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別れ

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一緒に入れられる予定だった手紙はとても多く、入りきらなかった真っ白な封筒は棺の上に並べるように置かれた。


手紙はアルベルトとのものだ。
出会ってからカリーナが亡くなるまで、離れている間は文を送り合っていた。
カリーナとシュゼインの事を想う時間が彼にとって唯一安らげる時間だった。
思いの外一緒にいられる時間は少なかった。だから何かで繋がっていたいと願った手段が手紙だった。日を追うごとに手紙の頻度は増え、いつの間にか毎日手を取るのが当たり前になっていた。
忙しい時は一文だった。会いたい。それだけを送ったこともあった。
アルベルトは愛を惜しむことをしないタイプだった。



『この手紙が届く頃、私も帰宅出来るだろう。風邪が長引いていると聞いたが、一目見るまで心配で堪らない。早く貴方に会いたくて休む時間さえ惜しい』




カリーナが息を引き取ることになる日の朝、カリーナの枕元には彼の手紙が置かれていた。


「久しぶりに会う旦那様には、うんと私とシュゼインに愛を囁いて貰わなければいけないわね」



クスクスと控えめに侍女と笑い合った。
アルベルトと顔を合わせても、彼女は起き上がることはなかったが、不在がちの彼に嬉しそうに皮肉を言うほどには元気そうに見えた。
彼女が最後に聞いたのは、アルベルトの愛の囁きだったのは、もしかしたら彼女の悲願だったのかもしれない。
アルベルトとカリーナの最後の会話は愛で溢れていたことだろう。



「私からの手紙は、すべてカリーナに持っていて欲しい」



カリーナの棺は目に見えてアルベルトの愛で溢れかえっていた。



屋敷の外ではカリーナの死を弔おうと領民が屋敷に礼をとりながら門番に花を渡していた。
カリーナが亡くなった次の日の朝、領民に伝えられることになったのだが、その直後から小さな花を持った人たちが花だけでもカリーナ様へ手向けたいと屋敷の入り口へと集まっていた。それは夜中になっても、朝になっても途切れることはなかった。


アルベルトたちがカリーナが眠る棺を持って教会へ向かう。


棺の上に置かれた花や手紙が少しずつ落ちると、後ろを歩くものたちが一つ一つ拾い上げる。


シュゼインはもう抱え切れないほどたくさんの花と封筒を拾っていた。



シュゼインが落とせばその後ろのものが丁寧に拾う。


そして、拾った故人への大切なものを、埋葬の際、再度故人の元へ戻すのが慣わしだった。
拾う度に花に込められた意味を想い、拾った思い出の品にそれぞれが想いを馳せ、それぞれが故人を想いながら送る。
教会への道に花びら一つ残ることはないだろう。
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