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別れ
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侍女が気を遣って、地面に小さめの絨毯を引くと、シュゼインをその上に座らせ、軽食と菓子の入った籠を絨毯の上に置いた。
アルベルトに声をかけることはその場の誰にも出来なかった。誰に言われることもなく、話しかけるべきではないとそれぞれが判断したのだった。
もう闇が迫る時刻、本来はここに長くいるべきではないのだが、やっと当主の荷を下ろされたばかりのアルベルトに帰宅を強いることは憚られた。
侍女に促されるようにパンを持ったシュゼインは、機械的に口へ運んだが、表情は暗く疲れ切っていた。
日中は日が当たれば暑さを感じるほどだったが、日が落ちると肌寒さを感じ始めていた。侍女たちは交代で屋敷とへ帰り休憩していた。
侍女が大きな毛布をシュゼインを包むように掛ける。そしてようやくアルベルトにも声を掛けて毛布を渡した。
絨毯の上には眩しくないように光を絞ったランタンが置かれ、その場に残る遠巻きに控える使用人がランタンのみで存在を主張していた。
「暗くなってしまったな」
今気がついたように呟いてアルベルトは毛布にくるまったシュゼインの元に重い足取りで歩き始めた。
「もう帰るか?」
アルベルトはシュゼインを目線を合わせるようにしゃがみ込み顔を見る。
黒い空の中に、沈んでいったばかりの太陽を忘れられないオレンジの雲が、闇を燃やすように居座っていたが、西の空の果てさえも夜に押し負け始めていた。
シュゼインは父の思いを汲んだように顔を横に振った。
あの天災から、カリーナとは前のように一緒にいることは出来なかった。それは2人に言えた事だった。
「今日まではわがままも許される。私ももう少しここにいたいと思っていた」
シュゼインが帰ると言えば、アルベルトは潮時とばかりに屋敷に戻っただろう。
しかし、夕暮れのピクニックを2人は選んだ。
コンラトと護衛2人を残すことにし、後のものを屋敷に戻した。些か遅い指示ではあったが、コンラトが的確に休憩などのカバーをしており、不満に思っている者はいなかった。それどころか2人を心配し、もう少しここで待機したいと申し出た者もいたが、コンラトがそれを是としなかった。この夜が長くなる事を勘づいていたような判断だった。
その夜、毛布にくるまった2つの影が消えることはなかった。
アルベルトに声をかけることはその場の誰にも出来なかった。誰に言われることもなく、話しかけるべきではないとそれぞれが判断したのだった。
もう闇が迫る時刻、本来はここに長くいるべきではないのだが、やっと当主の荷を下ろされたばかりのアルベルトに帰宅を強いることは憚られた。
侍女に促されるようにパンを持ったシュゼインは、機械的に口へ運んだが、表情は暗く疲れ切っていた。
日中は日が当たれば暑さを感じるほどだったが、日が落ちると肌寒さを感じ始めていた。侍女たちは交代で屋敷とへ帰り休憩していた。
侍女が大きな毛布をシュゼインを包むように掛ける。そしてようやくアルベルトにも声を掛けて毛布を渡した。
絨毯の上には眩しくないように光を絞ったランタンが置かれ、その場に残る遠巻きに控える使用人がランタンのみで存在を主張していた。
「暗くなってしまったな」
今気がついたように呟いてアルベルトは毛布にくるまったシュゼインの元に重い足取りで歩き始めた。
「もう帰るか?」
アルベルトはシュゼインを目線を合わせるようにしゃがみ込み顔を見る。
黒い空の中に、沈んでいったばかりの太陽を忘れられないオレンジの雲が、闇を燃やすように居座っていたが、西の空の果てさえも夜に押し負け始めていた。
シュゼインは父の思いを汲んだように顔を横に振った。
あの天災から、カリーナとは前のように一緒にいることは出来なかった。それは2人に言えた事だった。
「今日まではわがままも許される。私ももう少しここにいたいと思っていた」
シュゼインが帰ると言えば、アルベルトは潮時とばかりに屋敷に戻っただろう。
しかし、夕暮れのピクニックを2人は選んだ。
コンラトと護衛2人を残すことにし、後のものを屋敷に戻した。些か遅い指示ではあったが、コンラトが的確に休憩などのカバーをしており、不満に思っている者はいなかった。それどころか2人を心配し、もう少しここで待機したいと申し出た者もいたが、コンラトがそれを是としなかった。この夜が長くなる事を勘づいていたような判断だった。
その夜、毛布にくるまった2つの影が消えることはなかった。
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