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カタクリ

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その日、ジャクリーンは初恋の終着地点にいた。
カリーナに恋をしていると気付いてから2年にも届かなかった。
卒業パーティーの招待状の作成の為、クラス代表だったカリーナが生徒会室へと招集されたのがその前日。
その日がカリーナの人生の分岐点だった。



事前に申請された人数分の招待状に、外部の同伴者を含めて記名し、正しい名前が書いてあり、不正がないことを生徒会長または副会長が確認後、その2人の手で封筒を封蝋印で綴じ、クラスへ持ち帰る。それがクラス代表としての仕事だった。


カリーナが生徒会室に入ると、中央にある大きな机では、既に何人も作業をしていた。
まるで、そこにスポットでも当たっていたかのようにアルベルトを見つけたカリーナは、幻かと思い目をギュッと閉じてからゆっくりと目を開けた。



いる…



いつも話題になる彼が、真剣な顔で筆を動かしている。
彼と接点のないカリーナは同じ部屋にアルベルトがいると考えるだけで頬が熱くなるようだった。
特別クラスの彼が机に向かう姿を見るのも初めてであったので、とても貴重な姿を見れたと幸福で満たされていた。


たまに見かけるだけで満足する。カリーナの恋はそんなつつましい恋だった。


彼女が侯爵家の娘であることも影響していたかもしれない。いつか親が婚約者を決めるだろう。
もしかしたらそれがジャクリーンであるかもしれないし、そうではないかもしれない。カリーナ自身も、とんでもない相手でなければ従うつもりでいた。
それが決まるのがほんの少しでも先でありますようにと願うだけ。
自分の意思を貫ぬこうと思うほど、淑女教育をさぼった過去はなかった。


招待状の束を受け取り、辺りを見渡して悩んだ後、アルベルトから大きな机を挟んで向かい側の、奥から2番目の席に座ることにした。正面に座ることも避け、その近くの空いている席がそこだった。
アルベルトの横も空いていたのだが、そんな勇気もなければ、今以上の幸運を望むこともしていなかった。


リストと招待状を並べて、上から順番に名前を書いていく。躍るようにするすると筆が進むようだった。
一つ書いては定規を使ってリストの名前を消すように一本線を引き、名前を書き、線を引き、作業を繰り返す。いいな、この子はお兄さんがエスコートするのね。この子は婚約者の方かしら?と心が満たされていると全てのことが色を持って興味を惹いた。
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