだった。




「それはとても名誉なこと、大変なことと思いますが、カリーナでは役不足ではありませんか?情勢を考えれば派閥争いに巻き込まれることもあるでしょう。娘がうまく立ち回れるか少々不安が残りますが…」



ラースローが指摘することはアルベルトが懸念していることでもあった。ラースローがここに来て逃げ腰なのがアルベルトにもベルナルドにも分かった。
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