139 / 142
saint
貴族の会合
しおりを挟む
私たち三人は、前回会った時から何度か文のやり取りをしていた。
今回集まることになったのは、サリーに問題が起こったからだ。
「実は、一緒に住みだしてからハーベストがなんだか怪しく感じて…このまま結婚していいのか少し悩んでいるんです」
「サリー様、詳しくお聞きしても?」
「一緒に住んでから怪しいって結構やばいんじゃ…」
クロエはフリードと一緒に住み出してからのことを思い出していた。
一緒に住んでいれば、相手のスケジュールも分かるし、寝る時間も把握できる。
そろそろあそこへ出掛ける頃かなとか推測すらたてることができた。
「そうなんです。一緒に住んでいるとはいえ、彼は貴族ではなく商家です。私は帳簿の管理などの勉強から教わっているところで、平民の常識も勉強中なのですが、前は日が落ちる前になると一緒に新居に帰っていたのですが、最近は雇っている護衛に送ってもらうことが多くなって、夜も遅くまで帰っていないようなんです。ここ数日は朝も早くに家を出ていて、本当に帰ってきているのかも怪しくなってきました…顔を合わすことも儘ならない状態で、流石にこのまま結婚していいのか不安になってしまって…」
「こんな結婚式直前に顔も合わせられないんじゃ不安にもなりますわね…」
「うーーーん。私なら迷わず別れちゃうけど、それを勧めるのも違う気が…あっ!!私にいい考えがあります!」
クロエの提案で、この日は王都のイシュトハン邸で三人で泊まることになった。
「二人とも~~残念だけど、夜まで仕事してくるから~ゆっくりしていって~お泊まり会なんて初めてだから…あぁっ!クリンプトン!離して!まだ話してるのに!」
「去っていかれましたね…」
「えぇ、連れ去られて行ったとも言いますわね…」
その様子を見て、二人は笑い合った。
今やイシュトハンといえば、大陸で唯一の聖女を排出した家だ。
更に、私たちの崇拝する神の住まうミーリン島の国王でもある。
教皇が決まるその日まで、聖女が代理で権限を持つという発表がされたのが先日のこと。天地がひっくり返るほどの大騒ぎとなって今もまだ落ち着いてはいない。
教皇という地位を確定させているのは全ては聖女を守る為、必要な組織改革なのだそうだ。
「クロエ様は本当にお忙しい方ですわね。それにしても凄いオーラの輝き…」
「本当に…平民となる私が恐れ多くもお時間をとらせてしまっていいのか、いつも考えてしまいます」
二人は残光でも見えるかのように、ドアを見ていた。
「そういえば、サリー様も商家へと入るのによく時間が取れましたわね?あっ…今のは嫌味ではなくて、時間があるのは私だけじゃないかと思って…」
リリィ様は誤解もされやすいがとても優しい方だ。
「リリィ様、そんな誤解はしておりません。貴族の方との交流は、寧ろ大歓迎とまで言われております。貴族だからと甘やかされることもありませんが、貴族だからこそ出来ることもあるという感じでしょうか?割と自由にさせてもらっているんです」
「それは朗報ですわ。是非次に我が家へ来る時は、商品も持っていらして?商人の嫁とはそういうものだと思うわ。色々見ながらお茶をいただくのもきっと楽しいと思うの」
「はい。自信を持っておすすめできる商品をお持ち出来るように頑張ります」
リリィはその言葉を聞いて、サリーは不安はあるようだが別れる気はあまり無さそうだと感じた。
二人はクロエが戻るまで、ゆっくりと距離を縮めた。
そして夜には、ヘトヘトになって帰ってきたクロエと三人で大きなベッドの上で遅くまで語り合った。
サリーの家の使用人は通いの使用人だったので、クロエが手紙を届けて帰ってもらった。
いつも夜遅くにハーベストが帰るということは、彼女は彼が帰るまで一人で家にいたということだ。
正直女性を一人で家に置いておくなんて、貴族では考えられない。
そして、サリーの部屋にハーベスト宛の手紙を残したのだが、夜中になってもやってくる気配はない。
ハーベストを透視してみようかと思ったが、それはやめておいた。
サリーもきっと穏便な話し合いを希望しているから、実家に連絡をする前に私たちに相談をしにきているのだ。
話を聞いていると、男爵が怒って破談になることもあるとさえ感じた。
サリーは今、彼女が思っている以上に危ない状況に置かれている。
いつ誘拐されてもおかしくはなかったし、襲われても助けを求めることも出来ない様な状況に、嫁入り前の貴族令嬢がおかれていたなんて誰も想像がつかないだろう。
彼女の父である男爵も、きっとこの状況を聞いたら怒り狂っていたに違いない。
二人は怒りを抑えて、サリーが一人で過ごしてきた夜の話を黙って聞きながらサリーが眠るのを待った。
興奮して眠れる気がしない二人はむくりと起き上がった。
「リリィ様、これは思った以上でしたね…」
「えぇ、朝一番に兄をこちらに呼んでもよろしいですか?」
「もちろんです。フリードも朝一番に叩き起こすつもりです。これは長期戦も覚悟ですわ…」
「クロエ様が忙しかったら、我が家でサリー様をお預かりすることも可能ですわ。いつでも仰ってください」
「ありがとうございます。心強いです」
眠れない二人は徹夜で作戦会議を行ない、平民であるハーベストをどうするのか静かに語り合った。
今回集まることになったのは、サリーに問題が起こったからだ。
「実は、一緒に住みだしてからハーベストがなんだか怪しく感じて…このまま結婚していいのか少し悩んでいるんです」
「サリー様、詳しくお聞きしても?」
「一緒に住んでから怪しいって結構やばいんじゃ…」
クロエはフリードと一緒に住み出してからのことを思い出していた。
一緒に住んでいれば、相手のスケジュールも分かるし、寝る時間も把握できる。
そろそろあそこへ出掛ける頃かなとか推測すらたてることができた。
「そうなんです。一緒に住んでいるとはいえ、彼は貴族ではなく商家です。私は帳簿の管理などの勉強から教わっているところで、平民の常識も勉強中なのですが、前は日が落ちる前になると一緒に新居に帰っていたのですが、最近は雇っている護衛に送ってもらうことが多くなって、夜も遅くまで帰っていないようなんです。ここ数日は朝も早くに家を出ていて、本当に帰ってきているのかも怪しくなってきました…顔を合わすことも儘ならない状態で、流石にこのまま結婚していいのか不安になってしまって…」
「こんな結婚式直前に顔も合わせられないんじゃ不安にもなりますわね…」
「うーーーん。私なら迷わず別れちゃうけど、それを勧めるのも違う気が…あっ!!私にいい考えがあります!」
クロエの提案で、この日は王都のイシュトハン邸で三人で泊まることになった。
「二人とも~~残念だけど、夜まで仕事してくるから~ゆっくりしていって~お泊まり会なんて初めてだから…あぁっ!クリンプトン!離して!まだ話してるのに!」
「去っていかれましたね…」
「えぇ、連れ去られて行ったとも言いますわね…」
その様子を見て、二人は笑い合った。
今やイシュトハンといえば、大陸で唯一の聖女を排出した家だ。
更に、私たちの崇拝する神の住まうミーリン島の国王でもある。
教皇が決まるその日まで、聖女が代理で権限を持つという発表がされたのが先日のこと。天地がひっくり返るほどの大騒ぎとなって今もまだ落ち着いてはいない。
教皇という地位を確定させているのは全ては聖女を守る為、必要な組織改革なのだそうだ。
「クロエ様は本当にお忙しい方ですわね。それにしても凄いオーラの輝き…」
「本当に…平民となる私が恐れ多くもお時間をとらせてしまっていいのか、いつも考えてしまいます」
二人は残光でも見えるかのように、ドアを見ていた。
「そういえば、サリー様も商家へと入るのによく時間が取れましたわね?あっ…今のは嫌味ではなくて、時間があるのは私だけじゃないかと思って…」
リリィ様は誤解もされやすいがとても優しい方だ。
「リリィ様、そんな誤解はしておりません。貴族の方との交流は、寧ろ大歓迎とまで言われております。貴族だからと甘やかされることもありませんが、貴族だからこそ出来ることもあるという感じでしょうか?割と自由にさせてもらっているんです」
「それは朗報ですわ。是非次に我が家へ来る時は、商品も持っていらして?商人の嫁とはそういうものだと思うわ。色々見ながらお茶をいただくのもきっと楽しいと思うの」
「はい。自信を持っておすすめできる商品をお持ち出来るように頑張ります」
リリィはその言葉を聞いて、サリーは不安はあるようだが別れる気はあまり無さそうだと感じた。
二人はクロエが戻るまで、ゆっくりと距離を縮めた。
そして夜には、ヘトヘトになって帰ってきたクロエと三人で大きなベッドの上で遅くまで語り合った。
サリーの家の使用人は通いの使用人だったので、クロエが手紙を届けて帰ってもらった。
いつも夜遅くにハーベストが帰るということは、彼女は彼が帰るまで一人で家にいたということだ。
正直女性を一人で家に置いておくなんて、貴族では考えられない。
そして、サリーの部屋にハーベスト宛の手紙を残したのだが、夜中になってもやってくる気配はない。
ハーベストを透視してみようかと思ったが、それはやめておいた。
サリーもきっと穏便な話し合いを希望しているから、実家に連絡をする前に私たちに相談をしにきているのだ。
話を聞いていると、男爵が怒って破談になることもあるとさえ感じた。
サリーは今、彼女が思っている以上に危ない状況に置かれている。
いつ誘拐されてもおかしくはなかったし、襲われても助けを求めることも出来ない様な状況に、嫁入り前の貴族令嬢がおかれていたなんて誰も想像がつかないだろう。
彼女の父である男爵も、きっとこの状況を聞いたら怒り狂っていたに違いない。
二人は怒りを抑えて、サリーが一人で過ごしてきた夜の話を黙って聞きながらサリーが眠るのを待った。
興奮して眠れる気がしない二人はむくりと起き上がった。
「リリィ様、これは思った以上でしたね…」
「えぇ、朝一番に兄をこちらに呼んでもよろしいですか?」
「もちろんです。フリードも朝一番に叩き起こすつもりです。これは長期戦も覚悟ですわ…」
「クロエ様が忙しかったら、我が家でサリー様をお預かりすることも可能ですわ。いつでも仰ってください」
「ありがとうございます。心強いです」
眠れない二人は徹夜で作戦会議を行ない、平民であるハーベストをどうするのか静かに語り合った。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる