132 / 142
alone
ひとりじゃない
しおりを挟む
夜になり、再びフリードの泊まる宿にやってきたクロエの腹は、寝巻きを着ていても分かるほど、まん丸としていた。
「昼のうちにケーキや菓子をたくさん買ったんだが、不要だった…かな…?」
「え?ケーキがあるの!?いただこうかしら…魔力の回復速度って魔力量に比例しないのよね…」
そう言いながらも、腹をさすりながらクロエに笑みが溢れる。
リビルトがお茶を入れ、2人はゆっくりとお茶を楽しんだ。
クロエは、明日にはイシュトハンに帰ること、これから聖女として名乗ることを説明していった。
フリードもリビルトも昨日の爆発事故を知り勘付いていたのか、それほど驚きはしなかった。
今日はあの女王付きだったクリンプトンという髪の長い男を蹴り飛ばしてからここに来たと話したけど、笑いは起きなかった。
話の過程で、ミーリン島国の女王に君臨していることがバレてしまったからだ。
「女王だって!?流石にそれは想像していなかった」
「国内のことがこれほど漏れない国が存在するとは…」
すまし顔のクリンプトンが、今ではいつも動揺しているなんて凄いでしょう??と、自慢げだったのに、思わぬ方向へ話が飛んでしまったクロエは悔しさを隠しきれない。
王であっても一時的なもので、それ地位はすぐに捨てるものだ。
「もういいわ!とにかく、私はこれからたった1人の聖女となるの」
今日、枢機卿達が司教達のいる議場で、クロエを魔王と認定すると発表した。
枢機卿達は、事前にクロエから聖女だと聞いていた司教達の思ってもいない反対にあい、その場で乱闘が始まったことは思い出したくもない。
そんなこんなだけど、明日イシュトハンに帰るというのは決定事項だ。
乱闘が始まった時は流石に慌てたが、方向的には望み通りだ。
「ミーリン島側には、明日の朝一番ですぐ島を出ることを話す予定よ。もし…交渉がうまく行かなかったら、私は大陸中から危険因子とされるかもしれない。そしたら…」
「そしたら、そんなもの全て焼け焦がして仕舞えばいい。どれだけ良いことだけしていても、全ての者に好意的に受け取られるのは不可能だ。敵をなくそうとしなくてもいい。敵になったらどうなるのか教えてやれ。それこそイシュトハン戦記を送りつけてやってもいい」
たしかに、全ての人から好かれるなんて無理な話だ。
イシュトハン戦記は徹底的な防衛と、魔力だけに頼らずに地理や効率の良い戦いによって勝利してきた歴史が書かれている。
だが、それこそ人間の敵のような残酷な魔王ではないか。
大陸の歴史全てを消し去るつもりなんてない。
「私は戦いは起こしたくない。それこそ大地を焦がす魔王のようだわ…」
「クロエらしい。なら、もし失敗した時のことなんて考えなくても良い。成功するまで頑張れば良いだけだ」
「成功するまで…」
クロエはダメなら魔王と言われながらもイシュトハンはどの国とも敵対しないと公表することは決めていた。
でも、諦めなくても良いかもしれない。
聖女だと主張し続けても良いかもしれない。
少し心が軽くなった。
魔王となり、大陸中から命を狙われるのではないかと、領民や国民が危険に晒されるかもしれないと思っていた。
それだけでは終わらないかもしれないと考える。
「クロエは護りたいものを護ればいい。君に協力してくれる人はたくさんいる。もし、途中で失敗と呼ばれるようなものになったとしても、そこからより良い方向に行くように皆んなで模索すればいいんだ。最後まで最善を尽くす。それが貴族であり、力あるものの責任だ。リビルト、そうだろう?」
「えぇその通りです。それに、世論を動かすのはフリードリヒ様の得意分野です。クロエ様の作戦も効果的なものであったと思います。こちらも何かあれば動きやすい素晴らしい成果です」
リビルトは長くフリードに使える執事だ。
王宮で王子殿下の専属の執事として抜擢されるだけの実力がある。
王宮の執事は情報の入手はもちろんのこと、表向きは王子の世話をしつつ、裏で多くのことを行う。
必要とあれば王子の秘書と同じように手足となる存在だ。
そんな有能なリビルトに褒められるのは悪くない。
「うん。今のところ私にしては上手くいっていると思うの。それでも最悪の状態は想定しておかなきゃいけない。そうでしょう?」
クロエはリビルトが差し出したケーキを見つめた後、フリードとリビルトを交互に見る。
「それは1番大切なことだね」
「はい。当然想定しないといけないことです」
「私の最悪の想定は、関係ない人たちが人質にされることなの。守りきれない範囲を大勢で攻撃されたら護れるものも護れない。そうやって脅されて屈することになるのが嫌なの」
クロエは一度フォークに手をかけたが、そのまま元に戻す。
流石にこの話題の中食べる気にはならなかった。
「もしかして、ひとりで全部護ろうと考えているのか?」
「え?」
フリードに言われて、自分の魔力の限界を常に考えていたことに気付く。
「たとえば、イシュトハンではなく、兄上が狙われても他国からの攻撃をただ黙って受けるなんてことはないはずだ」
フリードは安心させるかのようにゆっくりと優しい声で説明する。
いつのまにか自分が全てやらなければならないと考えていた。
そのことに気がついて、衝撃が走る。
「だから、安心してケーキを食べな」
ふわりと笑ったフリードが、何だかとても大人に見えた。
「昼のうちにケーキや菓子をたくさん買ったんだが、不要だった…かな…?」
「え?ケーキがあるの!?いただこうかしら…魔力の回復速度って魔力量に比例しないのよね…」
そう言いながらも、腹をさすりながらクロエに笑みが溢れる。
リビルトがお茶を入れ、2人はゆっくりとお茶を楽しんだ。
クロエは、明日にはイシュトハンに帰ること、これから聖女として名乗ることを説明していった。
フリードもリビルトも昨日の爆発事故を知り勘付いていたのか、それほど驚きはしなかった。
今日はあの女王付きだったクリンプトンという髪の長い男を蹴り飛ばしてからここに来たと話したけど、笑いは起きなかった。
話の過程で、ミーリン島国の女王に君臨していることがバレてしまったからだ。
「女王だって!?流石にそれは想像していなかった」
「国内のことがこれほど漏れない国が存在するとは…」
すまし顔のクリンプトンが、今ではいつも動揺しているなんて凄いでしょう??と、自慢げだったのに、思わぬ方向へ話が飛んでしまったクロエは悔しさを隠しきれない。
王であっても一時的なもので、それ地位はすぐに捨てるものだ。
「もういいわ!とにかく、私はこれからたった1人の聖女となるの」
今日、枢機卿達が司教達のいる議場で、クロエを魔王と認定すると発表した。
枢機卿達は、事前にクロエから聖女だと聞いていた司教達の思ってもいない反対にあい、その場で乱闘が始まったことは思い出したくもない。
そんなこんなだけど、明日イシュトハンに帰るというのは決定事項だ。
乱闘が始まった時は流石に慌てたが、方向的には望み通りだ。
「ミーリン島側には、明日の朝一番ですぐ島を出ることを話す予定よ。もし…交渉がうまく行かなかったら、私は大陸中から危険因子とされるかもしれない。そしたら…」
「そしたら、そんなもの全て焼け焦がして仕舞えばいい。どれだけ良いことだけしていても、全ての者に好意的に受け取られるのは不可能だ。敵をなくそうとしなくてもいい。敵になったらどうなるのか教えてやれ。それこそイシュトハン戦記を送りつけてやってもいい」
たしかに、全ての人から好かれるなんて無理な話だ。
イシュトハン戦記は徹底的な防衛と、魔力だけに頼らずに地理や効率の良い戦いによって勝利してきた歴史が書かれている。
だが、それこそ人間の敵のような残酷な魔王ではないか。
大陸の歴史全てを消し去るつもりなんてない。
「私は戦いは起こしたくない。それこそ大地を焦がす魔王のようだわ…」
「クロエらしい。なら、もし失敗した時のことなんて考えなくても良い。成功するまで頑張れば良いだけだ」
「成功するまで…」
クロエはダメなら魔王と言われながらもイシュトハンはどの国とも敵対しないと公表することは決めていた。
でも、諦めなくても良いかもしれない。
聖女だと主張し続けても良いかもしれない。
少し心が軽くなった。
魔王となり、大陸中から命を狙われるのではないかと、領民や国民が危険に晒されるかもしれないと思っていた。
それだけでは終わらないかもしれないと考える。
「クロエは護りたいものを護ればいい。君に協力してくれる人はたくさんいる。もし、途中で失敗と呼ばれるようなものになったとしても、そこからより良い方向に行くように皆んなで模索すればいいんだ。最後まで最善を尽くす。それが貴族であり、力あるものの責任だ。リビルト、そうだろう?」
「えぇその通りです。それに、世論を動かすのはフリードリヒ様の得意分野です。クロエ様の作戦も効果的なものであったと思います。こちらも何かあれば動きやすい素晴らしい成果です」
リビルトは長くフリードに使える執事だ。
王宮で王子殿下の専属の執事として抜擢されるだけの実力がある。
王宮の執事は情報の入手はもちろんのこと、表向きは王子の世話をしつつ、裏で多くのことを行う。
必要とあれば王子の秘書と同じように手足となる存在だ。
そんな有能なリビルトに褒められるのは悪くない。
「うん。今のところ私にしては上手くいっていると思うの。それでも最悪の状態は想定しておかなきゃいけない。そうでしょう?」
クロエはリビルトが差し出したケーキを見つめた後、フリードとリビルトを交互に見る。
「それは1番大切なことだね」
「はい。当然想定しないといけないことです」
「私の最悪の想定は、関係ない人たちが人質にされることなの。守りきれない範囲を大勢で攻撃されたら護れるものも護れない。そうやって脅されて屈することになるのが嫌なの」
クロエは一度フォークに手をかけたが、そのまま元に戻す。
流石にこの話題の中食べる気にはならなかった。
「もしかして、ひとりで全部護ろうと考えているのか?」
「え?」
フリードに言われて、自分の魔力の限界を常に考えていたことに気付く。
「たとえば、イシュトハンではなく、兄上が狙われても他国からの攻撃をただ黙って受けるなんてことはないはずだ」
フリードは安心させるかのようにゆっくりと優しい声で説明する。
いつのまにか自分が全てやらなければならないと考えていた。
そのことに気がついて、衝撃が走る。
「だから、安心してケーキを食べな」
ふわりと笑ったフリードが、何だかとても大人に見えた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる