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別れ
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驚いたことに、陛下と殿下2人と宰相が当然という顔をして立ったまま待っていた。
埋葬を最後まで見守るつもりなのだろう。
他にもカリーナの仲のいい友人達が、目を赤くしながらお互いに寄り添うように佇んでいた。
カリーナと一緒に穴の中にいたアルベルトは気付いていなかったが、最初に花を手向けた陛下たちがその場に留まることに誰もが驚いていた。
王家を置いて立ち去るのは逆にマナー違反ではないかと考えたものもいたはずだ。
ある意味非常識な行動だった。
陛下達へ一礼すると、アルベルトは親族へ声をかける。
アルベルトより先に地上へ出ていたシュゼインは、行儀良く待っていたクロッカに手を握られながら、長く伸びた木陰の根元に座っていた。
シュゼインが気がつくと、スコップを持ったアルベルトやコンラトら数人が穴に土を入れていた。
「まっ待って!何してるの!は母上になんで!土を被せるの!いやだ!父上!なんでっ!父上ーーっ!」
シュゼインはクロッカに退席の挨拶をすることもなく走っていた。
焦りすぎて何度も足が絡まる。それでも止まらずにアルベルトの元に駆けていた。
「シュゼイン…」
アルベルトの叫びに振り返るとスコップを落とすように離し、膝をついてシュゼインを抱きしめた。
「父上っ!離して!やめて!コンラトも、おじ様もやめてぇ!お願いっ!お願いだから!」
シュゼインの怒りに満ちた目には、カリーナが亡くなってから初めて浮かべられた雫がいた。
考えてみれば、彼が真っ黒な服に包まれたことも初めてであったし、教会裏の墓地へ足を踏み入れることも初めてだった。
小さな未来の伯爵の願いを聞き入れない者はいるはずもなかった。それが侯爵だろうが王族だろうが、彼の悲鳴のような願いを叶えるのに、身分が関係するはずもないことだ。
「うぅっ父上、なんで母上に土をかけたの?そ、そんなことをしたら…っ母上が苦しいよ…もう…やめて…母上が死んでしまう…」
縺れる声を振るわせて、腕から逃れるように暴れる。
シュゼインを抱きしめる腕を強めた。皆が手を止めたのを確認すると、シュゼインはアルベルトの肩に額を擦り付けるようにしながら泣きじゃくった。
シュゼインを抱いたまま立ち上がると、ゆっくりとシュゼインの顔を覗き込んだ。
シュゼインはもう無条件に抱き上げられる歳ではなくなっていた。
「シュゼイン、カリーナはもう死んでしまったんだよ。分かっているだろう?」
流れる涙を抑えるように目に添えられていた手を少し下げ、シュゼインは優しい顔で覗き込むアルベルトを見ると、ハッとしたように動きを止めた。
言葉だけで知っている気でいた死とは別物だった。
カリーナは眠っているように目の前にいたし、死んでしまったと聞いても触れることができた。
シュゼインを呼ぶことがないだけで、シュゼインが望めばすぐ近くに母はいた。
自分の頭の中の死という言葉と、カリーナに訪れた死が結びついて混乱した。
母は死んだのだ。
「嫌だ。母上は死んでない。目の前にいるじゃないかっ!お願い埋めないで!2度と会えなくなっちゃう」
周りの大人達も同調するように心を痛めていた。死というのは受け入れ難いものだ。
大人でさえそうなのだから、この小さな身体で受け止め切れるわけがないのは想像に容易い。
「アルベルト、私たちは少し教会の中で休むよ。彼には時間が必要なようだ。それに私たちにも、彼女を送るには時間が足りなかったようだ」
シュゼインの頭をくしゃくしゃと撫でながら話しかけたのはジェニメール陛下だった。
彼以外にそれを提案できる人はいなかった。
彼がいるからこそ許されない提案でもあった。
「御心遣い感謝致します」
シュゼインを抱えたまま礼を執ろうとしたアルベルトを制し、護衛に目をやると教会内へ向けて歩を進めた。
例外かのように長く続いた式であったので、親族も含め一度休憩をすることにした。
日を改めて明日続きをしましょうというわけにはいかない。カリーナをこのまま置いて行くことなんて出来るはずもないし、そんなことを考える者はいないだろう。
日が落ちる前には嫌でもカリーナを見送らなければならない。
埋葬を最後まで見守るつもりなのだろう。
他にもカリーナの仲のいい友人達が、目を赤くしながらお互いに寄り添うように佇んでいた。
カリーナと一緒に穴の中にいたアルベルトは気付いていなかったが、最初に花を手向けた陛下たちがその場に留まることに誰もが驚いていた。
王家を置いて立ち去るのは逆にマナー違反ではないかと考えたものもいたはずだ。
ある意味非常識な行動だった。
陛下達へ一礼すると、アルベルトは親族へ声をかける。
アルベルトより先に地上へ出ていたシュゼインは、行儀良く待っていたクロッカに手を握られながら、長く伸びた木陰の根元に座っていた。
シュゼインが気がつくと、スコップを持ったアルベルトやコンラトら数人が穴に土を入れていた。
「まっ待って!何してるの!は母上になんで!土を被せるの!いやだ!父上!なんでっ!父上ーーっ!」
シュゼインはクロッカに退席の挨拶をすることもなく走っていた。
焦りすぎて何度も足が絡まる。それでも止まらずにアルベルトの元に駆けていた。
「シュゼイン…」
アルベルトの叫びに振り返るとスコップを落とすように離し、膝をついてシュゼインを抱きしめた。
「父上っ!離して!やめて!コンラトも、おじ様もやめてぇ!お願いっ!お願いだから!」
シュゼインの怒りに満ちた目には、カリーナが亡くなってから初めて浮かべられた雫がいた。
考えてみれば、彼が真っ黒な服に包まれたことも初めてであったし、教会裏の墓地へ足を踏み入れることも初めてだった。
小さな未来の伯爵の願いを聞き入れない者はいるはずもなかった。それが侯爵だろうが王族だろうが、彼の悲鳴のような願いを叶えるのに、身分が関係するはずもないことだ。
「うぅっ父上、なんで母上に土をかけたの?そ、そんなことをしたら…っ母上が苦しいよ…もう…やめて…母上が死んでしまう…」
縺れる声を振るわせて、腕から逃れるように暴れる。
シュゼインを抱きしめる腕を強めた。皆が手を止めたのを確認すると、シュゼインはアルベルトの肩に額を擦り付けるようにしながら泣きじゃくった。
シュゼインを抱いたまま立ち上がると、ゆっくりとシュゼインの顔を覗き込んだ。
シュゼインはもう無条件に抱き上げられる歳ではなくなっていた。
「シュゼイン、カリーナはもう死んでしまったんだよ。分かっているだろう?」
流れる涙を抑えるように目に添えられていた手を少し下げ、シュゼインは優しい顔で覗き込むアルベルトを見ると、ハッとしたように動きを止めた。
言葉だけで知っている気でいた死とは別物だった。
カリーナは眠っているように目の前にいたし、死んでしまったと聞いても触れることができた。
シュゼインを呼ぶことがないだけで、シュゼインが望めばすぐ近くに母はいた。
自分の頭の中の死という言葉と、カリーナに訪れた死が結びついて混乱した。
母は死んだのだ。
「嫌だ。母上は死んでない。目の前にいるじゃないかっ!お願い埋めないで!2度と会えなくなっちゃう」
周りの大人達も同調するように心を痛めていた。死というのは受け入れ難いものだ。
大人でさえそうなのだから、この小さな身体で受け止め切れるわけがないのは想像に容易い。
「アルベルト、私たちは少し教会の中で休むよ。彼には時間が必要なようだ。それに私たちにも、彼女を送るには時間が足りなかったようだ」
シュゼインの頭をくしゃくしゃと撫でながら話しかけたのはジェニメール陛下だった。
彼以外にそれを提案できる人はいなかった。
彼がいるからこそ許されない提案でもあった。
「御心遣い感謝致します」
シュゼインを抱えたまま礼を執ろうとしたアルベルトを制し、護衛に目をやると教会内へ向けて歩を進めた。
例外かのように長く続いた式であったので、親族も含め一度休憩をすることにした。
日を改めて明日続きをしましょうというわけにはいかない。カリーナをこのまま置いて行くことなんて出来るはずもないし、そんなことを考える者はいないだろう。
日が落ちる前には嫌でもカリーナを見送らなければならない。
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