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カタクリ
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「ラースロー家といえば、陶器が有名なイディルも領地の一部だったかな。イディルの食器は私の家でも好んで使っています。その侯爵家の御令嬢だったとは失礼致しました」
花でも咲いたかのように笑みを浮かべる様は、申し訳ないと口にしたような表情には見えない。
カリーナもその口調を気にしている風でもないので、表面上での謝罪位がちょうど良かったのかもしれない。
だが、その判断を誤れば、不敬と受け取られてもおかしくないことだった。
「いえ、構いませんのよ。私堅苦しいのは好きではありませんの。どうぞ先程のようにお話しくださいませ。イディルのものを使っていただいているのはこちらとしても光栄ですわ。…それで、アルベルト様はどうなさったのです?」
形通りの一通りの挨拶がこれで終わったと思い、気になっていた本題へ入るよう促す。
アルベルトの紺色の瞳は夜空のように綺麗で、湧き出す感情を淑女教育でも抑えきれないとばかりに悲鳴をあげている。
女性が殿方の目を直接見つめる事は、はしたないとされていたのだが、先程から彼は迷いなくカリーナを見ていた。
ついついその目を見てしまいたくなるのは、人間ならば当然のことで、それが心を寄せる相手ならばその目を捉えたいと思うのも決まりきったことだ。
「いえ、今から教室に向かわれるなら、その重たそうな荷物を持ちましょうか?」
砕けた言い方で構わないと言われても、アルベルトは口調を戻さなかった。カリーナがそうだったからかもしれない。
カリーナは自分の紙袋へと視線を落とす。
彼女の長いまつ毛がふわりと瞼の動きに合わせて下を向いた。
頭だけが目まぐるしくぐるぐると思考を巡らせていた。
一瞬だったと思うのだが、頭だけはダダダダダと計算でもするかのように動いていて、世界の時間軸から外れていたかのように思えた。
「ふふふっアルベルト様は、これを招待状だと分かっていらっしゃるのでしょう?私、試されているのかしら?」
不正を防ぐために時間を使って大変な作業をしたのだ。
それをいくら他のクラスの代表者だとしても自らの手から離すことなど許されないだろう。
その瞬間、この仕事に責任を持てなくなってしまう。
彼もまたそんなことは分かっているだろうと思っていたのだが、彼の行動は理解に苦しむ。
そういえば、なぜ今まで接点もなく遠くから眺めるだけだった彼と、こうして話しているのか。
もしかしたら、この招待状を狙っていたのか。なぜ優秀な彼がそんなことを?
笑窪が覗き込む笑みの下で、彼女はアルベルトを警戒していた。
先程まで感じていた幸福に影が落ちていた。
花でも咲いたかのように笑みを浮かべる様は、申し訳ないと口にしたような表情には見えない。
カリーナもその口調を気にしている風でもないので、表面上での謝罪位がちょうど良かったのかもしれない。
だが、その判断を誤れば、不敬と受け取られてもおかしくないことだった。
「いえ、構いませんのよ。私堅苦しいのは好きではありませんの。どうぞ先程のようにお話しくださいませ。イディルのものを使っていただいているのはこちらとしても光栄ですわ。…それで、アルベルト様はどうなさったのです?」
形通りの一通りの挨拶がこれで終わったと思い、気になっていた本題へ入るよう促す。
アルベルトの紺色の瞳は夜空のように綺麗で、湧き出す感情を淑女教育でも抑えきれないとばかりに悲鳴をあげている。
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ついついその目を見てしまいたくなるのは、人間ならば当然のことで、それが心を寄せる相手ならばその目を捉えたいと思うのも決まりきったことだ。
「いえ、今から教室に向かわれるなら、その重たそうな荷物を持ちましょうか?」
砕けた言い方で構わないと言われても、アルベルトは口調を戻さなかった。カリーナがそうだったからかもしれない。
カリーナは自分の紙袋へと視線を落とす。
彼女の長いまつ毛がふわりと瞼の動きに合わせて下を向いた。
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一瞬だったと思うのだが、頭だけはダダダダダと計算でもするかのように動いていて、世界の時間軸から外れていたかのように思えた。
「ふふふっアルベルト様は、これを招待状だと分かっていらっしゃるのでしょう?私、試されているのかしら?」
不正を防ぐために時間を使って大変な作業をしたのだ。
それをいくら他のクラスの代表者だとしても自らの手から離すことなど許されないだろう。
その瞬間、この仕事に責任を持てなくなってしまう。
彼もまたそんなことは分かっているだろうと思っていたのだが、彼の行動は理解に苦しむ。
そういえば、なぜ今まで接点もなく遠くから眺めるだけだった彼と、こうして話しているのか。
もしかしたら、この招待状を狙っていたのか。なぜ優秀な彼がそんなことを?
笑窪が覗き込む笑みの下で、彼女はアルベルトを警戒していた。
先程まで感じていた幸福に影が落ちていた。
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