クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

策略

1

王都の屋敷から学園に通っていたアルベルトの元に父がきたのは討論大会が終わって2週間ほどした頃だった。
討論大会も過去になり、落ち着いた学園生活が戻っていた。



「ワーデン家を継がず、宮廷内の職につく気はあるか」



開口一番に言い放った父の言葉はアルベルトの理解を超えていた。
アルベルトに兄弟はおらず、跡を告げるのは自分しかいない。それは養子をとるということ。
王命でもない限りありえないことだった。



「王命で、指名されたということでしょうか」



まだ若いアルベルトの父ベルナルドは将来的に税をもう少しあげなければいけないと考え、領民の生活基盤を整えることに注力していた。
アルベルトが結婚すると同時に当主を明け渡し、薄暗い裏方の仕事に手を回したいと考えていた。


領民も納得するとは思えない。次期当主として領民に認められている自覚があった。
それを王命とはいえ初めて会うものが突然当主となると混乱するだろう。
ベルナルドの隠居生活は必然的にかなり先になるはずだ。
我が家にとっては不利益しかない王命である。
しかし王命である以上断ることはできない




「話が早くて助かる。しかし今回は打診があったという程度だ。断ることは出来るが、批判を買うことになるだろう」



「断りましょう」



アルベルトの判断は決まっていた。
伯爵家として不利益である以上、受けることはできない。打診をしてきたということは、不利益である事を承知してのこと。
理解はしてくれるだろうと考えていた。

ベルナルドは被せるように言い放ったアルベルトに取り敢えず座るよう促すと用意させた茶を一口含んだ。


「確かに断ることになる話だった。しかし先方は不利益を分かった上で条件を出してきた。もし後継者が王宮に上がることで不利益が起こるなら、兼任してもらって構わないということだった。自由に使える秘書を2人つけるから領地と王都を行き来することも可能だという話だ。まぁ忙しくなるのは目に見えてわかるし、苦労も多くすることになるだろう。お前次第だ。」


貴族が王宮貴族となる場合、領地を返上して王に仕え、年金として給与をもらうのが表面上の建前として存在するが、そのようなことはほぼ起こらない。
跡取りがいない場合、親戚から養子を取り跡を継がせ、その上で宮廷に上がる。

当主でないものが王宮に上がる時になにもいらないのだから、自ら差し出す者はあまりいない。

後継者候補に恵まれない場合、当主の判断で返上することはあるが、よっぽどの危機感を覚えた場合のみだろう。


昔は王宮貴族として官職を買うことができた。王宮貴族とはいえ爵位が与えられるわけではなかったが、爵位を継げないものが官職を得るために高値で取引されていて、それが王家の収入となっていた。
しかし能力なしが集まり腐敗したため廃止され、能力があるもののみが認められる名誉称号のように扱われている。


もともと、恩賞として領地を与えられることもあるので、兼任するものも僅かだが存在する。



「何故そこまでして…」



アルベルトが働くために2人も人員を割くという。
それも自由にということは、領地を運営する為に使うのも良しとしているということだろう。
目に止まったとしても討論大会位しか心当たりはない。
だとしたら内務大臣の目に止まったということだ。
貴族の監視システムについての話も出た。
内務大臣が審査をすることも分かった上で選んだ議題だったが、それがこういう結果を生むとはさすがにアルベルトにも分からなかった。