クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

文字の大きさ
上 下
29 / 130
策略

2

しおりを挟む
「まぁそれは分からんが、その価値があるとされているのだから、それなりのポジションが用意されるということだろう。まだ学園に入学したばかりだ。可能なら特進科へ進んで学んでほしいということで推薦状が来ている。家のことはどうにかなる。私もまだ若いし、表でもやらなければいけないことはたくさんある。お前が継がないのは残念だが、養子を取るのが現実的だ。後はこの条件を出された上で断ることも、もちろん出来るだろう。どうする?」



「特進科へは進むことにします。しかし、答えを出すのは卒業する歳まで待ってもらいましょう。今はまだ学園に入ったばかり。卒業するまでに状況が変わることもあるはずです。その時に今出す結論に悩むことはしたくありませんし、あちらもすぐに答えを求めるようなものではないので了承するでしょう。そのようにお伝え願いますか?」



あわよくばこの話が立ち消えればいいという考えがなかったわけではない。がその考えは甘いだろうともきちんと考えていた。

用意されるポジションも不明であるため容易に受けるわけにもいかない。
こちらとしてもその条件を持ってしても簡単には頷ける話ではないことを示しておくには保留が一番いい方法だと考えたのだ。
母もまだ若く、子を産めない歳ではないことも望みだった。


取り敢えず特進科には進んで学ぶから、答えは期待せずに待っていてくれ。


それがアルベルトの出した答えの直訳だ。
気付いて撤回してして欲しいと言う本意が伝わるだろう。



次の週の半ば、特進科への推薦状が王家から届いた。
学園から優秀者が選出され、王家が家柄や身辺調査をする。王宮へ勤める前には必ず通る道だ。
問題がなければ王家から特進科への推薦状が送られ、学園に提出すれば特進科へ転科となる。

少し憂鬱ではあったが、特進科で学ぶだろう専門的な国の知識や隣国の情報には興味があった。
特進科への転科と言っても、一年生では初めての推薦状の発行だったので、全員が同じタイミングで特進科へ入ることになる。苦労をすることはないだろう。
この話が来たのが今年だったのはまだ運が良かったのかもしれない。

父からも答えは待ってもらえるというを聞いていたため安心して招待状を学園に提出をした。






「アルベルト、君なんで特進科へ行くんだ?伯爵家の後継は君だろう?」



転科者が発表されると、ベレンガリアは一番に声をかけてきた。
若干呆れたのだが、ベレンガリアもまだ後継者の1人として帝王学を学んでいる身、全ての情報が手に入るわけではないだろう。


「王家からの打診とだけ伝えておく」


あとは自分で調べてくれと暗に仄めかした。



「誰かに先を越されたのか。チッそれが叶うなら君を側近にしたかったのは俺の方なのに」



行儀悪く舌打ちをしたような気がしたが、その美しい口からそんな音が聞こえるわけがないとばかりに周りは聞き流していた。
婚約したばかりのベレンガリアの婚約者には見せられない場面だった。



往々にしてこの世は早い者勝ちの世界である。行動を起こさないということは諦めていることと変わらない。
行動を起こしたもののみが手に入れられる物は確かにあった。



「妨害してくれるのなら喜んで」



ベレンガリアだけに聞こえるくらい声をボリュームを落として呟くと、彼はニカッと笑った。
アルベルトの机に両手を付き顔を近付けると、女でも口説くように耳元で囁く。



「では、その時が来たら掻っ攫うとしよう」



そうではない…と伝えたが、ベレンガリアはもう聞く耳を持たなかった。




もちろんベレンガリアも特進科へと一緒に転科することとなる。
恐れ多くも、アルベルトにとって気の許せる友人の1人だった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...