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alone
憎らしいほどの快晴
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「コホンッ!私はお邪魔でしたか?」
急いで持ってきたのに、ポーションのことなど忘れていそうな二人に、リビルトは控えめに存在をアピールする。
「あぁ、少しくらい目をつぶってろ!」
「うぅ…もういいから、ポーションをちょうだい」
残念そうにむくれたフリードとは違い、クロエはボッと頬を染めた。
恥ずかしくなったクロエはすぐに熱を持った手でポーションの瓶を開けると、一気に胃に流し込んだ。
「美味しくはないわね」
不味くもないが、お腹がじんわりと温かくなるのは感じる。
しかし、通常の魔力量なら一本でも多いくらいの効果だろうが、クロエにはたりない。
続けて二本目を手に取る。
「クロエ様…その魔力は…」
魔力保持量に比例して、オーラも濃くなる。
よく考えてみれば、ミーリン島へ転移することを考えれば、通常の魔力量では到底不可能だとリビルトは思い至った。
「すぐに行くのか?」
「えぇ。流石、幻のポーション。ビューンと行ける気がする」
フリードはクロエの魔力について触れることはなかった。
リビルトは不思議に思いながらも出しゃばってはいけないと口をつぐんだ。
「今夜、何か用意しておこうか?」
「そうね。帰国の用意が必要よ。早ければ明日、遅くても明後日にはイシュトハンに帰るわ。じゃあ、またね!」
クロエは本当に簡単に挨拶をすると、すぐに消えた。
寝間着のまま汚れて倒れていたクロエを思い出すと、心臓を握り潰されたかのような痛みに襲われる。
「リビルト、朝食を食べたら街へ出ようか」
フリードはクロエの好きそうなケーキやお菓子を一日中探し歩き、リビルトはきれいに晴れた空を仰いだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ミーリン島の王宮へと戻ってきたクロエは冴え渡っていた。
鍵のかかった引き出しに隠しておいたクッキーを頬張りながらベッドに寝転ぶ。
侍女が起こしに来る前に戻ってこられたことに安堵したが、フリードがバルクル国にいたことで、早く帰りたいと少しだけ気が焦る。
そのまま目を瞑れば、バルクル国の王城が見える。
瓦礫と化した都市付近の貴族が、既に事故の報告くらいはしているだろう。
あんな大きな事故は昔話で聞いたことがある位に珍しい。
人々の声を聞きながら聖女の情報がないか確認していく。
広いホールを抜け、居住区と思われるエリアに差し掛かったところで、急に騒がしくなる。
表立っては何も起きてはいないが、裏ルートから人がひっきりなしに動いている。
元々魔力の多い者が多くいる国であり、紙が廊下を飛んでいても、水の入ったグラスが浮いていても気にかける者はいない。
自国では考えられないような光景にクロエは胸が高鳴った。
ここまでくれば情報はいくらでも入ってきた。
あの爆発が起きたのはバルクル国の王都に近いウルゼクルツと呼ばれる商業都市で、全域で建物に被害が出ているようだ。
全壊しなかった建物も一部存在するようだが、多大なる被害は貴族平民問わずいる。
その中に、聖女の出現により、治癒士の派遣は郊外や隣の都市へ優先的に配置すると言う情報があった。
クロエの治癒魔法の範囲は、建物が崩れた地域に限っていたためだろう。
「今日中にミーリン島まで連絡が来ればいいんだけど」
クロエは再び眠りに落ちた。
侍女がパタパタと走っている音で目が覚めたクロエは、ようやく本当の夜明けが来たのだと思いながら目を開けた。
ほんの少しの睡眠だったが、身体は軽く、ポーションの回復作用の凄さを実感する。
そのままクッキーを枕の下に隠すと、ベッドの上で飛び跳ねるように立ち上がって仁王立ちになり、目を閉じて意識を集中させる。
「ふむ、時が来たわね」
そうして、クロエは帰国準備を始め、帰国を聞いた侍女はクリンプトンの私室に飛び込むことになったのだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
枢機卿達は、今日の教皇選出会議の中止を伝えてきた。
議会にいる司教以上の者達は既に全員が集まっていた。
「我々は教皇が決まるまで仕事も出来ずにいるというのに、突然中止だなんて許容できるわけがない」
「全くだ。今日は女王陛下もいらっしゃったと言うのに、中止なんて許されるわけがない」
議場は収拾がつかないほどざわつき、そこかしこで理由を確認して来いと命令する声が上がった。
「枢機卿達が来れなくなった理由は簡単です」
枢機卿達の座る議場の中央部分の特等席に用意された特別席で、クロエは声を張り上げた。
声が届いた順に議場は静かになる。
「私が聖女だとの情報を手に入れたからに他なりません」
白いワンピースを着て、聖職者の仲間入りをしたように見える身なり。
赤い紅も引かず、攻撃性の一切を感じさせることのないフワリとした髪と化粧は、この場面のためだけに用意した。
誰もが目を見開いた議場の真ん中で、クロエは続ける。
「今まで、様々な国で治癒魔法を使用してきました。昨夜、バルクル国で起こった深刻な爆発事故の現場に私はいました。一つの都市が吹き飛ぶほどの大きな爆発です。この場にもその事故の話を聞いた者もいるでしょう」
クロエは席を立ち、議場をぐるりと見渡す。
「何故、枢機卿達はここで私が聖女だと言えないのか、分かる者はいますか?チェリグリーン、あなたはどう?」
教皇選出後国務長官の地位に就き、今現在枢機卿という立場で議場にいるただ1人の男だ。
ほど近い席にいるチェリグリーンに、クロエは尋ねる。
「そうですね…国王陛下におかれまして、魔王として近隣国や信者達に恐れ慄かれることが望まれているのが現状です。魔王として欲する国も多くあるでしょうが、聖女となれば破滅の魔王とは真逆でどこの国も友好的に迎え入れたいはずで、欲する国は桁違いに増える。大陸のあらゆる国を敵に回してまで島内に留まらせるのは不可能に近いことです」
「そうね、私には危険が伴うから保護している。という大義名分が使えなくなる。過去の魔王達や私を悪者に仕立て上げたい輩の代表が枢機卿ということです。今の法では大切な情報が枢機卿だけに共有され、議論されている。そのことに疑問に思う者がいるなら、教皇を目指しなさい。枢機卿になりなさい。上に行かなければ出来ないことはたくさんあるわよ」
クロエは少なからずいる、魔王が神の愛し子だという派に呼びかけた。
神から授けられた魔力が多いと悪者になる。
そんなものは教義に反している。
「この国が私を聖女として認めるのなら、これから教会に巨大な恩恵があるでしょう。認めないのなら、私と大陸を敵に回すと思いなさい」
クロエは枢機卿ではなく、議会に集まった者に伝えた。
あとは、もうこの国が決めることだ。
決別するか、協力するか、どちらが利益になるかは一目瞭然で、最悪明日には島ごと吹き飛ぶ事態も想定されるだろう。
急いで持ってきたのに、ポーションのことなど忘れていそうな二人に、リビルトは控えめに存在をアピールする。
「あぁ、少しくらい目をつぶってろ!」
「うぅ…もういいから、ポーションをちょうだい」
残念そうにむくれたフリードとは違い、クロエはボッと頬を染めた。
恥ずかしくなったクロエはすぐに熱を持った手でポーションの瓶を開けると、一気に胃に流し込んだ。
「美味しくはないわね」
不味くもないが、お腹がじんわりと温かくなるのは感じる。
しかし、通常の魔力量なら一本でも多いくらいの効果だろうが、クロエにはたりない。
続けて二本目を手に取る。
「クロエ様…その魔力は…」
魔力保持量に比例して、オーラも濃くなる。
よく考えてみれば、ミーリン島へ転移することを考えれば、通常の魔力量では到底不可能だとリビルトは思い至った。
「すぐに行くのか?」
「えぇ。流石、幻のポーション。ビューンと行ける気がする」
フリードはクロエの魔力について触れることはなかった。
リビルトは不思議に思いながらも出しゃばってはいけないと口をつぐんだ。
「今夜、何か用意しておこうか?」
「そうね。帰国の用意が必要よ。早ければ明日、遅くても明後日にはイシュトハンに帰るわ。じゃあ、またね!」
クロエは本当に簡単に挨拶をすると、すぐに消えた。
寝間着のまま汚れて倒れていたクロエを思い出すと、心臓を握り潰されたかのような痛みに襲われる。
「リビルト、朝食を食べたら街へ出ようか」
フリードはクロエの好きそうなケーキやお菓子を一日中探し歩き、リビルトはきれいに晴れた空を仰いだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ミーリン島の王宮へと戻ってきたクロエは冴え渡っていた。
鍵のかかった引き出しに隠しておいたクッキーを頬張りながらベッドに寝転ぶ。
侍女が起こしに来る前に戻ってこられたことに安堵したが、フリードがバルクル国にいたことで、早く帰りたいと少しだけ気が焦る。
そのまま目を瞑れば、バルクル国の王城が見える。
瓦礫と化した都市付近の貴族が、既に事故の報告くらいはしているだろう。
あんな大きな事故は昔話で聞いたことがある位に珍しい。
人々の声を聞きながら聖女の情報がないか確認していく。
広いホールを抜け、居住区と思われるエリアに差し掛かったところで、急に騒がしくなる。
表立っては何も起きてはいないが、裏ルートから人がひっきりなしに動いている。
元々魔力の多い者が多くいる国であり、紙が廊下を飛んでいても、水の入ったグラスが浮いていても気にかける者はいない。
自国では考えられないような光景にクロエは胸が高鳴った。
ここまでくれば情報はいくらでも入ってきた。
あの爆発が起きたのはバルクル国の王都に近いウルゼクルツと呼ばれる商業都市で、全域で建物に被害が出ているようだ。
全壊しなかった建物も一部存在するようだが、多大なる被害は貴族平民問わずいる。
その中に、聖女の出現により、治癒士の派遣は郊外や隣の都市へ優先的に配置すると言う情報があった。
クロエの治癒魔法の範囲は、建物が崩れた地域に限っていたためだろう。
「今日中にミーリン島まで連絡が来ればいいんだけど」
クロエは再び眠りに落ちた。
侍女がパタパタと走っている音で目が覚めたクロエは、ようやく本当の夜明けが来たのだと思いながら目を開けた。
ほんの少しの睡眠だったが、身体は軽く、ポーションの回復作用の凄さを実感する。
そのままクッキーを枕の下に隠すと、ベッドの上で飛び跳ねるように立ち上がって仁王立ちになり、目を閉じて意識を集中させる。
「ふむ、時が来たわね」
そうして、クロエは帰国準備を始め、帰国を聞いた侍女はクリンプトンの私室に飛び込むことになったのだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
枢機卿達は、今日の教皇選出会議の中止を伝えてきた。
議会にいる司教以上の者達は既に全員が集まっていた。
「我々は教皇が決まるまで仕事も出来ずにいるというのに、突然中止だなんて許容できるわけがない」
「全くだ。今日は女王陛下もいらっしゃったと言うのに、中止なんて許されるわけがない」
議場は収拾がつかないほどざわつき、そこかしこで理由を確認して来いと命令する声が上がった。
「枢機卿達が来れなくなった理由は簡単です」
枢機卿達の座る議場の中央部分の特等席に用意された特別席で、クロエは声を張り上げた。
声が届いた順に議場は静かになる。
「私が聖女だとの情報を手に入れたからに他なりません」
白いワンピースを着て、聖職者の仲間入りをしたように見える身なり。
赤い紅も引かず、攻撃性の一切を感じさせることのないフワリとした髪と化粧は、この場面のためだけに用意した。
誰もが目を見開いた議場の真ん中で、クロエは続ける。
「今まで、様々な国で治癒魔法を使用してきました。昨夜、バルクル国で起こった深刻な爆発事故の現場に私はいました。一つの都市が吹き飛ぶほどの大きな爆発です。この場にもその事故の話を聞いた者もいるでしょう」
クロエは席を立ち、議場をぐるりと見渡す。
「何故、枢機卿達はここで私が聖女だと言えないのか、分かる者はいますか?チェリグリーン、あなたはどう?」
教皇選出後国務長官の地位に就き、今現在枢機卿という立場で議場にいるただ1人の男だ。
ほど近い席にいるチェリグリーンに、クロエは尋ねる。
「そうですね…国王陛下におかれまして、魔王として近隣国や信者達に恐れ慄かれることが望まれているのが現状です。魔王として欲する国も多くあるでしょうが、聖女となれば破滅の魔王とは真逆でどこの国も友好的に迎え入れたいはずで、欲する国は桁違いに増える。大陸のあらゆる国を敵に回してまで島内に留まらせるのは不可能に近いことです」
「そうね、私には危険が伴うから保護している。という大義名分が使えなくなる。過去の魔王達や私を悪者に仕立て上げたい輩の代表が枢機卿ということです。今の法では大切な情報が枢機卿だけに共有され、議論されている。そのことに疑問に思う者がいるなら、教皇を目指しなさい。枢機卿になりなさい。上に行かなければ出来ないことはたくさんあるわよ」
クロエは少なからずいる、魔王が神の愛し子だという派に呼びかけた。
神から授けられた魔力が多いと悪者になる。
そんなものは教義に反している。
「この国が私を聖女として認めるのなら、これから教会に巨大な恩恵があるでしょう。認めないのなら、私と大陸を敵に回すと思いなさい」
クロエは枢機卿ではなく、議会に集まった者に伝えた。
あとは、もうこの国が決めることだ。
決別するか、協力するか、どちらが利益になるかは一目瞭然で、最悪明日には島ごと吹き飛ぶ事態も想定されるだろう。
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